地球発見 まだまだ知らない「ちきゅう」がある。

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設置成功はチームワークのおかげ

 C0002 地点の掘削孔に長期孔内観測装置を設置するため、「ちきゅう」が最初にめざしたのは、C0002 地点から約40km 離れた海域だった。黒潮の潮流の影響を受けない場所で、できるだけリスクを避けながら観測システムを組み立てようというのだ。観測システムの長さは掘削孔の深さと同じ980m。およそ800m から下に観測装置類が搭載され、上部は孔口までケーブルなどを添わせたチュービングがのび、孔口部分にはコネクター類がセットされたプラットフォームが、掘削孔をふさぐようにセットされる。この観測システムを、「ちきゅう」の開口部ムーンプールで、パイプをつないで組み立てながら、海中に降ろしていくのだ。観測システムの組み立てが完了すると、今度はこのシステムを海中に吊り下げたまま、C0002 掘削孔まで移動する。繊細な観測システムへの影響を極力減らすため、「ちきゅう」は0.5 ノット(時速約1 キロ)という非常にゆっくりとした速度で、潮流を監視しながら、1日以上かけて進んでいかなければならなかった。
 C0002 掘削孔の直上に到達すると、今度は船の位置を一定に保ちながら、ドリルパイプをのばし、孔内に観測システムを送り込んでいく作業が行われた。強い潮流のなか、ドリルパイプに添わせたロープは、本番でもしっかりとその役割を果たし、振動を抑えてくれた。それでも、水深約2,000m の海底に開けられた小さな掘削孔に観測システムを入れるのは、まさに難作業だ。「ちきゅう」船上では、誰もが掘削孔付近に潜航した無人探査機から送られてくる映像を食い入るように見つめながら、長期孔内観測装置の設置成功を祈った。
 作業は昼夜を問わず行われていた。そして、孔内へシステムが無事に送り込まれ、観測装置類の動作確認が行われた。続いて孔内にセメントが流し込まれた。孔内に空間が残ると、水が動き回ることなどで大きなノイズが出てしまうためだ。セメントで埋めることによって、完全に観測装置類を地下に封じ込めたわけだ。観測装置の固定が完了すると、ドリルパイプが切り離され、「ちきゅう」に回収された。これで長期孔内観測装置の設置作業が無事に完了した。12 月9 日午前4 時のことだった。「設置に関しては100%、いや120%の出来といってもよいと思います。準備の段階で、何度も壁にぶつかりましたが、それを超えることができたのは、やはりチームワークのおかげだと思います。目標をみんなで共有して、知恵を出し合う、その力がとても強かった。『ちきゅう』がさまざまな困難を乗り越えて前進しているのも、そうしたチームワークがしっかりできているからだと思います」と荒木博士は話す。「とはいえ、観測システムの開発を担当している私たちとしては、設置が成功したことは、ひとつのマイルストーンでしかありません。何より高精度の観測が実現し、そのデータが役立つことで、初めてやってきたことが意味を持つわけですからね」と荒木博士。

地震計や傾斜計などの観測装置をフレームに固定していく作業。   長期孔内観測装置を設置した掘削孔の孔口部分に置かれるROVプラットフォームとコネクター部。プラットフォームの直径は約5m。

地震計や傾斜計などの観測装置をフレームに固定していく作業。

 

長期孔内観測装置を設置した掘削孔の孔口部分に置かれるROVプラットフォームとコネクター部。プラットフォームの直径は約5m。

 2011 年3 月には、海洋調査船「かいよう」と無人探査機「ハイパー・ドルフィン」を用いて、今回設置した長期孔内観測装置にレコーダーを接続し、本格的な観測が開始される。エアガンを用いた孔内実験なども行われる予定だ。さらに長期孔内観測装置は、近い将来、この海域に展開されている地震・津波観測監視ネットワーク(DONET)に接続されることになっている。また、現在、一時的孔内観測装置が設置されているC0010 掘削孔や、ライザー掘削によって海底下1,603.7m まで掘られたC0009 掘削孔への長期孔内観測装置の設置も計画されている。なかでも、DONET への接続によってリアルタイム観測が実現すれば、DONET 海底観測点と連携したデータ解析体制が構築されることになり、地震・津波の監視能力の向上に貢献することが期待されている。

観測装置類を固定して組み上がった約7mのフレーム(手前) 観測装置類を固定して組み上がった約7mのフレーム(手前) ドリルパイプに4 本のロープを添わせることにより、黒潮潮流による振動を抑えることができた。 ドリルパイプに4 本のロープを添わせることにより、黒潮潮流による振動を抑えることができた。