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「しんかい6500」研究航海 YK17-10 レポート

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YK17-10調査潜航

2017/5/13 - 5/27

『YK17-10航海レポート』
潜水船に取り付けた刺し網
写真1:潜水船に取り付けた刺し網
「しんかい6500」潜航前の様子。ニスキン採水器8本とウナギ捕獲用の刺し網が取り付けられている。サンプルバスケットの上下に取り付けられた刺し網で、潜水船がブルドーザの様な格好となった。残念ながらウナギの捕獲はできなかった。

2017年5月13日から5月27日にかけて西マリアナ海嶺海域で「ウナギの産卵生態の解明」を目的に調査航海を実施しました。5月13日横須賀港を出港し、西マリアナ海嶺に向かいました。5月16日の深夜には調査海域に到着し、まずはXCTD計測が開始されました。XCTDとは、船上からセンサを投入することで海域の鉛直方向の深度に対する電気伝導度と水温が計測できる装置です。XCTD計測は、2日間かけて広い調査海域の北端から南端までの約660kmにわたり等間隔で17地点計測され、その結果から塩分フロント(ウナギの産卵場所に適した海域)が選定され、調査海域が絞り込まれました。5月19日からは、その海域を重点的に日中は「しんかい6500」による潜航調査を夜間は「よこすかディープ・トウ(以下、YKDTという)」による曳航調査を5日間繰り返す調査が始まりました。【写真1】

これまでの研究でウナギの産卵行動は、新月前の数日間に起こることが分かっています。潜航調査が開始された5月19日から24日は、まさにそのタイミングでした。新月を基準に6日間という限られた期間に24時間体制での集中的な調査が行われたのです。

2012年7月にも同様なウナギの調査航海(YK12-11)が行われましたが、今回は環境DNAという手法が新たに加わりました。これは、採取した海水試料中に含まれる生物の組織片や排泄物に付着した細胞片等から特定の生物の存在の有無を判断するものです。そのためYKDTは、夜間5回の曳航調査による観察調査に加え、鉛直方向の採水作業も調査海域内の7か所で実施しました。

ORIネット作業風景
写真2:ORIネット作業風景
ウナギ産卵後のタマゴ捕獲を目的としたORIネット曳網調査。大きなネットを着水させている作業風景。黄色いヘルメットが「よこすか」乗組員で白のヘルメットが運航チーム。母船乗組員と共同で2昼夜にわたり18地点で調査を実施した。

潜水船やYKDTの潜航調査と並行して「よこすか」船上では、YKDTにより採取された海水試料の環境DNA解析が進められました。その結果、調査海域の中心付近でニホンウナギの環境DNAが続々と検出され、当海域内にニホンウナギが生息していることは間違いないことが確認されました。この環境DNA結果から潜航ポイントや調査深度などを絞りつつ調査が進行しました。

新月を過ぎた5月24日の夜間から26日早朝までは、昼夜を問わず18か所のORIネット曳網調査を実施しました。これはウナギの産卵後の卵を採取し、産卵状態の解析や卵の分析等を目的としたものです。【写真2】

今回の調査は、新月を基準とした短期間に連日24時間体制での調査が実施され、普段の調査航海にも増してハードな調査でしたが、台風などの影響もなく安定した海況の中、順調に調査することができました。「しんかい6500」やYKDT調査で得られた映像データは、計5台のカメラで約400時間を超すものとなっています。潜水船やYKDTで採取された採水試料やORIネット曳網調査で得られたサンプル等は、今後も映像解析や採取試料の分析が進められるでしょう。

無事に調査航海を終えた「よこすか」は、寄港地サイパンへ向け調査海域を離脱しました。

『大活躍!「よこすかディープ・トウ」』
YKDT採水仕様
写真3:YKDT採水仕様
夜間の曳航調査開始を待つYKDT。YKDT本体の下部に取り付けられたスキッドにニスキン採水器を16本搭載した。通常海底を観察するため下向きに取り付けられるTVカメラをウナギ観察用に全て進行方向(船首)に向け取り付けた。
YKDTオペレーションルーム
写真4:YKDTオペレーションルーム
母船「よこすか」のYKDTオペレーションルーム。光電気複合ケーブルで送られてくるYKDTの映像を研究者と一緒に観察する。
YKDTに搭載したニスキン採水器は、研究者の指示によりこの部屋から任意の深度で作動させる。採水器の作動を映像で確認できるため採水の信頼性が高い。

