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プレスリリース

2009年8月6日
独立行政法人海洋研究開発機構

ビームステアリング合成開口ソナーの実用化試験に世界で初めて成功
〜海洋探査の効率向上、そして国産技術の発展を目指して〜

1.概要

独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 加藤康宏)海洋工学センター先端技術研究プログラムの澤 隆雄 技術研究主任らは、音波を用いて広範囲の海底を詳細に探査することが出来るビームステアリング合成開口ソナーを開発し、深海巡航探査機「うらしま」を用いた試験において、深海底の状況を明瞭な音響画像(注1)として捕らえることにより世界で初めて実用化試験に成功しました。

このソナーは合成開口技術(図1)に独自の信号処理技術と動揺補正技術を統合した、純国産の高性能次世代ソナーであり、探査機の動揺や雑音に左右されにくい安定した探査を行うことができるため、海洋探査の精度向上を図ることが期待できます。

2.背景

ソナーの性能は探査目標までの距離が長ければ長いほど、分解能が悪くなるとともにノイズの影響が大きくなり、遠距離の探査での性能不足が問題になっておりました。

それを補うためには、音響ビームを鋭くするためのソナーの大型化と目標への接近が必要でしたが、大型ソナーは探査機への搭載や運用が難しく、また深海での探査においては、目標への接近は容易ではありませんでした。

そこで、これら問題を解決するために合成開口技術をソナーへ適用する試みが行われています。しかし、これまでの水槽等における実験では、高い性能をもったソナーであることは確認できましたが、波浪や潮流の影響でソナーが大きく揺れると、画質が落ちるという問題とともに、分解能の四乗に比例して処理演算量が増えるため、高画質を追求すると処理時間が膨大になってしまうという問題がありました。

3.ビームステアリング合成開口ソナーの開発について

これら問題を解決するため、波の周期性を考慮した大振幅の揺れにも対応可能な動揺補正技術を独自に開発しました。加えて新たなアルゴリズムを開発し、従来の処理より数十倍以上の高速処理を実現しました。(いずれも特許出願済み)

これら技術を活用することで、音響ビームの方向を変える(ビームステアリング:注2)ことが容易にできるようになり、さらなる性能向上を実現しました。

この新型ソナーシステムは、ハード・ソフト共に純国産技術によって構成されています(写真1)。

4.試験結果

平成21年6月、深海巡航探査機「うらしま」にビームステアリング合成開口ソナーを搭載し(写真2)、駿河湾の水深約1,400mの深海底の状況を観測したところ、従来型ソナーに比べ、分解能は約3倍、ノイズは約1/8となり、音響画像の画質が向上したことが確認できました(図2)。

5.今後の展望

国家基幹技術の次世代型深海探査技術として、開発したこの技術の実用化に目処がついたことで、より広範囲をより高分解能で探査可能となるため、海洋探査の効率向上が期待されます。

また、従来型ソナーではわからなかった海底面に依存する音波の位相(注3)変化を記録できるため、海底表面の底質の識別に有効であり、海底資源探査においての活躍も期待されます。

今後、今回開発した技術を国産技術によりさらに発展させていきたいと考えております。

注1 音響画像

海中では電波が使えないため、海中での探査や通信には音波が使われる。 ソナーから海底面に向けて音波(送信ビーム)を発射し、海底面から戻ってくる音(受信ビーム)を利用して水中を画像化したもの。

注2 ビームステアリング

複数の素子を持つアンテナにおいて、それぞれの素子での送信もしくは受信タイミングをわずかにずらすことで、電波や音波ビームの方向を変化させる手法。これにより、目標からの音波をより正確なタイミングで受信できることができるため、より鋭い音響ビームをつくることが可能となる。

注3 位相

波の性質を表す成分の一つ。単位は角度。ある瞬間の波の大きさと位相が分かれば、波の本当の大きさ(振幅)も分かる。

【図1】合成開口技術の原理

一般的に,ソナーの性能はソナー(アンテナ)の大きさに比例する。性能を上げるためにはソナーを大型化し、音響ビームを鋭くする必要がある。合成開口ソナーは移動しながら同じ目標に何度も音波を照射し、それら反射音波の情報をコンピュータ上で合成処理(合成開口)することで、あたかも大型ソナーを使用しているかのような(仮想大型ソナー)鋭い合成音響ビームを作り、高い分解能とノイズの軽減を実現する。

【図2】深海に沈む廃船を観測した画像

通常処理(左)と比較して、ビームステアリング合成開口処理を適用した音響画像(右)は画素が細かくノイズが低減され、船体の輪郭がはっきりしている。

【写真1】ビームステアリング合成開口ソナー

送信アンテナ(下)、受信アンテナ(中)、水中電子部(右上)、船上コントロール部(左上)、受信アンテナ長1.5m、システム水中重量40kg

【写真2】深海巡航探査機「うらしま」(白と赤の機体)と、それに搭載されたビームステアリング合成開口ソナー(白丸内部の横長の黒い長方形)

お問い合わせ先:

独立行政法人海洋研究開発機構
(本研究について)
海洋工学センター先端技術研究プログラム
 高性能無人探査機技術研究グループ 技術研究主任 澤 隆雄
 TEL:046-867-9576
(報道担当)
経営企画室 報道室長 中村 亘 TEL: 046-867-9193