Chikyu Report
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ターゲットを見つけろ!May 1, 2012

この航海が始まって一月近く経過しましたが、ようやく嬉しいニュースをお届けすることができます。4月24日未明から開始された掘削同時検層(LWD)は順調に進み、4月25日夜半までに目標とする地層を(たぶん)貫通!海底下856mで掘削を完了し、本航海2回目のチャレンジとなる深海掘削は、なんとか無事成功しました。そして、この掘削孔で海洋科学掘削における掘削パイプ長の世界記録(7768.5 m、海面からだと7740m!)まで樹立しました。

私は、この航海では、海底下の地層の特徴を物理データとして計測する掘削同時検層(LWD)の専門家として、またそのデータを用いた分析によりミッションを成功に導くため、科学者サイドと掘削や計測専門会社の技術サイドとの橋渡し役としてプロジェクトに参加しています。50m もスリップした大断層を直接探ろうというのは世界初、そして7000mの深海底から1000m近く掘り進めるのも世界初の試みです。

ここで、この掘削孔で導入した「掘削同時検層」という技術について少し解説しておきましょう。掘削同時検層(英語ではLogging-While-Drilling [LWD]といいます)とは、文字通り、ドリルで掘りながら同時に検層(地層の計測)を行う手法です。各種計測センサー、バッテリー、発電機などが内蔵された直径約20cm、全長約30mの細長いハイテク機器群をドリルビットの直上に連結して深海底まで降ろし、掘削しながら孔の壁を計測します。

この航海の最初にLWDを実施するのはなぜかというと、このあと控えているコア試料の採取や掘削孔への温度計の投入を確実に行うため、地層の掘りやすさや掘削孔の安定性などを判定し、ターゲットの断層帯の深度、厚さ、物理特性を事前に特定する必要があるからです。



掘削同時検層ツールの一つ。装備された電極で孔壁をスキャンして孔内の画像を生成します。
我々がもっとも頼りにしているツールです。



LWDによる掘削中は、電気抵抗や自然ガンマ線などの計測データがツール内のメモリに記録されますが、それと同時に、今まさに掘っている深度の孔内情報を鉄管中の海水を介してパルス信号で船上まで送り(ココ、驚きのワザ!)、リアルタイムで伝送されてきます。

今回は、7000mという深海の、更にその奥から、はたして船上までシグナルが届くのか?という技術的な心配もありました。受信したデータは船内の大型モニターに表示され、技術者や研究者が24時間体制で張り付き、掘削孔の状況や地層の特性、そして「あの断層」がいつ現れるのかを常時監視します。



THE BIG DAY

4月25日午後9時過ぎ。ドリルビットが、最も重要な地層境界があるだろうと想定していた深度にさしかかり、そのリアルタイムデータが届くのを十数人の研究者とともに見守っていました。ところが、どうも予想通りの値を示さない、もしかしてシグナルがちゃんと届いていないのかも、いや、そもそも狙っていた地層境界がここにはなかったのかもしれない、マズイ!どうしようか・・・。

みんなが息をのみながら、2分間に一度表示されるデータを今か今かと見つめていた、その時!ついに地層の電気抵抗と自然ガンマ線を示す値が明らかな兆候を表示しました!

Wahoo!

研究室の興奮は最高潮に達し、まさに現場のサイエンスの醍醐味を感じた瞬間でした。そして、来る日も来る日もトラブルシューティングが続いた3週間におよぶ長いトンネルを抜け出し、ようやく航海成功への突破口が見えた瞬間でもありました。

その後、数時間で掘削を完了し、4月27日の午前、LWDは無事に日本海溝の海底下から船上に帰還。現在、船上研究者がLWDから回収された歴史的データの解析に着手したところです。



Hole C0019Bでの掘削を完了し、
この航海でようやく達成した最初の成功を喜び合うサイエンスパーティのメンバーたち。
斎藤実篤(前列右端)、ジム・モリ(首席研究員、前列右から2番目)
フレッド・チェスター(首席研究員、前列左端)



私は、これまでに数々の科学掘削航海に乗船してきましたが、今回の航海は、これまでとは少し違った思いで乗船しています。こんなにチャレンジングで、しかも日本中、そして世界中の期待を背負ったこの航海を成功に導くために、自分は今、船上で何ができるかを考える日々が続いています。

あの地震と津波はどうして起こったのか?1年前にそこで何が起こったのか?を明らかにするため、地震断層の直接観測を行い、今後の地震発生帯研究に生かしていくことが、地球科学・掘削科学に携わる研究者としてできる貢献です。

世界各国から集まった精鋭の研究者達、そして陸上から支援してくださる方々とともに知恵を絞り、技術的困難を乗り越え、最大限の科学成果を出し、巨大地震の解明に貢献するこの研究航海をなんとか成功させたい、出航した時の思いを新たにしました。航海は、後半戦に突入します。

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