7年越しの夢

2013/03/17

宮崎 淳一(海洋研究開発機構 海洋・極限環境生物圏領域)

本日の潜航も
「まるッ、まるッ、まるッー」
ということで、#1331潜航調査実施が決まりました。

今日の潜航場所はYokoniwa riseで、先日の潜航場所のかいれいフィールドの北側に位置する山です。
この山には、本来地球の奥深くに眠っているはずの岩石が、海底にひょっこりと顔を出している不思議な場所として、岩石の研究者たちから注目されています。
また数年前から、未知の海底温泉がある可能性も、指摘されていました。
そこで、これらの謎を解明するべく、本日の潜航が行われたのです。
それで、今日の結果はというと・・・・・・・内緒です(* ̄m ̄)ウフッ
ごめんなさい。
論文化まで待って下さい。

代わりに本日、記念すべき初潜航となりました佐藤太一さん(産総研)主演の「7年越しの夢:とある若手研究者の「しんかい6500」初潜航」をお送りしたいと思います。
パチパチパチパチ

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「しんかい6500」、それは人間を深さ数千メートルの深海底へと誘(いざな)う、夢のマシーンである。
「しんかい6500」への搭乗は、海を研究する全ての研究者にとっての「夢」と言っても過言ではない。
しかし、研究者だからといって誰もが乗れるわけではない。
それは、実力と、運と、執念を兼ね備えた者だけに開く、「夢の扉」なのである。

7年前、大学院生として研究者への第一歩を踏み出した佐藤太一は、今日と同じインド洋の調査海域の洋上にいて、生まれて初めて見る本物の「しんかい6500」に心をときめかせていた。
しかし、次々と「しんかい6500」に乗り込んでいく先輩研究者を見送りながら、データ解析に勤しむ日々が続き、自ら乗り込んで海底を見に行く機会には、ついに恵まれなかった。
研究者の卵にすぎなかった彼に、「夢の扉」が開くことはついに無かったのだ・・・・・

その時、彼は決心した。
「これから何年かかろうとも、必ずや一人前の研究者となって「しんかい6500」に搭乗し、深海底をこの目で見てやるぞっ!」
それから幾年月、彼は数えきれないほどの調査航海に参加して研鑽を積み、研究者としての実力を磨いた。
そして何時しか、押しも押されぬ一人前の海洋底の研究者と成った。

あれから7年・・・・・
佐藤太一は、あの日と同じインド洋の調査海域の洋上にいて、あの日と同じように「しんかい6500」に心をときめかせていた。
ただ一つ違ったのは、あの日みんなを見送っていた彼が、今日はみんなに見送られていたことである。
7年越しの夢を叶えた時、彼が「夢の扉」の向こうに見たものは!?

エピソード2へ続く(かもしれない)
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最後に、夢の初潜航を達成された佐藤太一さんにインタビューしました

ーー初潜航、おめでとうございます
佐藤:ありがとうございます

ーーはじめての潜航調査は、いかがでしたか?
佐藤:そうですね,潜航前日・直前までは本当に緊張していました.この貴重なー潜航,私で務まるのかと.潜航中は海底の景色を,一瞬たりとも逃すまいと窓にかじりついていました.あっという間の初潜航でした.

ーー7年越しの夢を叶えた瞬間は、どんなことを思いましたか?
佐藤:揚収作業中,Aフレームに吊られながらみた窓の外には,「グッジョブ!」と親指を立てた先輩研究者らが見えました.しかも出迎えに来てくれているのは,7年前の航海で知り合った先輩研究者たち.研究続けてきてよかったなあと,改めて思いました.感無量です.

   

ーー深海底というのは、いったいどんなところなんでしょうか?
佐藤:潜航する場所で違うと思いますが,私が見た深海底は,堆積物と枕状溶岩と熱水性堆積物で覆われた世界でした.実際の海底は,海底地形図ではわからないような,細かな起伏や構造物など数多く見られました.また、岩石や堆積物の分布や色の変化は本当に多様でした.これほどまでに深海底が変化にとんだ場所だと思っていませんでした.ただし調査できたのはライトの届く範囲だけです.その外にはどのような海底が広がっているのか、謎は尽きません.

ーーこれから「しんかい6500」の初潜航を目指す若者に一言お願いします
佐藤:「しんかい6500」は,1潜航につき1研究者しか乗れませんが,潜航計画は多くの研究者の協力によって成立しています.自分の知識・技術・アイデアはそのまま潜航に繋がるかもしれないし,また誰かの研究の助けになるかもしれません.常にアンテナを張って乗りたいとアピールし続けることが大事です.

ーーありがとうございました。今後のさらなるご活躍を期待しております
佐藤:ありがとうございます


写真:潜航調査を終え、深海底から無事に帰還した佐藤太一研究員