ソリティア熱水域はもっさもっさ!編

2013/02/13

川口 慎介(海洋研究開発機構 海洋・極限環境生物圏領域)

【出塁せんことには盗塁できん】
昨日の潜航で「しんかい6500」の通算潜航回数は1328になりました。「世界のホームラン王」こと王貞治の通算ホームラン数が868,「ウルフ」こと千代の富士の通算白星が1045,「もっさん」こと福本豊の通算盗塁数が1065ですから,その特筆すべき業績がわかるってものです。ちなみに王貞治と千代の富士は国民栄誉賞を受賞していますが,福本豊は中曽根首相(当時)から国民栄誉賞の打診を受けたものの、とある理由で辞退しました。はたして「しんかい」の国民栄誉賞受賞はあるのでしょうか。

第1325潜航から第1328潜航までを実施した「ソリティア熱水域」には,これまでにインド洋で知られている他の熱水と比べて,圧倒的に豊かな生物群集が存在しています。概観するとミョウガガイがもっさもっさと林立して海底一面を埋め尽くしており,その中にパッチ状に白スケちゃんが鎮座しており,真ん中にドドーンとチムニーがそびえ立っているような具合です。これまでの潜航者はその豊かな生物群集や白スケちゃんの魅力に目を奪われ,海底に到着するや着底して生物採取に躍起になり,なかなか熱水採取を実施しませんでした。しかし熱水生物の生理生態を把握する上で重要なのは,その場の環境を知ることです。環境を知るには,採取した熱水の化学組成を調べる必要があります。にもかかわらず,生物採取ばかり行うというのは,モノゴトの本質を見落とした愚の骨頂であります。

かつて特別走塁コーチとして阪神タイガースに招かれた福本豊は「出塁せんことには盗塁できん」と言い,頼まれた走塁ではなく,延々と打撃指導をしたという逸話があります。やはり,どの世界でも一流になるような人は,本質から焦点を外しません。ちなみに「スペシャリストよりジェネラリスト」を標榜するワタクシの考える日本プロ野球史上ベストナインの外野は,イチロー・山本浩二・福本豊です。


写真:JAMSTECのTシャツを着て作業するモーリシャス人研究者ギリッシュ