未来にむけて大きな可能性をひめる深海。地球温暖化の一因とされる二酸化炭素(CO2)をかためて海底下にうめれば温暖化対策になるし、数百度の熱水がわき出す熱水噴出孔からは鉱物資源が、海底下からは天然ガスを含むメタンハイドレートがとれるかもしれません。でも、CO2をうめるなら海底下からCO2が漏れ広がらないか監視する必要があるし、資源を利用するにはまず発見しなければなりません。
このたび、それを効率良く実現するためのハイブリッドセンサが誕生しました。
中野 善之
博士と紀本電子工業株式会社
が開発した「pH-CO2ハイブリッドセンサ」です! いったいどんなもの? その正体にせまります!
海水は、その場所により性質
が少しずつ変わります。たとえば海底下からCO2が漏れると、海水のCO2
濃度は上がりpHは下がります。また、CO2を多くふくみpHが低い熱水が噴出すると海水のCO2濃度は上がりpHは下がり、メタンハイドレートがあればメタンの泡がふきだし(メタンプルーム)海水のCO2濃度は下がります。
ならば、pH センサやCO2センサを水中探査機にのせてpHとCO2濃度の異変
を探せば、CO2漏れや資源を発見できるはず(図1)。
図1:pHやCO2濃度の異変を探せ!
運の良いことに、pHセンサは紀本電子工業株式会社と高知大学が開発した水深5,000mまで使える、海水でよく使われるpH7〜8の範囲を精度良く測れる高精度タイプができたばかりでした。ただ、CO2センサは深海用だと誤差が大きく探査機にのせるにはサイズもかさばりました。また、pHは数秒で計測できるけどCO2濃度は数分かかるので、たとえばpHセンサが異変をとらえた時には水中探査機はすでにそこを通りすぎていて、CO2濃度の測定が間に合いませんでした。
そこで中野博士が、新しいセンサを開発したのです。
紀本電子工業株式会社と高知大学の開発したpHセンサに、中野博士が開発したCO2センサを組み合わせ、世界で初めて深海でpHとCO2濃度を同時に精密に測定するpH-CO2ハイブリッドセンサを開発しました。ハイブリッドとは、異なるものを組み合わせるという意味です。
pH-CO2ハイブリッドセンサ本体は2つにわかれ、ポンプユニットには、測定に必要な
試薬(pH指示薬溶液)やそれを流すためのポンプ、メインユニットには実際に測定するセンサが組みこまれています。
図2:pH-CO2ハイブリッドセンサ
CO2濃度は、CO2濃度により色の変わる「pH指示薬溶液」を使い、その色の変化から求めます。色の変化は人間の眼では正確
にわからないので、光をあててpH指示薬溶液にどれだけ吸収されるかの割合を見ます(図3)。
これまでCO2濃度の測定に時間が必要だった理由には、pH指示薬溶液がCO2濃度に応じて変わるまでに時間がかかることが関係しました。そこで今回は、できる限り早く色が変わるpH指示薬溶液の組成を探し出しました。光源には消費電力が少ないLEDを使い、青・黄・赤の光でpH指示薬溶液の色のわずかな変化もとらえるようにしました。
図3:CO2濃度測定の原理
pHとCO2センサを一体化させるためにも、新たなソフトウェアを開発しました。消費電力は少ないのにpHとCO2濃度のデータを1秒ごとに保存できます!
pH-CO2ハイブリッドセンサを水中探査機「じんべい」や「かいこう」にのせて、実際に上越沖と沖縄
トラフで試験を行いました(図4)。
図4:実際の海で試験!
上越沖で、水温の異常な上昇とCO2濃度の低下を確認(図5左)! まさにメタンプルームの特ちょうだけど、本当に…? 大丈夫、音で海底を調べるソナーという
装置でもとらえていました!
沖縄トラフではCO2濃度の異常な上昇とpHの低下をとらえました(図5右)! こちらはまさに熱水。pH-CO2ハイブリッドセンサは、バッチリ測定することが確認されました!
図5:pH-CO2ハイブリッドセンサがとらえた!
pH-CO2ハイブリッドセンサと「じんべい」との連携を高め、センサの測定結果をふまえ「じんべい」が調査をすることで、効率的にCO2漏れの監視や資源探査をできるようにしていきます。
測定方法のちがうセンサを一体化したものは、世界初。中野博士は、「pH-CO2ハイブリッドセンサの精度は高いし、探査機から取り外しても使えるので、色々なところで使われるようになればうれしい」と話します。
写真:pH-CO2ハイブリッドセンサを持つ中野博士。
開発中には耐圧容器がこわれたり浸水したことも。そのたびに工夫して問題を解決し、ついに開発に成功しました。
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