「しんかい6500」運航チームは潜水船の他、深海巡航探査機「うらしま」や「よこすかディープ・トウ」(YKDT)の運用も行っています。

今回のYK17-10調査航海では、規定により夜間の潜航ができない「しんかい6500」に代わりに夜間の調査をカバーすべく、YKDTが使用されました。

また当調査では、ニホンウナギの環境DNA調査が計画されていたためCTD採水器と採水器用ウィンチの母船「よこすか」への搭載も検討されましたが、洋上で行う潜水船からYKDTへの艤装作業の妨げになるためそれらを搭載するスペースがないことが判明しました。

そこで提案されたのが、YKDTによる採水作業です。一般的にディープ・トウは、光電気複合ケーブルで吊るされ、調査船で曳航しながら海底のTVカメラ観察や写真撮影を行う調査を主としますが、YKDT本体下部にスキッド(ソリ状のフレーム)を抱かせることで多様な観測機器を搭載することができます。【写真3】

今回は、スキッドにニスキン採水器(12リットルボトル)を16本とCTDセンサを搭載し、CTD採水器の役割も果たしました。YKDTには、8個のトリガ(駆動機構)が設けられており、「よこすか」船上のYKDTオペレーションルーム【写真4】でトリガスイッチを作動させ任意の深度8か所でニスキン採水器(×2本)の蓋を閉められる仕様に組み上げました。

YKDTにとってこれほど多くの採水器を搭載した調査は、初めての試みでしたが、「よこすか」船上でモニタを見ながらニスキン採水器が確実に閉じる様子も確認でき、YKDTに新たな調査手法が加わった調査だったと感じました。

今回のYKDTは、夜間の曳航調査によるウナギ探索とCTD採水器の代役と一機二役の大活躍でした。

【潜航情報】
    5月19日 No.1492DIVE
  • 潜航海域:西マリアナ海嶺海域
  • 観察者:三輪 哲也(JAMSTEC)
  • 船長:大西 琢磨
  • 船長補佐:西郷 亮
    5月21日 No.1493DIVE
  • 潜航海域:西マリアナ海嶺海域
  • 観察者:黒木 真理(東京大学)
  • 船長:千田 要介
  • 船長補佐:植木 博文
    5月22日 No.1494DIVE
  • 潜航海域:西マリアナ海嶺海域
  • 観察者:塚本 勝巳(日本大学)
  • 船長:千葉 和宏
  • 船長補佐:大西 琢磨
    5月23日 No.1495DIVE
  • 潜航海域:西マリアナ海嶺海域
  • 観察者:渡邊 俊(近畿大学)
  • 船長:千田 要介
  • 船長補佐:西郷 亮
    5月24日 No.1496DIVE
  • 潜航海域:西マリアナ海嶺海域
  • 観察者:塚本 勝巳(日本大学)
  • 船長:植木 博文
  • 船長補佐:千葉 和宏
【航海情報】
5月13日
研究者14名乗船、横須賀出港、西マリアナ海嶺海域向け発航
5月14日
西マリアナ海嶺海域向け回航
5月15日
西マリアナ海嶺海域向け回航
5月16日
西マリアナ海嶺調査海域到着、MBES広域地形調査開始(定常観測)
塩分フロント確定のためのXCTD計測開始1点目(X23)
5月17日
XCTD計測11点(X22~X12)
5月18日
XCTD計測5点(X11~X7)、MBES事前調査
5月19日
調査潜航(第1492回)、艤装替え6K⇒DT
YKDT曳航調査(第186回)
5月20日
YKDT採水作業(第187回)、YKDT採水作業(第188回)
YKDT採水作業(第189回)、YKDT採水作業(第190回)
YKDT採水作業(第191回)、YKDT曳航調査(第192回)
5月21日
YKDT採水作業(第193回)、艤装替えDT⇒6K
調査潜航(第1493回)、艤装替え6K⇒DT
YKDT曳航調査(第194回)
5月22日
艤装替えDT⇒6K、調査潜航(第1494回)、艤装替え6K⇒DT
YKDT曳航調査(第195回)
5月23日
YKDT採水作業(第196回)、艤装替えDT⇒6K、調査潜航(第1494回)
艤装替え6K⇒DT、YKDT曳航調査(第197回)
5月24日
調査潜航(第1495回)、艤装替え6K⇒ORIネット、ORIネット調査開始
5月25日
ORIネット曳網調査
5月26日
ORIネット曳網調査終了、サイパン向け発航
5月27日
サイパン入港、研究者14名下船

櫻井 利明(運航チーム司令)