知ろう!記者に発表した最新研究

2010年11月8日発表
海底の微生物びせいぶつの生き方、新発見!
仲間の体をリサイクルする!

きびしい環境に生きるアーキア

図1:きびしい環境に生きるアーキア

様々な生命が息づく地球。その表面積70%をおおう海の下のどろの中を少しもぐると、そこにはアーキアと呼ばれる微生物の世界が広がっています(図1)。そのアーキアは、地球上の生命の量のうち大きな割合わりあいをしめますが、実はまだまだなぞばかりです。

  

そこで研究者は、アーキアの体のなぞを解き明かそうと、アーキアを育てる装置そうちを世界で初めて開発しました。そして、その装置を海底に設置せっち して アーキアを育て、その細胞膜さいぼうまくの成分を分析ぶんせきしました。その結果、アーキアは、仲間が死んだあと海底のどろにのこした成分をリサイクルして自分に取りこみ、体の一部にしていたことをつき止めたのです。 

海底は日光もとどかず栄養分のとぼしいところ。リサイクルをすれば、エネルギーを節約できます。きびしい環境で生きていくために、アーキアはこのようなリサイクルして生きる方法を進化させたと考えられます。  研究者は今後も研究を続けて、アーキアの生きるスピードなども明らかにする予定です。「この研究を発展はってんさせれば、地球全体の炭素循環たんそじゅんかん解説 )の理解が進み、また有害物質を分解する成分の開発などにも役立つ」と研究者は話しています。

アーキアってなに? 海水中や海底の泥の中でくらす微生物です。

アーキアのサイズは、1-10μmで、目には見えません。世界中の平均でいうと、海底の泥を1mももぐると、そこに生きる微生物の87%はアーキアです。海底から熱水をふき出す 熱水噴出孔ねっすいふんしゅつこう (参考:2009年9月10日発表)や塩分の高い海などにもいます(図2)。

きびしい環境に生きるアーキア

図2:きびしい環境に生きるアーキア


そんなきびしい環境にも適応てきおうして生きることができる理由は、アーキアの細胞は外からの影響えいきょうを受けにくいという特徴とくちょう を持っているから。その細胞をおおう細胞膜は、グリセロールとイソプレノイドという成分でできています(図3)。

アーキアの細胞

図3:アーキアの細胞

海底の泥の中のアーキアの量は10億トンにも上ると考えられ、生き物の中でも最大の割合をしめるといえます。けれども、アーキアが海底の泥の中でどうやって生きているのかは、実はまだよくわかっていません。そこで研究者は、アーキアのなぞを解き明かそうと研究を始めました。

どんな実験をしたの? 相模(さがみ)湾(わん)の海底でアーキアを育てて、その細胞膜の成分を調べました
開発した装置

図4:開発した装置

まず研究者は、世界で初めて海底下でアーキアを育てる装置を開発しました。その装置は、高さ30cmの透明とうめいなアクリルのつつでできていて、筒の上から化学的に印をつけたグルコースをまくようになっています(図4)。


無人探査機ハイパードルフィンを使って、装置を相模湾の水深1453mの海底に設置し、装置の中にグルコースをまいてアーキアを育てました(図5)。

実験方法

図5:実験方法


どうしてグルコースをまくかというと、グルコースはアーキアの“エサ”なのです。もし、アーキアがグルコースを食べて体の一部にすれば、グルコースには印が付いているので、グルコースでつくった体の部分には印がのこります。反対にグルコースを食べなければ、体に印はのこりません。グルコースの印が、どこにどれだけあるのかを調べれば、海底下のアーキアの生き方がわかる、ということなのです。

装置を海底に設置してから数日〜405日後、研究者は泥のつまった筒を1本ずつ取り出しました。

どんな結果がでたの? アーキアは、仲間がのこした成分をリサイクルしていたのです

研究者は、アーキアの細胞膜の成分であるグリセロールとイソプレノイドを装置の泥から取り出しました。そして、それぞれの成分に、グルコースの印がのこされているか確認しました。

その結果、グリセロールにはたくさんの印がありましたが、イソプレノイドにはありませんでした(図6)。グルコースは、グリセロールを作るためには使われたのですが、イソプレノイドを作るためには使われなかったのです。

結果

図6:結果

では、どうやってイソプレノイドは作られるのでしょう。さらにくわしく分析ぶんせきしたところ、アーキアのまわりの泥にあったイソプレノイドを取りこんでいたことをつきとめました(図7)。その泥の中のイソプレノイドは、かつて生きていたアーキアの仲間や先祖がつくったもの。そのアーキアたちが死んで泥の中にのこしたイソプレノイドを、今生きているアーキアがリサイクルして、細胞膜にしていたのです。

リサイクルするしくみ

図7:リサイクルするしくみ

リサイクルをすればエネルギーを節約して、効率こうりつ良く生きることができます。海底下は、陸上とちがって日光はとどかず栄養分もとぼしい環境。そんなきびしい環境で生きていくために、アーキアはリサイクルして生きるという独特どくとく代謝たいしゃを進化させたと考えられます。

また、これまで、アーキアの生きるスピードは非常にゆっくりだと考えられてきました。けれども今回の発見によって、実は活発に生きている可能性が示されたのです。

これからはどうするの 地球全体の炭素循環を理解することなどに役立てます

研究者は、イソプレノイドをさらにくわしく調べて、アーキアの成長のスピードなどを明らかにしようと思っています。今回の発見によって、地球全体の炭素循環の理解が進むでしょう。また、有害物質を分解する成分の開発への応用などが期待されます。

一方、もう1つの大きな「かぎ」は、細胞膜の成分の中にあるグルコースの印を追うことを可能にした「有機化合物ゆうきかごうぶつの分子内の同位体比どういたいひを追う」という技術です。今回の研究によって、その精度せいどの高さと確実性かくじつせいが証明されました。この先端せんたんを行く技術を発展させれば、食品の産地偽装さんちぎそうをふせいだり、環境をモニタリングしたり、薬の検定に用いてドーピングをふせいだりする技術にもつながるでしょう。研究者は、「これは、微生物の研究だけではなく、様々な分野でも役立つ技術だ」と話しています。

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解説:炭素循環

炭素は、人間のからだをつくったり、エネルギーとなったりするなど、生命にとって重要な役わりを果たしています。一方で、地球温暖化の原因でもあります。その炭素は、地球上の大気、水、陸上、生物の間でたえず交換されてめぐるので、炭素がどこで、どのように、どれくらい循環しているかを知ることは重要です。