知ろう!記者に発表した最新研究

2014年12月16日発表
くり返し地震(じしん)のゆらぎ、再現(さいげん)成功(せいこう)
くり返し地震を手掛(てが)かりに地震発生メカニズムの理解(りかい)が大前進!

同じ震源(しんげん)で同じ規模(きぼ)定期的(ていきてき)に発生する地震のことを「くり返し地震」と()びます。そのくり返し地震が発生する場所の1つが、釜石(かまいし)(おき)です(図1)。マグニチュード(M)4.8クラスの地震が約5年おきに発生してきました。

図1 釜石沖で発生するくり返し地震の震源

図1 釜石沖で発生するくり返し地震の震源

 

ところが2011年3月11日に発生した東北地方(とうほくちほう)太平洋(たいへいよう)(おき)地震(じしん)直後に、地震が多発したのです。その震源(しんげん)規模(きぼ)、発生間隔(かんかく)はバラバラで、くり返し地震が 一時的(いちじてき)(みだ)れる「ゆらぎ」であると研究者は考えました。

このたび、そのくり返し地震のゆらぎを再現するシミュレーションに 成功(せいこう)し、地震発生メカニズムの 理解(りかい)が大きく前進しました。いったいどういうこと? 有吉(ありよし) 慶介(けいすけ) 博士(はかせ)による研究を紹介(しょうかい)します!

くり返し地震って、どうやって発生するの?

地球上で巨大(きょだい)地震を引き起こす場所の1つに、 大陸(たいりく)プレートの下に海洋プレートが(しず)みこむプレートの境目(さかいめ)があります。

「大陸プレートは、海洋プレートに()きずり()まれ、たえきれなくなった時に大陸プレートがすべって地震が発生する」(図2)という(せつ)を聞いたことがある方がいるかもしれませんね。

図2 プレートの境目で発生する地震のメカニズム

図2 プレートの境目で発生する地震のメカニズム

 

今回は、このメカニズムをもっとくわしく見ていきます。

実はプレートの境目(さかいめ)はどこもぴったり()()いているわけではなく、場所によりくっつきが強い部分と弱い部分とがあります。 その理由は、(りく)と同じように海底(かいてい)(海洋プレートの表面)にも山(海山)があり、大陸(たいりく)プレートの下に(しず)みこんでいく(さい)、山のでっぱりが引っかかり(つづ)けると、上の大陸プレートとかたくくっつくことがあるためです(図3)。そのくっついた部分を「アスペリティ」と呼びます。英語(えいご)で「でっぱり」(凸)を意味します。アスペリティはその場所の温度や圧力(あつりょく)などの影響(えいきょう)で、かたいけれど、こわれると一気につるんとすべり、でも止まると(ふたた)びくっつく性質(せいしつ)があると考えられています。たとえると氷のようなイメージです。反対に、アスペリティのまわりは粘土(ねんど)が多くぬるぬるしていて、すべりやすいと考えられています。

図3 アスペリティのでき方

図3 アスペリティのでき方

     

大陸プレートの下に海洋プレートが沈み込んで行くとき、アスペリティのまわり(くっつきが弱い部分)では海洋プレートが沈んでいきますが、アスペリティではひっかかるため徐々(じょじょ)に「ひずみ」がたまります(図4)。そのひずみが限界(げんかい)(たっ)したとき、アスペリティが一気にすべります。地震発生です。アスペリティの大きさにより、地震の規模(きぼ)や発生間隔(かんかく)()わります。

図4 アスペリティが引き起こす地震(ま横から見たとき)

図4 アスペリティが引き起こす地震(ま横から見たとき)

   

アスペリティが日本周辺(しゅうへん)に数多くある中、(ほか)から(はな)れてぽつんと位置(いち)するアスペリティが、くり返し地震を引き起こす正体です。(ほか)から距離(きょり)があるため、(ほか)がすべっても影響を受けません。ひずみがたまって一気にすべって、再び上の大陸プレートとくっついて、がほぼ同じ規模で定期的(ていきてき)に発生し、くり返し地震が起きるのです。

こうして発生するくり返し地震の1つが、釜石沖のくり返し地震です。

なぜ、今回の研究をしたの?

釜石沖でくり返し地震を引き起こすアスペリティは直径(ちょっけい)1kmほどの大きさで、海底から約50kmの深さにあります(図5)。

図5 釜石沖のアスペリティ(東北大学の内田直希氏らの研究成果をもとに作成)

図5 釜石沖のアスペリティ(東北大学の内田 直希(なおき) ()らの研究成果(けんきゅうせいか)をもとに作成(さくせい)

   

M4.8ほどの地震を(やく)5年おきにくり返してきました。しかし2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震直後、1年間で7回もの地震が発生したのです。震源も規模も、発生間隔もバラバラ。くり返し地震が乱れる「ゆらぎ」です(図6)。

図6 くり返し地震のゆらぎ

図6 くり返し地震のゆらぎ

 

いったいなぜ? 多くの研究者が、「これまで未発見だったたくさんのアスペリティがすべったのだろう」と考えました。そんな中で()(とな)えたのが、今回の研究者、有吉博士です。

「もしそこにアスペリティがたくさんあったのなら、ふだんから地震が多く発生するはず。でも実際(じっさい)には、東北地方太平洋沖地震の直後しか発生していない。」と有吉博士。 考えた仮説(かせつ)は、「このあたりに存在するアスペリティはやっぱり1つ」です(図7)。

図7 有吉博士の仮説

図7 有吉博士の仮説

   

同時に注目したのが、「()(こう)すべり」です。余効すべりとは、巨大地震の名残(なごり)の、ゆっくりとしたすべりです。東北地方太平洋沖地震では、海溝(かいこう)近くで約50mもすべりました(図8)。すべりの(いきお)いは弱まっていくものの、広く(つた)わります。 やがて名残の余効すべりとなり、ゆっくりと伝わっていくはずです。その余効すべりが釜石沖まで達して、アスペリティに影響を与え、くり返し地震にゆらぎが生じたのではないかと、有吉博士は考えたのです。

図8 東北地方太平洋沖地震で観測されたすべり

図8 東北地方太平洋沖地震で観測されたすべり

     

それを確かめるべく、有吉博士が研究を始めました。

 
どんな研究をしたの?

