2026.06.19
クロロフィルは、光合成の際に光エネルギーを集める色素として知られる分子であり、光合成を行う生物のみが合成します。このため、地球表層環境(海洋なら有光層)における生物活動の情報を純粋に反映する指標化合物といえます。また、その合成や分解過程については生物学的・化学的に詳しく理解されており、地球科学への応用に適した特徴を備えています。
分子の中心にMg+を配したテトラピロール構造をもち、この骨格はヘムなど他の生体色素にも共通する基本構造です。テトラピロール化合物は、それぞれ異なる生物機能を担いながらも、生成環境の情報を分子構造や同位体比として保持する特徴を持っています。
光合成生物も死後には分解や微生物作用を受けますが、その一部が海底堆積物中に保存されます。クロロフィルおよびその分解生成物は、たんぱく質などに比べて長期間保存されるため過去の生物生産の指標となります。また、その炭素・窒素同位体比を知ることで、当時の海洋表層の炭素循環・窒素循環に関する定量的な情報を与えます。
クロロフィル分子は、分解がすすむと中心構造であるテトラピロール環を中心とした安定な化合物「ポルフィリン」として堆積物や堆積岩中に残ります。ポルフィリンは10億年以上前の地層からも検出されるほど保存性が高く、その炭素・窒素同位体比は生産時の海洋表層の情報を保持しています。
このように、テトラピロール骨格に由来する分子は長期にわたって情報を保持する特性を持ち、ポルフィリンは起源化合物であるクロロフィルの高い指標性とあわせて、太古の光合成活動と環境を復元するための重要な分子指標となっています。
私たちは、海洋および地質試料中のクロロフィルやポルフィリンの構造解析と、炭素・窒素安定同位体比の高精度測定を通じて、それらが形成された環境の物質循環を精緻に復元する研究を進めてきました。このような分子レベルの情報を用いることで、過去の生物生産や炭素循環・窒素循環を定量的に理解することが可能になります。
このような研究は世界的にも例が限られており、国内外の研究者との共同研究を通じて世界をリードしています。

