地球発見 まだまだ知らない「ちきゅう」がある。

CDEX
特集:南海トラフで孔内地震観測装置の設置に成功

2010 年10 月~ 12 月、地球深部探査船「ちきゅう」は、統合国際深海掘削計画(IODP)第332 次研究航海を実施し、紀伊半島沖に位置する東南海地震震源域の海溝側の端(C0002 地点)で海底下980m のライザーレス掘削を行った。さらに今回の研究航海では、地震断層やその周辺の変動を高感度・高精度に観測するための、長期孔内観測装置を掘削孔内に設置する難しい作業にも成功した。
(2011年2月 掲載)

荒木 英一郎 博士 取材協力
荒木 英一郎 博士
海洋研究開発機構
地震津波・防災研究
プロジェクト
技術開発グループ

掘削孔に長期孔内観測装置を設置
巨大地震断層の監視の実現に向けて大きな進展

南海掘削の新たなチャレンジ

海中に降ろしながら孔内観測システムを組み立てていく。作業は「ちきゅう」のムーンプール上で命綱をつけて行われた。 海中に降ろしながら孔内観測システムを組み立てていく。作業は「ちきゅう」のムーンプール上で命綱をつけて行われた。

 統合国際深海掘削計画(IODP)第332 次研究航海は、南海トラフ地震発生帯掘削計画(南海掘削)「ステージ2」の一環として、2010年10月下旬からおよそ50 日間にわたって実施された。
 その内容は大きく2 つに分けられる。ひとつは2009年5 月~ 8 月に行われたIODP 第319 次研究航海で掘り抜いた掘削孔内に設置された観測装置の回収と新規観測装置(一時的孔内観測装置)の設置だ。この掘削孔(ライザーレス掘削、ケーシング深度は海底下544.3m)は、地震発生帯から延びる巨大分岐断層最浅部(C0010 地点、水深2,523.7m)にあり、掘削孔を閉じるプラグ(栓)部分に、分岐断層における孔内間隙水圧および温度を測定するための装置が設置されていた。これを、今回「ちきゅう」船上からパイプを降下させて回収したのだ。回収された観測装置には、設置から約15 カ月間の水圧・温度に関する良好なデータが記録されていた。なかでも水圧では、予想されていた潮汐に対する地層間隙水圧の応答だけでなく、環太平洋域で発生した地震・津波の形跡や、それに伴う地殻の変形を示唆する結果も得られている。そして、観測装置を回収したC0010 地点の掘削孔には、水圧・温度に加えて、地層内流体の変化の把握に必要な採水機能、さらに微生物の採取・現場培養機能を備えた、新たな孔内観測装置の設置が行われた。