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はじめに

 私たちは、2001年12月から海中の天気を予測する実験を始めました。その前に、1997年12月に「日本沿海予測可能性実験:JCOPE」が、当時「地球フロンティア研究システム」と呼ばれ、宇宙開発事業団と海洋科学技術センターによって共同運営されていた地球変動予測研究計画のもとで始められていました。海中天気の予測はJCOPEの成果のひとつとなっています。現在、JCOPE海中天気予報システムは、入手できる限りのすべての水温、塩分海洋観測データと、衛星の海面水温や高度データをもとに定期的に予測を行なっています。もともと、JCOPEは、「大気の場合は、天気予報があってその延長のうえで気候の予測が行われている。海洋も、日々の予報とその観測による検証によって改良される、海中の天気予報の営みがあって、それとの連携のもとに気候の予測を行うようにすれば、気候の予測精度向上に貢献するに違いない」という、山形俊男・気候変動予測研究領域長(当時)の強い意思のもとに始められました(山形、2001)。予測実験を積み重ねていくうちに、海中天気予報そのものに様々な応用の可能性があることが見えてきました。例えば、水産総合研究センター(FRA)との共同研究では、JCOPEの初期の予報システムを漁海況予報に適用する試みを行いました(FRA-JCOPE; 宮澤他、2008)。現在では、海洋研究開発機構の中期計画のもとで、さらに改良した予報システムJCOPE2(Miyazawa et al., 2009)を運用しながら研究を進めています。

Satellites/ARGO/Ships
海中の天気とは

 過去10年以上にわたる人工衛星による連続観測によって、日本の南では、中規模渦と呼ばれる、数ヶ月周期で変動する、数百kmの大きさをもった渦が活発に生じていることがわかりました(図1)。中規模渦活動は日本の南から東にかけて、黒潮がある海域と、台湾の東の亜熱帯前線と呼ばれる海域で活発に生じています。一方、黒潮の流軸変動をくわしく観測すると、数ヶ月の間隔で流軸の位置が大きく変動することがわかっています。図2は四国沖での黒潮流軸の変動の観測結果を示したものです。四国沖で生じている流軸変動のうちあるものはさらに流下し、紀伊半島の東で黒潮の蛇行をひきおこします。最近の研究では、中規模渦と黒潮の流軸変動がお互いに関連しあっていることが明らかになっています。私たちは、こうした中規模渦と黒潮の流軸変動を海中の天気であると考え、その予測実験を行なっています。

過去の予測実験の例

 実際の予測実験を行う前に、過去のいくつかの事例を対象にして予測再現実験を行いました。図3はその結果を示したものです。左側は海上保安庁による流軸推定図、右側は予測実験結果(海面水位)を表わしています。人工衛星TOPEX/Posedionによる海面水位(高度)観測結果を、海洋循環モデルと呼ばれる海洋の物理変動を計算するプログラムに導入し、予測出発時点での渦をモデル内部に表現しておいて計算すると、これらの渦が黒潮に影響を及ぼすことにより黒潮が2-3ヶ月後に蛇行することが予測できました。このような変動の予測は、モデルや観測の誤差の増加により、ある時間たつと現実を再現できなくなってしまいます(予測可能性の限界)。初期の状態を少しずつずらして予測を何通りも行うことで予測のばらつきを表現し、予測を始めてから、ばらつきが急激に大きくなるまでの期間を予測可能な期間であるとみなし評価した結果、1999年の黒潮蛇行予測実験の事例では、予測開始以後50日で予測のばらつきが増大し、80日では予測結果が大きく異なる結果となりました。これにより、黒潮の流路変動の予測については50-80日くらいが予測可能性の限界となることが示唆されます。

モデル

 いま用いている海洋循環モデルは、世界的によく使われている共用モデルのひとつであるプリンストン大学海洋モデル(POM/POMgcs)を基盤として開発しました。北西太平洋を計算範囲とする、1/12度(10km弱)の比較的高解像度の格子モデルを、北太平洋全体を計算対象とする粗い格子モデルの中に埋め込んで計算しています(図6)。高解像度モデルは、中規模渦や黒潮の流路変動に対応する海面水位変動を人工衛星の観測に見合うように再現することができています(図7)。

海表面の駆動力

 モデルは、風応力および、熱、淡水(塩分)の海表面における交換によって駆動されます。風応力および熱交換は米国の天気予報システムであるNCEPGFSの予報結果を用いてバルク公式と呼ばれる変換式によって計算しています(Kagimoto et al., 2008)。塩分については、海表面で月平均の統計値(気候値)に近づくように調節しています。

観測データ

 高解像度モデルは、観測データをモデル内に取り込むこと(データ同化)により、現実の黒潮や中規模渦の位置や大きさを表現するようにしています。用いている観測データは、衛星海面高度データ、衛星海面水温、および現場水温塩分データの3種類です。

予測実験

 モデルは、観測データによって初期状態が修正された後、月平均気候値の風応力及び熱交換によって駆動されます。海中天気予報の場合、海表面での駆動力よりも、初期状態に含まれる海中深い場所での海況が予測を左右することになります。JCOPE2は、週に1度、金曜日に初期状態を更新し、2ヶ月先までの予測を行っています。

参考文献

Kagimoto, T., Y. Miyazawa, X. Guo, and H. Kawajiri, 2008: High resolution Kuroshio forecast system -Description and its applications-, in High Resolution Numerical Modeling of the Atmosphere and Ocean, W. Ohfuchi and K. Hamilton (eds), Springer, New York, 209-234. 宮澤泰正, 小松幸生, 瀬藤聡, 2008: 数値海況予測システムJCOPE2による黒潮・親潮混合域の再現性, 海と空, 84, 85-91. Miyazawa, Y., R. Zhang, X. Guo, H. Tamura, D. Ambe, J.-S. Lee, A. Okuno, H. Yoshinari, T. Setou, and K. Komatsu, 2009: Water mass variability in the western North Pacific detected in a 15-year eddy resolving ocean reanalysis, J. Oceanogr., 65, 737-756. 山形俊男, 2001:「予測する海洋学の時代へ」, 海洋開発ニュース, 29, 2-3. http://www-aos.eps.s.u-tokyo.ac.jp/~yamagata/kaiyogaku1.jpg

問い合わせ先

国立研究開発法人 海洋研究開発機構
アプリケーションラボ
グループリーダー 宮澤 泰正