2024.11.25
日本の小惑星探査機「はやぶさ2」は、2014年12月に地球を飛び立ちました。2020年12月に地球帰還したリュウグウのサンプルは、私たちに特別な機会を与えてくれました。リュウグウは、太陽系誕生から46億年の歴史を記録しています(図1)。太陽系の成り立ち、地球が誕生する前の姿、そして、分子進化の現場を直接知ることができます。これは、ずっと人類が探求してきた謎を解き明かす絶好の機会と言えるでしょう。
さて、リュウグウサンプルは、私たちに何を語りかけているでしょうか。まず、地球に帰還したサンプルは、太陽系で最も始原的な物質であることが分かりました。つまり、太陽系の元素存在度や同位体組成について、基準値(=標準物質)となるのです。炭素(C)、水素(H)、窒素(N)、酸素(O)、イオウ(S)などの有機物を構成する元素が豊富に存在しています。また、水の存在も明らかにしています。それらを踏まえると、リュウグウを調べる上で、重要なキーワードは、「水、有機物、鉱物、そしてヒストリー(熱史)」であると考えられます。
次に、リュウグウの有機分析から分かったことをハイライトしてみます(図2)。小惑星リュウグウサンプルには、約2万種以上の有機分子が含まれていました。その中には、アミノ酸、核酸塩基、カルボン酸、アミンのような水溶性の分子群や炭化水素などのような非水溶性の分子群が含まれていました。また、右型と左型の立体構造を持つアミノ酸は、ほぼ1:1の等量(ラセミ体)で存在していました。多様な有機分子群が、空間的に不均質に存在しており、小惑星の母天体上で、水などの流体と鉱物との相互作用により、移動・分離・濃集した可能性を読み取れます。私たちは、リュウグウから始原的な「塩(Salt)」や有機硫黄分子群の検出・同定にも成功しました。
小惑星リュウグウは、「水、豊富な有機物、鉱物」×「46億年」という時間積分も記録した純粋な分子進化の実験室と表現できるでしょう。現在までに、リュウグウの分析結果には、予想外の新しい発見も含まれています。私たちにとっては、新しい冒険の始まりになりました。