知ろう!記者に発表した最新研究

2010年4月5日発表
地球の中心にかかる高い圧力と高い温度を再現!
新しい装置そうちができた!

地球の内部は、どうなっているのでしょうか。そこは高圧高温(解説1)の世界。そのなぞを解き明かすためには、内部にある岩石や鉄を取り出して調べることが必要です。けれど、地球の半径は、およそ6,400km。地球内部の おく 深くにある岩石や鉄を取り出すことはできません。代わりに、人工的に奥深くの岩石や鉄を作って、それらを調べてきました。その岩石や鉄を作りだせる 装置そうちを、レーザー加熱式ダイヤモンドアンビル装置といいます。ペンの先よりも小さなところに、高圧高温の場を作りだします。そのレーザー加熱式ダイヤモンドアンビル装置は、どこまで圧力と温度を上げて、実際じっさいの地球中心部の状態に近づけるかが大きな課題とされてきました。

「地球中心部を再現できれば、研究が大きく進む。」そう考えた研究者は、新たなレーザー加熱式ダイヤモンドアンビル装置の開発にいどみました。目指すのは364万気圧と5,500℃という、超高圧超高温。研究者は10年にわたって挑戦ちょうせんと失敗をくり返しました。そして今回、ついにその364万気圧と5,500℃の再現に成功したのです!まさに地球中心部に匹敵ひってきする状態。こんなにもすぐれた装置は世界初です。これからは、地球内部のあらゆる物質ぶっしつを人工的に作り出せるようになるので、地球内部の研究がさらに前進します!

地球の中心部はどんなところなの? 圧力は約400万気圧、温度は5,000度以上もあると考えられています

地球の内部は、地殻ちかく、マントル、外核がいかく内核ないかくに分けられます(図1)。中心へ行くほど圧力と温度が高くなり、中心部の圧力は364万気圧、温度は5,000度以上になると考えられています。

島弧のできるしくみ

図1:地球の内部

地球の内部奥深くの岩石や鉄を直接ちょくせつ取り出すことはできません。それなら、「人工的に作って、それを調べよう!」ということで、地球の深い部分の岩石や鉄が人工的に作られ研究されてきました。その岩石や鉄を作りだす装置が、今回のレーザー加熱式ダイヤモンドアンビル装置です。

レーザー加熱式ダイヤモンドアンビル装置ってなあに? 地球内部を再現し、その中でできた鉄がどうなっているのかをエックス線で調べる装置です

まずは言葉の意味からお話ししましょう。レーザー加熱式とは、レーザーをあてて加熱するという意味です。ダイヤモンドは、宝石の1つで地球上でもっともかたいもの。アンビルは英語で台座だいざ(ものを置くところ)です。そして、ダイヤモンドアンビルとは、向き合う2つのダイヤモンドの間に試料しりょうをはさんでぎゅ〜っと押しつけあって圧力を作るところです。 まとめると、レーザー加熱式ダイヤモンドアンビルとは、レーザーで加熱しながら、ダイヤモンドアンビル内に圧力をかけることで高圧高温を再現し、地球内部の岩石や鉄を作りだせる装置です(図2)。

レーザー加熱式ダイアモンドアンビルのしくみ

図2:レーザー加熱式ダイヤモンドアンビルのしくみ

したがって、これを使って作った試料を分析ぶんせきすれば、地球内部を地上でも調べることができます。けれど、地球の中心部はあまりに超高圧ちょうこうあつ超高温ちょうこうおんのため、これまでの装置ではその状態を再現しきれませんでした。「地球中心部を再現できる装置を作りたい」そう考えた研究者は、新たな装置の開発に挑みました。

どんな装置を開発したの? ダイヤモンドアンビルの先を改良したことで、地球中心部の超高圧高温が再現できる装置を作りました

その装置の開発にあたって、研究者は実に10年もの間、様々な工夫をこらしました。中でも特にこだわったのは、ダイヤモンドアンビルの先っぽです。ダイヤモンドアンビルをただ強くおしつけあうだけでは、超高圧は作れません。面の形によって圧力は変わりますし、2つの面をできる限り同じ形にして、さらにベストの位置に合わせないと、ダイヤモンドがれてしまいます(図3)。また、それらの面は完全に平行にしないと、圧力をかけているとちゅうで部品がこわれてしまいます。今回は、ダイヤモンドアンビルの先っぽを直径0.04mmまで細くしました。

実験の失敗例

図3:実験の失敗例

さらに、試料にも工夫をこらし、直径0.02mmで0.005mmまでうすくした鉄の板を用意しました(図4)。

実験用の鉄の板

図4:実験用の鉄の板

0.02mmとは、どれくらい小さいのでしょう。みんなのかみの毛の太さは、約0.06mm。つまり、ダイヤモンドアンビルの先っぽも鉄も、このかみの毛よりもずっと細くうすいのです(図5)!

大きさくらべ

図5:大きさくらべ

研究者は、このようにして開発したレーザー加熱式ダイヤモンドアンビル装置を使って実験し、その状態を「スプリングエイト」 という実験じっけん施設しせつ でエックス線をあてて分析しました(図6)。(解説2

今回使ったダイヤモンドアンビル

図6:今回使ったダイヤモンドアンビル

研究者が真剣しんけんなまなざしで実験に取り組む中…ついに圧力は364万気圧、温度は5500度を達成しました! (解説3)この圧力がどれくらいか想像できますか?なんとみんなの手のひらに東京タワーが100本のるくらい!

これからはどうするの? 地球の中心部にある鉄を人工的に作りだして、地球の歴史を明らかにします

今回の開発によって、地球の中心部の超高圧超高温を作りだすことが可能になりました。つまり、地球内部のあらゆる物質を、地表で作れるようになったのです。
地球内部の鉄には、水素すいそ炭素たんそ酸素さんそなどが10%くらいふくまれていて、それらは地球が誕生たんじょう した時に取りこまれたと考えられています。研究者は今後、鉄に水素や炭素、酸素などをまぜあわせてその内部の鉄を作りだそうと考えています。その鉄を分析すれば、地球がどのようにして形成されてきたのかがわかるでしょう。研究者は、小さな超高圧超高温の場から、地球というダイナミックななぞを解き明かすために、今日も実験室でがんばっています。

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解説が入る

解説1:高圧高温

高い圧力と高い温度という意味です。

解説3:「スプリングエイト」

神戸にある世界最大の大型放射光施設といわれる実験施設です。放射光とは、赤外線、可視光、紫外線、ガンマ線、エックス線、すべての光のことです。物質科学・地球科学・生命科学・環境科学・産業利用などの分野で優れた研究成果をあげています。

解説3:

これまでの記録は、300万気圧・1700度で、これもこの研究グループが2005年に達成したものです。