リオグランデ海膨八景

2013/04/16

YK13-04 Leg1首席研究者
北里 洋(海洋研究開発機構 海洋・極限環境生物圏領域)

首席研究者の北里です。 この航海の研究目的について、ご紹介しようと思います。

Leg 1では、リオグランデ海膨とサンパウロ海嶺という南大西洋にそびえる巨大な海山群に潜航します。どちらの山も、地学的な興味と生物学的な興味があります。

リオグランデ海膨は、直径1000キロにもなる深海底からそびえる巨大な高まりです。しかし、それがどのようにして作られたのかはまだ謎が残っています。成因には二つの説があります。一つは、大西洋の真ん中にあるホットスポットの活動に関連してできたという考え方です。ホットスポットとは、地球内部のマントルと核の境界付近から湧き上がる熱プルームのうち、地質時代を通じておなじ場所に上がっているものを言います。その場所は常に火山活動があることになりますので、熱い点、ホットスポットと呼んでいます。南大西洋ではセントヘレナ島が大西洋中央海嶺上のホットスポットです。このホットスポットで作られた島は、大西洋の拡大に伴って移動し、アフリカ側にはウォルビス海嶺が作られてゆきます。大西洋中央海嶺を挟んで南アメリカ側の対象的な位置にリオグランデ海膨がありますので、この海膨もホットスポットでできたと考えられ、実際、海洋地殻の特徴を示す玄武岩が採れています。

一方、リオグランデ海膨の西よりの山(アルファ)から大陸地殻に特徴的な岩石である花崗岩の岩塊が複数箇所で採集されています。もしも花崗岩がリオグランデ海膨に由来することになると、リオグランデ海膨は、中生代に南アメリカとアフリカが割れて大西洋を作りながら拡大した時のパンゲア大陸のかけらであるということになります。

リオグランデ海膨には山体の中心を東西に横切る凹地があり、両側に高さ数千メートルの崖があります。この崖の麓に潜航し、山の芯にあたる部分の岩石を採取すると、この海膨の成因に迫るヒントを得ることができると考えています。

生物学的にもいくつかの研究ターゲットがあります。なにしろ、リオグランデ海膨は、大陸縁辺生態系、海山生態系、大西洋中央海嶺生態系、湧水に伴う化学合成生態系、南極-北極生態系、など、いくつもの海洋生態系が関係する複合生態系と言ってよい場所です。ブラジルの研究者が持っている情報や地形などに基づいて、いくつかのハビタット(生息場所)を取り出すことができます。海底湧水を示唆するポックマークと泥火山、深海サンゴの庭園、螺旋成長するサンゴの群落、蛍光を発するサンゴの花畑、生物源軟泥、マンガンでコーティングされた硬い海底、岩石が露出する急崖などです。ちょうど8つですので、「リオグランデ海膨八景」というべき、面白い海底景観が見られそうです。これらのハビタットごとの生物群の特徴、深度方向の住み分けと大西洋の深層水塊との関係、他の地域との比較、その適応生態などを明らかにすることが潜航の目標になります。

サンパウロ海嶺については明日のレポートでご紹介します。