聖地「かいれいフィールド」

2013/03/16

宮崎 淳一(海洋研究開発機構 海洋・極限環境生物圏領域)

朝6:00、漁野船長、足立1等航海士、櫻井しんかい6500司令、による船内トップモニ会議が船尾甲板で行われ、「まるッ、まるッ、まるッー」ということで、待ちに待った本YK13-03航海初の潜航調査実施が決まりました。

調査潜航場所は聖地「かいれいフィールド」です。
潜ってきました。

着底した時、海水のにごりやイソギンチャクの存在から熱水活動が近くにあることを感じさせてくれました。
そして、しばらくすると高さ1mほどのカーリーチムニーが我々を出迎えてくれました。
今までに見たことがないというくらい、直径が80センチはあるその大きなお口から漆黒のブラックスモーカーがボフボフ噴いていました。
さらにそのお口の周りにはキラキラと輝くパイライトが非常にまぶしかったです。
カーリーとは炎と怒りの女神様だった気がしますが、それを表現する感じで神々しい容姿でした。

「府中の直線が短く感じた」
これは2011年に東京競馬場(以下、府中)で行われた皐月賞にて勝ち馬オルフェーヴルに騎乗した池添謙一騎手がレースを終えた直後に述べた感想です。
府中の直線は530mと非常に長く、この直線がレースの勝敗を決める場所となるので、全ての馬が無呼吸で全力疾走します。
そのため、直線途中で先頭に立つと、騎乗する馬のスタミナ切れや後ろから来る馬が心配で気になり、騎手はゴールするまでの時間が「まだかっ!」というかんじに非常に長く感じるようです。
しかし、そんな長い直線を「短く」感じたのはオルフェーヴルの凄さ、そして最大の栄誉ダービーを含む三冠、さらには世界制覇という未来が脳内を駆け巡り、夢のような心地よさを感じたからではないでしょうか(ちなみに次のダービーではやはり直線は長く感じたそうです。なお、世界制覇以外は全て達成しています)。
自分もまさにそのような感じで、ゴージャスで圧倒的なカーリーチムニーの前にいた50分ほどの時間が大満足感で非常に短く感じました。

しかしながら、本潜航の最大ミッションは黒いスケーリーフットの採取です(目的は2/16レポート参照)。
かいれいフィールドには7~8のチムニー群がありますが、黒いスケーリーフットはそのうちの1つモンジュというチムニーにしか住んでいません。
名残惜しくカーリーを離れ、それを探さなくては行けないのですが、頼りとなるマーカー(3/12レポート参照)が見つからず、しかもエビ(リミカリス)だらけのチムニーばかりで、「いったいどれ?」とかなり焦りました(後になってわかりましたが、ほとんどのマーカーにイソギンチャクまたは熱水による付着物で覆われており、光を反射しなくなっていました)。
探していると潜航時間もどんどん減ってきますので、早く決断する必要があります。
「これだっ!」
と決めたチムニーに接近し、とにかくエビを追い払うと、よく似た(実際にはかなり違いますが・・・海底ではそう見える)アルビン貝のさらに下に、黒光りするスケーリーフットがひっそりといました。
しかし、追い払っても追い払ってもエビがワラワラと集まってくるので、スケーリーの採取に大苦戦。
それでもなんとかミッションをやり遂げることができました。

最後にかいれいフィールドではエビが至るところを泳いでいるのに驚きました。
とにかく多いっ!
自分はチムニーだけにしかいないと思っていましたが、そのチムニーからあふれ出て居場所がないのか、とにかく「しがみつく場所を追い求めている」ようで、潜航調査中のしんかい6500にたくさんのエビがよってきました。
そして、しんかい6500に着底して安心しているようでした。
まるで、しんかい6500がエビの魚礁にでもなったかのように居着いていました。
しかし、海底を離れ浮上、水深200メートルぐらいに達したとき、温度もしくは光で「ここは俺の居場所ではない」と悟ったのか、しんかい6500の外および中(もちろん耐圧殻以外です)から、それまでしがみついていたものすごい数(1万匹以上)のエビが脱走し海底へと戻っていきました。
その光景も神秘的で水深2400mの聖地「かいれいフィールド」の熱水が親となって生み出す生物の豊富さを感じた瞬間でもありました。

至福の時間を与えて下さったパイロット千葉さん、コパイロット石川さんに大感謝です。
さらにチャンスをくれた漁野船長および中村首席研究者にも感謝です。

海況不良で調査できなかったYK13-02航海から急遽連続乗船した甲斐ありました。
また、大魔神佐々木なみの熱水クローザーの異名を返上できて何よりです。


写真1:正面窓から見えるカーリーチムニーによだれを垂らしてご満悦の研究者


写真2:会いたかった・・・君に♥