2023.07.31
地球上の生き物は、そのほとんどが太陽から地球に届くエネルギーを分かち合って暮らしています。生き物の世界は一般に、太陽エネルギーによって暮らす植物と、それを食べて生きる動物に分けられます。動物の世界では、植物を食べる草食動物から、それを食べる肉食動物、さらにそれを食べる生き物というふうに食物連鎖を通じて太陽エネルギー、炭素や窒素などの物質がつながっています。そんな生き物が織りなす食物網は、炭素同位体比(δ13C)や窒素同位体比(δ15N)を用いて解析することができます。特に、タンパク質を構成するアミノ酸は多様な情報を保持しています。
たとえば、グルタミン酸(Glu)とフェニルアラニン(Phe)の窒素同位体比は食物網の解析に広く役立つことが知られています。グルタミン酸は、動物の体内で代謝される際に窒素同位体が分別し、捕食者のグルタミン酸の窒素同位体比は、被食者に比べて平均8.0‰規則的に高くなります。一方、フェニルアラニンは代謝でアミノ基の脱離はほとんど起きないため、被食者に比べ平均わずか0.4‰上昇するにすぎません。図1は、これら2種類のアミノ酸の窒素同位体比と、その生き物の栄養段階*の関係を示したものです。両者を関連づける式は以下のようになります。
(水域生物) 栄養段階 = (δ15NGlu – δ15NPhe – 3.4) / 7.6 + 1
(陸域生物) 栄養段階 = (δ15NGlu – δ15NPhe + 8.4) / 7.6 + 1
重要なことは、生き物の栄養段階がグルタミン酸とフェニルアラニンの「窒素同位体比の差」の一次関数として表せることです。目的生物の試料さえ手にすればその栄養段階を知ることができます。またアミノ酸の窒素同位体比は、栄養段階の推定のみならず、環境中の窒素源やその動態の解析にも威力を発揮します。
* 植物プランクトンなどの独立栄養生物が1、それを食べる植食者が2、植食者だけを食べる動物が3という数値。多様な生き物を捕食することによって小数点以下の数値もありえます。