もう潜航なんてしないなんて言わないよ絶対!編

2013/02/10

川口 慎介(海洋研究開発機構 海洋・極限環境生物圏領域)

【そうさ夢だけは誰も奪えない心の翼だから】
恥ずかしながら帰ってまいりました。「まったく乗り気ではありません」とか言っていた自分をぶん殴ってやりたい気分です。「しんかい6500」運航チーム(と下痢止め)を信じて身を委ねれば閉所も(便意も)まったく不安に思うことはなく,むしろ世界でたった3人しか今このインド洋の深海にはいないという「選ばれし者の恍惚と不安」が眼前の仕事への意欲を駆り立てました。

今回「しんかい6500」で潜ってあらためて思ったのは,有人潜水船内では「深海を感じる」ということです。海洋表層から深海に向かうにつれて耐圧殻を通じて伝わってくる冷気からは,深海の本質的な性質である低温かつ暗黒の「静の世界」を感じずにはいられません。「しんかい6500」がひとたび着底するとズドンという感覚が内臓に伝わり,視界は一瞬にして舞い上がった粒子に覆われます。しばらくして舞い上がりがおさまると,窓を開ければ降り立てそうな海底が目の前にあらわれ,チムニーから噴出するブラックスモーカーからは「ゴゴゴゴーー」という噴出音が聞こえてきました。この深海と熱水活動のコスモを,全身の毛穴を全開にしてセブンセンシズで受け止める感覚は,ロボットを通じた観測では決して味わえないものだと再確認した次第です。

明日以降は(ようやく?)現在の調査の目的とやっていることを(たぶん)紹介していきます。


写真:潜航で得られた白いスケーリーフットと黒いビールのツーショット