気候変動リスク情報創生プログラム

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海洋研究開発機構

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PD(プログラム・ディレクター)からのメッセージ

住 明正

住 明正
文部科学省技術参与
国立環境研究所
理事長

  今年も、いろいろな異常気象に驚かされました。2月に山梨県を襲った豪雪や、7月の西日本を中心とする台風の襲来、そして、梅雨前線もどきの前線による豪雨に伴う広島での土砂災害など記憶に新しいことと思われます。また、西日本は、まれにみる日照不足となっています。これらの特徴は、今までに報告されていた地球温暖化に伴う気候の変化と平仄があっています。「気候が変化した」と感じている人も多いことと思います。
  平成24年度から始まった本プログラムは、地球温暖化に伴う気候影響をリスクとして適切に評価し、対策に生かしていこうとするものです。平成26年度は、5年のプログラムの3年目にあたります。今まで得られた多くの成果の一端をお知らせしたいと思っています。
  我々の環境は、気温や降水量、日射などの物理的な要素だけでできているわけではありません。大気中には、チリや芥、土壌粒子やエアロゾルと呼ばれる様々な物質が浮かんでいます。また、このような物質は、風や川の動きによって海洋中に運ばれます。中国大陸からの黄砂粒子がはるかハワイ沖の太平洋に落ちているという話は有名です。地表面には、様々な生物が生態系を形作っています。生物の働きは地球環境の形成に不可欠のものです。このような大気中の物質の動きや生態系の振る舞いについての最近の知見をお話しします。
  気候変動の影響というと、すぐに、頭に浮かぶのは、洪水・土砂崩れ・干ばつなどの自然災害と食料不足を思い起こさせる農業への影響です。これらの点についても、「現在の科学的知見に基づいて何ができるのか、どのような対策を取ればいいのか」など、皆さんの興味のある話題を提供する予定です。
  日本政府も地球温暖化に対する対策として、適応計画をまとめようとしています。また、国際的にも地球温暖化に関する科学的知見への要請は強まっています。このような政府や地方自治体の適応計画の立案や実施、国際動向に対して、本プログラムが、具体的にどのような役割を果たしていくか、という点は重要と考えます。それに関して、パネルディスカッションで議論したいと考えています。

講演要旨

陸から大気を通して海へと運ばれるミネラル  大気化学は「アイアンシェフ」

伊藤彰記

伊藤彰記
海洋研究開発機構
主任研究員

  鉄仮説に基づいて、鉄を海に散布して植物プランクトンの光合成を促進させ、大気から二酸化炭素を取り除く手法が、ジオエンジニアリングの一手法として提案されています。鉄仮説とは「海洋は鉄不足であり、海洋への鉄供給量を増加させると大気中の二酸化炭素濃度を減少させる生物ポンプ(大気中から取り込まれた二酸化炭素が、海洋植物プランクトンの光合成から始まる食物連鎖を通して粒子状物質となり、海洋内へと輸送されるメカニズム)の働きが活発化される。そのことから、二酸化炭素濃度変動と連動した気候変動を制御していた一因として、ダスト(乾燥した土壌粒子が、強風により地面から上空へと巻き上げられた粒子状物質)による南大洋への鉄供給量変動がある」というものです。しかし、この仮説にはいくつの疑問点が残ります。例えば、海洋生態系にとって砂漠の砂は栄養になるのだろうか?陸から海へと運ばれるミネラルは、大気中の化学反応によって栄養塩に変化するのだろうか?あるいは、そのような鉄は、砂漠起源ではなく別に発生源があるのだろうか?この仮説に関して、最新の大気化学の数値モデル研究から導かれた答えが本講演の中心となります。

生態系からみる気候変動

羽島知洋

羽島知洋
海洋研究開発機構
特任研究員

  地球環境に関わる様々な要素を盛り込んだ気候モデルの開発は、気候変動リスク情報創生プログラムにおける大きな研究課題の一つです。例えば植物の活動もそれに含まれます。植物を含む生態系は、我々が暮らす地域規模から全球規模まで、様々なプロセスを経て気候から影響を受け、そして逆に影響を与えています。このような様々な要素を盛り込んだ気候モデルのことを、近年では「地球システムモデル」などと呼び、温暖化予測に活用しています。この地球システムモデルは、特に数十年〜数百年後の地球の有り様を描く際に欠かせないものとなっています。本講演では、我々が身近に感じることも多い植物やそれを取り巻く生態系が、今後進行するであろう温暖化とどのように関わるのかについて、最新の地球システムモデルを用いた研究成果を交えながら紹介します。

洪水や浸水・氾濫を予測する技術と温暖化による影響評価

立川康人

立川康人
京都大学大学院 工学研究科
教授

  地球温暖化によって雨の降り方が変化すると、洪水の発生の仕方も変化する可能性があります。水害にあわないようにするために、河川を改修するときは、例えば平均的に100年に一回の割合で発生する洪水の大きさを予測し、その大きさの洪水が発生しても被害が出ないことを目標として治水事業が進められます。温暖化に伴いこの洪水の大きさが変化する可能性があります。この変化を予測することが、将来に向けて河川を整備していく上で重要な課題となります。温暖化によって台風が強大化することも指摘されており、最大級の台風による洪水や浸水・氾濫を予測することも重要な課題です。最大級の浸水・氾濫の予測は、避難経路の確保や水害にあいにくい住まい方など、水害に強い町・地域を形成していくための基礎的な情報を与えます。本講演では、これらの予測を実現する最新技術と洪水の発生の仕方が将来どのように変化する可能性があるかについて紹介します。

気候変動に灌漑や農業はどの程度耐えられるか

増本隆夫

増本隆夫
農研機構 農村工学研究所
資源循環工学研究領域 領域長

  現在、政府は気候変動に関する適応策検討のための計画作成を急いでいますが、対象が「農業」、「水環境・水資源」、「自然災害」等に分類され、それぞれ独立する各分野で検討しようとしています。しかし、灌漑や農業に対する気候変動の影響やそれらへの適応策を考える上では、農業と水資源や、農業と自然災害など、両者に跨がる部分についての検討が重要です。しかしながら、農地は中山間地から低平地まで広がり、人為的な管理が行われる農業水利用はそのモデル化が必ずしも簡単ではありません。一方で、極端現象(豪雨、渇水)の発生の懸念や農業生産に利用可能な水資源量も年による変動が大きくなると予測されています。全世界では、低平農地における大氾濫が長期間継続する例も毎年のように見うけられます。そこで本講演では、将来の気候変動に対して、灌漑や農業がどの程度まで耐えうるか、あるいはそれらの将来のあるべき姿はどのようなものかなどについて、これまで明らかになった事実を交えながら紹介します。