Q&A

「地球環境シリーズ」講演会の最中にZoomでお寄せいただいたご質問を回答とともに掲載いたします。多くのご質問をいただき誠にありがとうございました。
※ご質問はほぼ原文どおりですが、個人情報となる部分は掲載しておりません。

Q1
栄養塩の濃度は二酸化炭素濃度の変化とどのような関係にあるのでしょうか。
A1
安中:植物プランクトンが光合成をすると、栄養塩濃度低下と共に、海洋中の二酸化炭素濃度も低下します。今日はお話ししませんでしたが、栄養塩の量と二酸化炭素の量の関係も、興味深い研究テーマの一つです。
Q2
PDOとエルニーニョ現象およびラニーニャ現象の発生には関係があるのですか。
A2
安中:PDOが正の時と負の時で、発生するエルニーニョやラニーニャの特徴が異なるという研究があります。
Q3
二酸化炭素濃度上昇で海洋の酸性化も聞きますが、栄養塩濃度に二酸化炭素も影響しているでしょうか。
A3
安中:植物プランクトンが光合成をすると、栄養塩と共に二酸化炭素も取り込みますので、栄養塩濃度の低下と共に二酸化炭素濃度の低下が起こります。一方で、植物プランクトンにとっては、既に、栄養塩に比べて、二酸化炭素は十分に溶けていますので、二酸化炭素濃度が上昇しても、直ちに光合成が盛んになるわけではなく、栄養塩濃度に劇的な変化が起こるわけではありません。
Q4
リンは洗剤含まれるものが問題でしたがリン酸塩は人口密集地の沿岸に多い傾向でしょうか。
A4
安中:はい、陸から離れた外洋域では、大気経由の窒素酸化物の影響が大きいですが、沿岸域では、河川を経由したリンや窒素の流入の影響が大きくなっています。
Q5
将来予測で、ベンガル湾の生産量は何故増加するのでしょうか。
A5
橋岡:10モデルの平均(正確には中央値)においてベンガル湾の生産量の増加が見られますが、ベンガル湾ではモデル間のばらつきが大きく、この予測の頑健性(確からしさ)は低いようです。モデル平均を見ただけではメカニズムの特定は難しいのですが、窒素固定の増加が一因かもしれません(モデル平均で硝酸塩や窒素固定の増加が見られるため)。
Q6
大気を通して運ばれる窒素化合物が海に落ちる量は沿岸に近い方が多いように思うのですが、そんな傾向が見えるのでしょうか。
A6
安中:私が今回示したデータからは見ることはできませんでしたが、精度の高い海洋内部のデータを丹念に見ると、硝酸塩濃度の上昇は、北太平洋の西側で顕著であるという報告があります。
Q7
東京湾などで発生する青潮もモデルで説明できるでしょうか? また温暖化でもそれが増えると予測できるでしょうか。
A7
橋岡:青潮は専門ではないので、検索の結果で恐縮ですが、東京湾での青潮のモデルはこれまでにも開発されているようです。したがって、発生メカニズムや関連する環境要因も示唆されていることと思います。そのようなモデルに温暖化後の環境情報を与えることで(温暖化予測の全球モデルは空間解像度が荒く東京湾は解像されないため)、温暖化後の限定的な予測(昇温の影響評価や海洋循環の変化の影響など)は可能と思われます。しかしながら、沿岸域は人間活動の影響を大きく受けるため、現実的には将来的な土地利用の変化や、排出物の法規制や環境技術の進歩など、シナリオの仮定とそれに応じた予測も必要かもしれません。
Q8
2090年には、南大洋では植物プランクトンが今より増加するようですが、2050年では南大洋では潜在的漁獲可能量は減るんだとか…。なぜでしょう。
A8
橋岡:植物プランクトンの増加の図は10モデルの平均(正確には中央値)を示したもので、南大洋の広域で増加の傾向を示しています。一方で、漁獲可能量の変化は2つのモデル(米NOAA GFDLと仏IPSL)の結果(植物プランクトンの変化)に基づく予測のため、参照した2モデルにおいて南大洋で植物プランクトンの減少が予測されたため、漁獲可能量も減少したものと思われます。このように、低次生態系の予測不確実性が高次生態系の予測にも伝播するため、不確実性の低減が大きな課題です。また結果の解釈として、10モデルの平均値が2モデルの予測値よりも正しいかというと必ずしもそうでない(再現性の低いモデルが足を引っ張る可能性もある)という点も注意が必要です。GFDLならびにIPSLのモデルは生態系・物質循環の再現性の高いモデルなので、2モデルではありますが、漁獲可能量の変化も一定の信頼がおける結果と思われます。
Q9
黒潮の水温の変動とPDOには関係があるのですか。また黒潮の大蛇行はマイワシ資源に影響ないのですか。
A9
西川:黒潮水温はPDOとは関連すると言われています。ただしそれだけでなく、ご指摘の黒潮流路も影響します。黒潮が蛇行していると、黒潮上の水は輸送に時間がかかり、その間にだんだん冷やされていくからです。したがって、PDOだけでなく黒潮の流路も水温を通じてマイワシに影響しています。
Q10
温暖化を考慮しなかった場合の、マイワシ量が2030~2060年の間、約10年周期で変動しているように見えましたが、その原因は何でしょう。
A10
西川:十数年スケールの気候変動が関係していると考えられます。
Q11
温暖化に伴ってマイワシの回遊域は高緯度へシフトしてないでしょうか。またサンマとの漁獲量相関はどうでしょうか。
A11
西川:今のところ明瞭な回遊域のシフトは見られないようです。マイワシとサンマの漁獲量は逆相関にあります。理由はまだはっきりしませんが、比較的同じ場所で暮らしているので、お互いに影響を与えることが原因の一つかもしれません。
Q12
ソナーを発展させた水中テレビが開発されていたように思うのですが、まだ実用的なものはできていないのでしょうか。
A12
高尾:いくつか市販品があります。「水中音響ビデオカメラ」などのキーワードで検索してみてください。
Q13
今の日本では、水産資源の保全にとって、技術的な問題より、きちんとしたTAC制度を実施することの方が重要ではないでしょうか。
A13
西川:ご指摘の通り、TAC制度を実施することは非常に重要です。
そしてここに、とにかく魚を獲りに行けば儲かるというわけではなく、省エネでより確実な収入を得ることを可能にする技術革新が、漁業者の合意を得る上で役に立つのではないでしょうか。

