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 コラムフィリピンを直撃したスーパー台風:2013年台風30号について

今回のフィリピンを襲った台風30号が甚大な被害をもたらしています。そのメカニズムについて、数値モデルを用いて解析し、今後の予報と災害対応・施策への提言を行うことは重要です。このため今回の台風について以下に解説します。

このたび被害にあわれた皆様に対して心よりお見舞い申し上げるとともに、犠牲になられた方々、ご遺族の皆様に対して深くお悔やみを申し上げます。被災地の一日も早い復興を願っております。

今秋の台風の概況

今年の秋は北西太平洋での台風の発生数が多い。平均的には9月は4-5個、10月は3-4個程度、発生することが知られるが、今年は9月に8個、10月には6個、11月現在(13日)2個発生しており、9月以降現在までの通算では過去最多の記録である。

なぜ、あれほどの勢力で上陸したのか

なぜ今秋に台風が連続的に発生し得たのか、また勢力の強い台風がフィリピンを襲ったのかを分析すると、以下の2つのメカニズムが浮かび上がってきた。ある部分は個数がなぜ多かったかにも関連する要因である。

(1)
フィリピン東側の海域を含む北西太平洋の赤道域での高い海水温と海面下の混合層の持続。このことにより、大気中に含まれる水蒸気の量が増え、台風の発達が促進される。9-10月にかけて赤道域では例年になく水温が高い状態(台風発生の基準と言われる28-29度を満たす状態)が持続している。また、30号が発生した11月上旬においても混合層の高温状態が目立っていた。
そのため、赤道域で発生した台風が勢力を維持したまま北西に進み、フィリピンに接近・上陸し、甚大な被害をもたらす結果になった。
(2)
太平洋の中央にある太平洋高気圧の持続。台風は、この高気圧の西側を沿って日本に向かって来る。今年は(1)で挙げたフィリピン沖の海水温の高温の持続が上昇気流を作り出し、上昇した空気がこの高気圧付近で下降する過程が持続的だった。台風の渦を作るためには、大気中の波や渦などトリガー擾乱が必要である。フィリピン沖の上昇気流の源は、モンスーン低圧部という、いわば低気圧の集合体がフィリピン沖の東側で持続的で東側へ張り出していたことと連動している。

なぜ、高潮はあれほど高くなったのか

高潮は、強風により海水が海岸方向に吹き寄せられる「吹き寄せ効果」と海面の低圧化の効果「吸い上げ効果」から説明できる。前者は風速の2乗に比例して効果が大きくなる。今回の台風30号は、最大瞬間風速90mという今年最強クラスの台風だったため、高潮の被害が大きくなったと考えられる。もう一つの着眼点として、台風の移動速度が比較的速かったことも重要である(通常は熱帯地方では5-6m/sで移動することが多いが、この台風の場合、上陸1-2日前から約9-10m/sで移動した)。したがって被害の大きかったレイテ島など、台風の北東象限における風系にあたる地域では、この移動速度の効果が台風自体の風速の効果とあいまって、海表面の波を内陸まで吹き流し、高潮被害を拡大させたものと推測される。
とくに沿岸低地を直撃し、上で述べたように甚大な高潮被害をもたらすような強力な台風だった点では、1959年9月に伊勢湾沿岸の愛知県・三重県に甚大な被害をもたらした伊勢湾台風と共通している。

今後の台風予報研究と災害施策への提言

上で述べたように、台風の凶暴化をもたらす海水温および海の貯熱量の増加は、地球温暖化に伴い起こる自然現象の筆頭として挙げられる。今年9月に公表されたIPCCの第5次評価報告書においても、海水温は10年あたり0.11度上昇する予測結果がまとめられており、台風を含む熱帯低気圧の勢力は今後も強まると思われる。

台風予測は、発生、経路、強度の三大問題が全て高い精度で可能となることで、はじめて防災対策に必要な定量性、信頼性が確保できる。それを実現するために重要なのは、地球シミュレータをはじめとする大型計算機の発展的運用と、予測に必要な高精度の数値気候モデルであることは言うまでもない。とくにJAMSTECでは、台風予測の鍵となる熱帯気候・気象の再現性に実績をもつモデル群、台風が日本を襲う場合に都市機能がどのように打撃を受けるかの詳細な予測のためのポテンシャルをもつモデルが日々開発され、将来の予測研究発展のために活用されようとしている。IPCC等の関連プロジェクトからの期待も大きい。それらのモデル・予測開発機能を結びつけ、台風を軸にしたモデル予測研究の新領域を開拓していくことが、JAMSTECの台風研究者の目標である。

台風の予測例:2012年8月25日沖縄を襲った
過去最大級の台風15号のシミュレーション結果
BolavenのNICAM3.5km実験(雲水混合比と流れの様子)

モデル NICAM GCSRAM
AICS 複合系気候科学研究チーム, 画像 吉田龍二

地球環境変動領域 次世代モデル研究プログラム 大内 和良