有吉博士は、スーパーコンピュータ「地球シミュレータ」を使ったシミュレーションに (いど)みました(写真1)。

写真1 スーパーコンピュータ「地球シミュレータ」。シミュレーションのための膨大な計算を超高速にこなします。

写真1 スーパーコンピュータ「地球シミュレータ」。シミュレーションのための膨大な計算を超高速にこなします。

     

どんなシミュレーションかというと、まず、これまでの研究データに(もと)づき、プレートの境目(さかいめ)状態(じょうたい)図9のように設定(せってい)しました。

図9 シミュレーションで設定したプレートの境目の状態

図9 シミュレーションで設定したプレートの境目の状態

 

大きな青丸は、M7クラスの地震を引き起こすアスペリティです。東北地方太平洋沖地震に相当するM9の地震が発生する大きさのアスペリティを設定(せってい)することも考えましたが、M9が発生する 確率(かくりつ)は1000年に1度です。今回は、日本各地(かくち)の地震研究に 応用(おうよう)できるように、比較的(ひかくてき)発生しやすいM7としました。3つの小さな青丸は、M4クラスのくり返し地震を引き起こすアスペリティです。有吉博士は自分の仮説を確かめるためバラバラのアスペリティではなく、「1つのアスペリティ」を、大きなアスペリティから 距離(きょり)()えて3箇所設定しました。

まわりの赤い部分は、プレートのくっつきが弱い部分です。ここでは海洋プレートが矢印(やじるし)の方向に沈みこんでいきます。赤が()いほどすべりやすく、うすいほどすべりにくい性質(せいしつ)です。

プレートの境目をこのように設定して、海洋プレートを数百年スケールで沈み込ませていった時、アスペリティでは何がおきるのか、ゆらぎはみられるのか。数百年スケールで海洋プレートを沈み込ませていきました。

結果はどうだったの?

シミュレーションの結果(けっか)、有吉博士は、3点の小さなアスペリティのうち真ん中のアスペリティで、くり返し地震のゆらぎを確認しました。


動画 シミュレーション結果

 

何が起きているかというと…。

小さなアスペリティがふだんくり返し地震が発生しているときは、その小さなアスペリティの中心だけで地震が発生していて、まわりはぬるぬるすべっていました(図10)。

図10 くり返し地震が発生するふだんのアスペリティ

図10 くり返し地震が発生するふだんのアスペリティ

 

ところがM7の地震が発生して余効すべりが 通過(つうか)した瞬間(しゅんかん)、小さなアスペリティが 全体的(ぜんたいてき)にすべってM5の地震が発生したり(図11-1)ちがう場所がすべってM3の地震が発生したりしたのです(図11-2)。そして、時間がたつと、やがて元のくり返し地震を発生させる状態に (もど)りました(図11-3)。

図11 シミュレーションで確認された現象

図11 シミュレーションで確認された現象

 

まとめると、くり返し地震の震源では、ふだんは小さなアスペリティの中心だけでくり返し地震が発生しています。しかし巨大地震が発生して余効すべりが通過すると、アスペリティ全体がすべって地震が多発します。そして時間がたつと、元の状態に戻るのです。

さらに有吉博士は、立て続けに発生した地震の震源が、余効すべりの方向と一致することに気づきました。

ならば釜石沖で一時的に多発した地震の震源のゆらぎも、余効すべりに沿っているはず。有吉博士が調べると、図12に丸で(しめ)震源(しんげん)が、東南東から西北西にゆらいでいました。まさに、余効すべりがこの方向に進んだと考えられます。

図12 左:釜石沖で確認された震源(o)のゆらぎ 右:余効すべりの方向

図12 左:釜石沖で確認された震源(Ο)のゆらぎ 右:余効すべりの方向

 
これからはどうするの?

今回、東北地方太平洋沖直後に発生した釜石沖のくり返し地震のゆらぎは、1つのアスペリティ内で起きたこと、そしてそれは余効すべりの影響であることを、シミュレーションで 再現(さいげん)することに成功(せいこう)しました。さらに、くり返し地震のゆらぎを手がかりに、余効すべりの進む方向をとらえられることがわかりました。

日本周辺には数多くのアスペリティが 存在(そんざい)します。有吉博士は、「余効すべりがどの方向に進んでいるのか具体的(ぐたいてき)にわかれば、どのアスペリティが危険(きけん)なのか事前に予測(よそく)する上で役立つ」と話します。

さらにこうした研究は、東北地方太平洋沖だけではなく、今後発生すると考えられる東南海、南海地震(なんかいじしん)の研究にも応用(おうよう)できると期待されます。

写真2 学生時代から地震の研究を続けている有吉博士

写真2 学生時代から地震の研究を続けている有吉博士

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