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 コラム西之島の新島出現について

西之島は東京の約1,000km南方に位置する、南北約650m、幅約200mの小さな無人島である。西之島の海岸線から約300m南東沖の海底で噴火が起き、新島が誕生し、現在も成長を続けている(11月22日現在で南北約200m、幅約100m)。西之島も、この新島も、一つの巨大な海底火山(西之島海底火山)の山頂部にあり、山頂部が海面上に姿を現したものである。つまり、火山本体は海面下にある。西之島海底火山は水深2,000mを超える深さから立ち上がっており、底径は東西約40km南北約30kmである(図1)。ちなみに、西之島海底火山の50km北には土曜海山、50km南には海形海山があり、山体の規模はほぼ同様で、どちらも2,000m超級の海底火山であるが、山頂部はまだ水深370m(土曜海山)と162m(海形海山)の海面下にある。
そもそも海底火山は、マントル(注1)で生じたマグマ(注2)が地殻を通して、海底に噴出したものである。海底火山が成長することによって、その山頂部が海面上に現れ、火山島となる。つまり、マグマが、日本の領土と領海を広げていることになる。それでは、マグマはどのようにしてつくられるのだろうか。一般には、地球を掘っていくと、地殻の下には必ずドロドロに溶けたマグマがあると考える人が多い。しかし、それは間違いである。地殻の下には別の岩石(マントル)がある。地下に特別な条件が与えられたとき、マントルが溶けてマグマが発生する。

西之島新島のマグマが発生する特別な条件とは

西之島新島を含む西之島海底火山は、伊豆半島からグアムの近傍まで続く、全長2,800kmの伊豆小笠原マリアナ弧(IBM弧)に属する火山の一つである(図1の伊豆小笠原弧はIBM弧の北部である)。伊豆大島や三宅島、八丈島、青ヶ島なども伊豆小笠原マリアナ弧の火山である。伊豆小笠原マリアナ弧は活発な火山活動で特徴づけられる。なぜだろうか。それは、伊豆小笠原マリアナ弧をふくむフィリピン海プレートに、東から太平洋プレートが沈み込んでいることに原因がある(図1)。まず、太平洋プレート(海洋地殻とその下の上部マントル)が沈み込み帯において沈み込む際に、水(海水)と堆積物を地下深部に運ぶ。ここで、運び込まれた物質にはマントルを溶けやすくする(融雪剤のように、マントルの融点を下げる)性質があるため、地下深く(地下100キロ)の高温高圧下の環境においてマントルが融解し、マグマが生成される。そして、このマグマが上昇することで、海底火山が生み出されると考えられる(図2)。

今後の活動について

伊豆小笠原マリアナ弧において、海底火山は南北に約50km前後の間隔で並んでいる。太平洋プレートは毎年数センチの速さでフィリピン海プレートに沈み込んでいるが、このプレート運動が続くかぎり、マントルが溶けてマグマが発生し、そのマグマは海底に噴出し、海底火山は成長する。よって、西之島新島も将来的には必ず大きく成長すると断言することができるが、注意しなければいけないのは、火山の成長の時間スケールと人間の時間スケールが異なっている、ということである。それぞれの火山は数十万年かけて、噴火と休止を繰り返して、現在の2,000m-3,000mの山体を形成してきた。よって、100年や200年のスケールで人が住めるまでに成長するかどうかは疑問である。100万年を一つの火山の寿命だと考えて、人間の寿命100年に例えてみるとわかりやすいかもしれない。人間にとっての1か月は火山にとっては800年であり、1週間は200年である。また、働き者の人でも夏休みを1か月や1週間とって海外旅行に出かけたりする。火山もしばしば、それくらいの休みを取りながら、しかし確実に成長していく。また、休んでいるように見えても、地下ではマグマが蓄積されていることを忘れてはならない。


図1 伊豆小笠原弧

太平洋プレートは伊豆小笠原海溝からフィリピン海プレートに沈み込んでいる。伊豆小笠原マリアナ弧は海溝に平行に形成される火山島と海底火山の列である。西之島海底火山は東京の約1,000km南方に位置する。


図2 沈み込み帯における地球内部のダイナミクス(挙動)についての概念図

まず、沈み込むプレートから水や堆積物(液体状態のメルト)が上位のマントルカンラン岩に放出される(深さ100q-200 km)。マントルかんらん岩の大部分は固体であるが、水やメルトによって融点が下がり、局所的な融解が起こり、初生(しょせい)マグマ(出来立てのマグマ)が生成する。融解し、初生マグマを含んだマントルかんらん岩は上昇し、深さ30-60q付近で初生マグマを分離する。初生マグマは,地殻内のマグマ溜まりにおいて分化し、溶岩や火山灰となって地表に噴出し、海底火山を形成する。マントルにおける詳細について、初生マグマの解析によって明らかになろうとしている(JAMSTEC11月7日プレス発表)。

(参考)
マントルでできた初生マグマ(玄武岩組成)がどのように分化して大陸地殻(安山岩組成)をつくるかは、地球惑星科学における大きな謎の一つである。伊豆小笠原マリアナ弧の中部地殻(大陸地殻)を地球深部探査船「ちきゅう」の大深度掘削によって採取し、大陸地殻の成因を明らかにしようというプロジェクト(Project IBM)が来年度から開始される。来年度は6ヶ月かけて米国の掘削船ジョイデスレゾリューション号によって伊豆の背弧(IBM-3)、島弧基盤の海洋地殻(IBM-1)、初期島弧地殻(IBM-2)を掘削し、沈み込みの開始から現在までの歴史を明らかにする。その後、「ちきゅう」によって上部地殻を貫通し、中部地殻を採取して分析解析することで大陸誕生の謎に挑む計画が候補に挙げられている。

(注1)
地球は地殻という岩石におおわれており、その地殻の下にはマントルというカンラン石を主体とする岩石がある。地球の半径は6,370kmであるが、地殻の厚さは海洋地域では20km前後に過ぎない。これは、地球を半径1mのボールに例えると、地殻は厚さ3mmに過ぎないことになる。
(注2)
マグマとは岩石物質(ケイ酸塩)の高温溶融体である。つまり高温でドロドロに状態にある。噴火によってマグマが地表に出たものを溶岩という。溶岩は、1)マグマとほぼ同じ溶融状態にあるものを指す場合と、2)溶融状態にあったものが固結して生じた岩石を指す場合、の二通りがある。

地球内部ダイナミクス領域 地球内部物質循環研究プログラム 田村 芳彦