ダス〜小さな男の恋の物語〜編

2013/02/24

川口 慎介(海洋研究開発機構 海洋・極限環境生物圏領域)

【人生は死ぬまでのY字路】
2006年11月,「白鳳丸」はウナギなどの魚類生態調査のため,モーリシャス近海で調査航海(KH-06-4 Leg2)を実施しました。この航海に参加したモーリシャス人が,ダスです。ダスは「良い機会だから」という程度の思いで乗船した,簡単に言ってしまえば素人でしたが,持ち前の明るい性格ですぐに日本人乗船者とも打ち解け,甲板員のカイトからロープワークなどを学ぶなどしながら,船上生活を楽しんでいました。そして,一人の日本人女性に恋をしました。乗船している皆が気付いていてもお構いなしで熱烈なアプローチを続けるダス。しかしこの恋は時限付き,航海が終わればダスは下船せねばなりません。そこでダスはすぐに決断しました。「ボク,次のレグにも乗る!」

2006年12月,「白鳳丸」は熱水活動探査のため,中央インド洋海嶺で調査航海(KH-06-4 Leg3)を実施しました。この航海に参加した研究者は,魚類研究の前レグとはすっかり入れ替わっており,もちろんダスが恋した女性の姿もありませんでした。出航後にダスはその事実に気づきました。「なんてこったい」。そんな傷心のダスにオキノさんは告げました。「せっかくなんだから地球物理調査を手伝っていけば良いじゃん」。ダスは紳士なので女性にノーとは言いません。これがダスと地球物理研究の出会いでした。

2013年2月,「よこすか」は熱水活動調査のため,中央インド洋海嶺で調査航海(YK13-02)を実施しています。そしてダスは,2006年の白鳳丸航海終了後,フランスで地球物理の研究に励み博士号を取得し,モーリシャス海洋研究所の研究員として乗船しています。すっかり地球物理の研究者となっているダスは,潜航中止になるや測線を用意し,モーリシャスEEZ内の海底地形や磁力データを取得しています。この航海でもっとも研究が進んだのはダスというのが,皆の一致した意見です。そしてこの航海で,ダスはしんかいチームのイケダさんに熱烈にアプローチし,カイトはボートを操り潜水船にアプローチしています。

もしあの時に恋をしていなかったら,ダスとワタクシの白鳳丸熱水探査航海での出会いはなく,もしオキノさんが男性だったら,今航海での再会は無かったでしょう。あえてもう一つ加えるならば,もし白鳳丸でダスが恋したのがもう一人の女性だったならば,ワタクシは今も独身だったかもしれません。。。


写真:YK13-02乗船者一同での記念撮影。「Kairei」を持っているのがダス博士。