高尾:TAC制度下では、TACを決めるための科学的情報としてABC(生物学的許容漁獲量)が重要です。より正確なABCを得るためには、調査・計測技術やシミュレーション技術をより高度化することが必要と考えます。
Q14
魚探の周波数を高くすれば、小さい植物プランクトンの亜表層マキシマムなどの検出は可能でしょうか。
A14
高尾:周波数を高くすると小さな生物の音響反射は強くなりますが、海中では周波数が高いほど吸収減衰(音が熱に変わる減衰)が大きくなり長い距離の計測はできません。魚探のように船底に付けたセンサで鉛直分布を一度に得ることはできず、CTDのようなセンサ垂下型にしてセンサ近傍の水塊を計測することになると思います。韓国では養殖生け簀近傍の赤潮生物を高い周波数(通常の魚探の20~70倍程度)を使って計測する試みが行われています。
Q15
石垣島の人々にとって、白保はもう完全に過去の問題になっているのでしょうか。今でも潜在意識として影響を持っているのでしょうか。白保の海をどう捕らえるかが、海に対する意識と深く関わると考えているので、気になっています。
A15
杉本:人によって大きく異なると思いますが、やはり当時、村・島を二分して賛成/反対が分かれた時代を経験している人はその記憶も色濃く残っているのではないかと思います。海と言っても純粋な物理/生物的環境としてのみならず、社会/政治的な記憶や文脈と紐づいて価値化されるので、ご指摘はとても重要ですし的確だと思います。
Q16
生態系サービスとは
○基盤サービス:酸素の供給、気温温度調節、水や栄養塩の循環
○供給サービス:食べ物、医薬品、バイオミミクリー
○文化的サービス:観光、レクリエーション、リラクゼーション
○調整サービス:マングローブやサンゴ礁による台風・津波の軽減
などと定義されてますが、石垣島の聞き取り調査結果で、これとは別の新たな視点がありましたでしょうか。あればそれは何でしょうか。
A16
杉本:今回の研究は特に「文化的サービス」の部分を深堀して、その結果あの5要素が出てきた、というものです。
Q17
漁船の完全電動化は費用がかなりかかると思いますが、その面での普及についてどう考えておられますか。
A17
高尾:開発段階の費用はかなり高額になりますが、漁船としての機能を損なうこと無く部品数を減らす方向で開発することや蓄電池の高性能化で、普及(量産)段階では建造費、メンテナンス費とも現状の漁船程度(またはそれ以下)になることを目指しています。
Q18
「参加型研究」人類学のアプローチに近いでしょうか。調査者によって結果が変わったりはしないものでしょうか。
A18
杉本:人類学も、伝統的には調査者は「観察者」として現象の外側にある、との理念にもとづいていました。参加型研究は観察者ー被観察者が共に行うものですが、近年人類学でもこうした参加型アプローチは多用されています。
Q19
北極海では海氷が減少し、寒帯ジェット気流も大きく変動すると考えられますが、太平洋海流にも大きく影響するのでしょうか。
A19
安中:はい、寒帯ジェットも含む偏西風の強さや位置の変動は、北太平洋の大きな循環に影響を与えています。