知ろう!記者に発表した最新研究

2012年3月23日発表
黒鉱くろこうを採った!
資源しげんは、「とる」時代から「育てる」時代へ

テレビ、コンピュータ、自動車。みなさんに身近なこれらの製品せいひんを作る部品には、必ずと言っていいほど金属きんぞくが使われています。その金属の中には、使われる量は少なくても、欠かせないレアメタルやレアアース、金、銀などの貴金属ききんぞくがあります。これらは、きわめてわずかな量しか取れない貴重きちょう資源しげんです。

いま、それらが眠っていると注目されているのが、海底です。カギをにぎるのは、温泉のように海底から熱水をふき出す熱水噴出孔ねっすいふんしゅつこう。資源の宝庫ほうこである「熱水鉱床ねっすいこうしょう」につながるのです。

ジャムステックでは、その熱水噴出孔を人工的につくる実験を行った結果、資源になりうる黒鉱くろこうを採ることに成功しました! 将来は、人工熱水噴出孔から資源を育てて利用することができるかも知れません!


熱水噴出孔ってなに? 海底から熱水がふき出していて、金属資源がたまりやすいところです

海水は海底下深くまでしみこむと、マグマに熱せられ、まわりの岩石から金属などをとかしこんだ後、海底にむかって上昇じょうしょうします(図1)。この熱水が海底面に近づいて冷やされると、どう亜鉛あえんなまり、金、銀などをふくんだ鉱物こうぶつがあらわれます。これが連続してたくさんたまると、資源として役立つ熱水鉱床になります。

熱水噴出孔

図1:熱水噴出孔


島国である日本は、調査や漁業など行える沿岸から約370qまでの範囲はんい排他的経済水域はいたてきけいざいすいいきEEZ)の面積が世界6位(図2)。そして、日本のEEZには、多くの熱水噴出孔が見つかっています。

排他的経済水域の範囲

図2:排他的経済水域の範囲

2010年9月、地球深部探査船「ちきゅう」は統合国際深海掘削計画とうごうこくさいしんかいくっさくけいかく第331研究航海けんきゅうこうかいを行い、沖縄おきなわトラフの熱水噴出孔について調べました(参考:2010年10月5日発表)。

どんな研究したの? 人工的に熱水噴出孔を掘り、様子を観察しました

研究航海を行った海域は、沖縄の北西150qに位置する伊平屋北いへやきたフィールド(図3)。

伊平屋北フィールド

図3:伊平屋北フィールド


水深は約1,000mと比較的ひかくてきりやすく、海底下は熱水が充満じゅうまんしていることがわかっています。その海底に「ちきゅう」で人工熱水噴出孔を掘りました(図4)。

人工熱水噴出孔を掘ったところ

図4:人工熱水噴出孔を掘ったところ


1年にわたって熱水のふき出し方、熱水の成分、熱水が海水に冷やされることによって金属などがしずんでできる煙突えんとつのような「チムニー」の変化を調べました(図5)。

ハイパードルフィンとかいこうによる観察

図5:ハイパードルフィンとかいこうによる観察

どんな結果だったの? 黒鉱を採ることに成功しました!

主な結果は、次の3つです。

結果 1

熱水は、2010年9月は金属をふくんだ黒味のある熱水でしたが、2011年9月には黒味のない透明とうめいなクリアスモーカーに変化し、蒸気じょうきっていました(図6)。

熱水の色の変化(C0016)

図6:熱水の色の変化(C0016)

結果 2

人工熱水噴出孔をほった4ヶ月後(2011年2月)、C0016には、新しいチムニーができていました! その高さは、なんと6m! サンプルをとろうとしましたが、こわれてしまいました。

そして11ヶ月後の2011年9月。こわれたチムニーが、なんと8mを超える高さに再成長していました(図7)! 

急激に成長するチムニー

図7:急激に成長するチムニー

結果 3

C0016で採ったサンプルは、主成分が金属(閃亜鉛鉱せんあえんこう・ウルツ鉱・方鉛鉱ほうえんこう黄銅鉱おうどうこう)で、ほぼ成熟せいじゅくした黒鉱でした(図8)。黒鉱とは、銅、亜鉛、鉛、金、銀などをふくむ黒っぽい鉱石で、以前は秋田県地方などの鉱山でさかんに採掘さいくつされていました。日本周辺の熱水活動域に多く見られます。

C0016の人工チムニーから採れた黒鉱

図8:C0016の人工チムニーから採れた黒鉱

一方、C0013で採ったサンプルは石膏せっこう硫酸りゅうさんカルシウム)がほとんどで、金属(黄銅鉱・閃亜鉛鉱・方鉛鉱・ウルツ鉱)は少ししかふくまれていませんでした。


むむ? 8mを超える高さのチムニーができる所や、黒鉱ができる所とできない所があるのはなぜ? そのひみつは、熱水の成分のちがいによると考えられます。

伊平屋北フィールドの海底下は、キャップロックとよばれるそうが重なった構造こうぞうになっています(図9)。これは、水を通さない岩石が、ふせたおわんのように堆積物たいせきぶつをおおい、それが層になっている構造です。それぞれのキャップロックの中には熱水が充満しています。その熱水の上層はふっとうにより「蒸気が濃縮のうしゅくされた熱水」、下層は沸とうにより「塩分が濃縮された熱水」です。その下層の「塩分が濃縮された熱水」が、黒鉱をつくる成分がいと考えられるのです。

黒鉱を生み出すカギをにぎる熱水

図9:黒鉱を生み出すカギをにぎる熱水

キャップロック内の下層、つまり黒鉱成分の濃い熱水を人工熱水孔から噴出させれば、チムニーの成長速度は速く、黒鉱もできやすいといえます。

これからはどうするの? 資源を育て回収することをめざし、研究を続けます

ジャムステックでは、人工熱水噴出孔に回収装置かいしゅうそうちを設置して、チムニーを成長させてから鉱物を回収するアイディアの特許とっきょを出願しています。

将来、低いコストで環境にも影響えいきょうを与えず、資源を育て回収する、という新しい資源の時代が来るかもしれません!

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