2024.11.11
クロロフィルは、光合成の際に光エネルギーを集める色素として、広く知られる分子です。地球上では毎年10億トン以上ものクロロフィルが植物によって合成されていますが、光合成を行う植物のみが合成する分子であるがゆえ、地球最表層における環境の純粋な情報を保持しています。クロロフィル分子の生物学的・化学的側面は長らく研究されてきたため、現在ではその合成や代謝などあらゆる面について非常に深く理解されています。そんなクロロフィルだからこそ、地球科学のツールとして高い潜在性をもつのです。
クロロフィルは、植物の死後さまざまな化学反応や微生物活動による分解を受けますが、その一部は海底の堆積物に残されます。堆積物に含まれるクロロフィル(とその分解生成物)は、過去の生物生産について教えてくれる貴重な指標化合物であり、またそれらの炭素・窒素同位体比は、当時の炭素・窒素循環について貴重かつ厳密な情報をもたらしてくれます。
興味深いことに、クロロフィル分子の中心環であるテトラピロール構造はさらに長期間にわたって堆積物(堆積岩)に保存されています。それらは「ポルフィリン」と呼ばれ、10億年以上も昔の堆積物の中からも見つかっています。これほど長期間にわたって保存される有機分子は他にあまり例がないうえ、炭素・窒素同位体比は、生産時のものをそのまま残しています。ポルフィリンは、起源化合物であるクロロフィルの高い指標性もあいまって、太古の地球環境を理解するうえで貴重な情報源となっています。
私たちは、海洋や地質から得られるクロロフィルやポルフィリンの構造決定、炭素・窒素安定同位体比の正確な測定を行い、それが合成された環境中の炭素循環や窒素循環を復元する研究を行ってきました。このような研究を行っているのは世界でも当センター以外にほとんどなく、世界中の研究者が集って共同研究を行っています。