国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 河村 知彦、以下「JAMSTEC」という。)生命地球科学研究部門の出口 茂 上席研究員らは、国立大学法人静岡大学(学長 日詰 一幸)農学部の中村 彰彦 教授、極東製薬工業株式会社(代表取締役 小林 達也)と共同で、キチンの分解を、わずか数ナノグラムという極めて微量なレベルで“目で見て”検出できる技術を開発しました。
キチンやセルロースのような水に溶けない物質は、微生物によって分解される際、固体の表面で局所的に反応が進むため、その過程を直接観測することが困難でした。研究チームはこれまでに、ナノ構造を持つゲル材料を用いて、セルロースの分解を高感度で可視化する技術「SPOT」を開発しています。本研究では、この技術をキチンにも適用できるように拡張し、分解の様子を直接“見える化”することに成功しました。本成果は、これまで見えなかった微生物による分解の仕組みを可視化する新たな手法として、バイオマス利用や有用微生物探索への応用が期待されます。
本研究は、科学研究費補助金(課題番号:JP25120512、JP20580092、JP19K15956、JP23K14000)、JST戦略的創造研究推進事業CREST(課題番号:JPMJCR21L4)」、国際科学技術財団の支援により実施されました。
本論文はアメリカ化学会が発行する学術誌「Langmuir」に2026年6月19日付(現地時間)でオンライン掲載されました。
Ultrasensitive Visual Detection of Chitin Degradation via Surface Pitting on a Nanofibrous N‑Acetylchitosan Hydrogel(ナノファイバー状N-アセチルキトサンヒドロゲル上における表面ピッティングを介したキチン分解の超高感度可視検出)
セルロースやキチンは、地球上に豊富に存在する天然由来の高分子であり、バイオマス資源としての利用が期待されています。また自然界では、これらの物質は微生物によって分解され、物質循環を支える重要な役割を果たしています。
一方で、セルロースやキチンは水に溶けないため、その分解反応は固体の表面で局所的に進行します。このため、従来の手法では分解生成物を間接的に測定することが中心であり、分解そのものを直接観測することは困難でした。
こうした背景のもと、研究チームはナノファイバー構造を有するゲルを用い、微生物によるセルロース分解を高感度で可視化する界面センシング技術「SPOT(Surface-Pitting Observation Technology)」を開発してきました。しかし、この技術はこれまでセルロースのみを対象としており、他の重要な生体高分子への適用可能性は明らかではありませんでした。
図1.SPOT技術によるキチン分解の可視化の模式図
ナノファイバー構造を有するゲルの表面で微生物がキチンを分解すると、局所的に材料が失われ、微小なくぼみ(ピット)が形成される。このピットを観察することで、水に溶けないキチンの分解を高感度に可視化・定量することができる。
本研究では、セルロースに対して確立されていたSPOT技術を、キチンにも適用可能な形へと拡張しました。キチンはセルロースと同様に水に不溶であり、加工や構造制御が難しい材料ですが、研究チームはナノファイバー構造を維持したゲルを設計することで、分解に伴う微小な変化を増幅し、可視化することに成功しました。
その結果、微生物によるキチン分解を数ナノグラムという極めて高い感度で検出できることを明らかにしました。また、分解は試料表面に形成される微小なくぼみとして観察され、これにより分解の位置や進行の様子を直接捉えることが可能となりました。
本手法は、ラベルや試薬を用いることなく、分解反応そのものを直接観察できる点に特徴があります。これにより、従来の手法では捉えきれなかった局所的な分解挙動を評価する新しいアプローチが実現されました。
本成果により、水に溶けない高分子材料の微生物分解を直接可視化する技術の適用範囲が広がりました。今後は、バイオマス利用に資する有用な分解酵素や微生物の探索へと展開されることが期待されます。さらに、固体表面で進行する分解プロセスの理解が重要となるさまざまな材料系への応用も期待されます。
本研究は、研究チームが提唱する「深海インスパイアード化学」に基づく成果の一つです。今後は、この考え方に基づく技術開発をさらに展開し、水に溶けない高分子材料の分解や変換をはじめとする多様な材料・プロセス設計へと発展させていきます。これにより、バイオマス利用の高度化を含め、持続可能な社会の実現に資する分野横断的なイノベーションの創出へとつなげていきます。こうした技術は、すでに社会実装の観点からも高く評価されつつあります。
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(本研究について)
国立研究開発法人海洋研究開発機構(報道担当)
国立研究開発法人海洋研究開発機構 事業推進部 報道室