知ろう!記者に発表した最新研究

2013年12月19日発表
観測装置かんそくそうちDeepディープ NINJAニンジャ」が「越冬えっとう」に成功!
南極海の深層にせまる!

南極海の水温や塩分って、季節や長い年月のあいだにどのように変わるのでしょう? 南極海は冬(日本の夏の期間)になると海氷に閉ざされるため、これまでの装置そうちでは、年間を通じて水深2,000mをえる深層しんそうまでの観測はできませんでした。

しかし今回、世界で初めて、年間を通して南極海の水深2,000mより深い4,000mの深層までの海水温と塩分を観測することに成功したのです。活躍かつやくした観測装置は、小林 大洋こばやし たいよう博士が株式会社鶴見精機つるみせいきと開発した「Deepディープ NINJAニンジャ」です。いったいどんなもの? 最先端さいせんたんの観測装置を紹介しょうかいします!



どうして南極を観測するの? 北太平洋深層の水温が上がる原因と関係すると思われるからです

2004年、北太平洋の深層の水温が、0.005度が上がっていることが報告ほうこくされました。そこは、ほとんど水温が変化しないと考えられてきた海域かいいきです。そして2010年、その原因げんいんは南極アデリー海岸沖の南極海の深層の水温が上がっていることと関係すると報告されました(図1)。

アデリー海岸沖の深層は、北太平洋深層の水温上昇の原因と関係する!?

図1 アデリー海岸沖の深層は、北太平洋深層の水温上昇の原因と関係する!?

アデリー海岸沖の深層で何が起きているの? それを明らかにするには、アデリー海岸沖を長い年月にわたって直接、ずっと観測するしかありません。でも、アデリー海岸沖は冬になると海がこおるため、これまでの装置では年間を通じて水深2,000mを超える深層までの観測はできませんでした(図2)。

これまでの観測装置

図2 これまでの観測装置

そこで2010年より、小林博士が株式会社鶴見精機と新たな観測装置の開発にいどんだのです。

どんな観測装置を開発したの? 南極海を深層までずっと観測できる「Deep(ディープ) NINJA(ニンジャ)」です。

Deepディープ NINJAニンジャ」は、高さ約210p、重さは50s(写真)。

Deep NINJA

写真 Deep NINJA

「Deep NINJA」は、ふだんは海中をただよっていますが、10日から1ヶ月に1度、水深4,000mまでもぐって浮かび上がりながら水温・塩分を観測します(図3)。その精度せいどは1,000分の1(0.001)のちがいも見きわめて、わずかな変化もとらえます。そして海面に浮き上がり観測データを衛星通信えいせいつうしんで送信した後、再び海中にもどります。

Deep NINJAの動き

図3:Deep NINJAの動き

このように連続観測を行いますが、もし海氷があって海面に浮き上がれない時はデータを送信せずに海中へ戻ります。では、どうやって海氷があるのがわかるのでしょう? 海水はおよそ−2℃で凍ります。だからDeep NINJAの水温センサが−1.79℃を計測すると「海氷があるかも!」と予測して、海中へもどるのです(図4)。

水温で海氷を予測

図4 水温で海氷を予測

春になり海氷がとけてデータ通信がふたたび可能になるまで氷の下で観測を続け、たまった観測データを送ります。

どんな試験をしたの? 南極海に入れて、ちゃんと年間を通じて観測できるか確認しました

2012年12月、3台のDeep NINJAを南極アデリー海岸沖に入れました(図5)。

水温で海氷を予測

図5 Deep NINJAを入れた海域

入れた後、Deep NINJAは順調に観測を行いデータが届いていました(図6)。データは電子メールでジャムステックと鶴見精機に届くようになっています。そして南半球が冬となり海が凍る2013年6月ごろ、データが届かなくなりました。小林博士は、「一番むずかしいのは、Deep NINJAをつくることよりも、装置がちゃんとずっと動いているのか、という信頼しんらい性です。一度Deep NINJAを海に入れたらあとは何もできません。待っている間はハラハラしました」とふり返ります。

そして南半球が春をむかえた11月25日、データが再び届き始めたのです!!

水温で海氷を予測

図6 「Deep NINJA」の一年間

 

Deep NINJAは冬を越して1年間南極海を漂い、見事、越冬に大成功(図7)!

 
水温で海氷を予測

図7 Deep NINJAが観測した海域

データには6月から11月までの水深4,000mまでの観測データを確認しました。南極海の冬を観測したのは、世界でも初めてです(図8)。

水温で海氷を予測

図8 水温(左)塩分(右)のデータ。赤い線が氷の下で観測されたもの

今後はどうするの? データを分析(ぶんせき)しながら、新たにDeep NINJAを入れて観測を続けていきます。

現在は観測データの分析中ぶんせきちゅうです。その一方で、新たに7台のDeep NINJAを追加で南極海に入れています。小林博士は、「Deep NINJAを海にまんべんなく入れて世界中の海洋深層を調べるのが究極きゅうきょくの目標。でも今は台数が少ないので、観測・研究で重要な海域を見定めて入れています」と話します。

観測の積み重ねにより、南極海深層の水温や塩分の季節変化が明らかになり、その長期変化や水温上昇じょうしょうメカニズム、さらに太平洋深層の水温上昇メカニズムの解明かいめいにつながると期待されます。

おまけ

小林博士の専門は海洋物理。もうすこし細かくいうと、大学時代にはシミュレーション、お仕事についてからは観測、Deep NINJAづくりと、様々な分野で研究をしてきています。一つの分野だけでもむずかしそうなのに、異なる分野をいくつも研究するなんて! 小林博士は新しい分野に関わるたびに、いつも勉強しています。「海の中は、わかっているようでわかっていないことばかりです。それを一つ一つ解きほぐしていく。大変だけど、うまくいったときは本当にうれしいですね。」と話してくれました。

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