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CDEX
Graphic Guide:海面下8000mにセンサを設置 摩擦熱から巨大地震を探る

東日本大震災を引き起こした巨大地震と津波の発生メカニズムを調べるために海底深くに温度計などのセンサを設置する計画が動き出した。技術的には南海トラフでの長期孔内観測装置設置の経験が活かされるが、環境が異なるため、まったく同じようにはいかない。今回の調査を確実に成功させるために、どのような工夫がこらされているのだろうか。
(2012年3月掲載)

許正憲 取材協力
許正憲
(きょ まさのり)

地球深部探査センター(CDEX)
開発グループ
グループリーダー

世界初を成し遂げた経験を生かして

 「岩盤と岩盤が擦れると摩擦熱が生じます。付近の岩石の温度はその熱を受けて上昇し、徐々に元の状態に戻ります。滑りのエネルギーが大きいほど温度も高くなるので、断層付近の温度を計測すれば、どの程度の滑りが起きたのかを知るヒントになります」
 こう語るのは地球深部探査センター開発グループのグループリーダー、許正憲氏。東北地方太平洋沖地震調査掘削プロジェクトにて、掘削孔内部への観測装置の設置を担当している。
 今回のプロジェクトは南海トラフ地震発生帯での長期孔内観測装置の設置がベースになっている。このときは掘削孔に通したケーシングパイプの内側に歪計や温度計など合計7種類のセンサを設置した。海底下の1つの孔内にこれほど多数のセンサを設置して長期観測するのは世界で初めてだった。長期孔内計測システム開発プロジェクトマネジャーだった許氏は当時の苦労をこう振り返る。
 「南海トラフは黒潮のために流れが速く、水中の振動も激しい場所。高精度のセンサは衝撃に弱いので、設置作業は慎重に進めなければならず、事前に実海域で試験もしました」
 このときの観測1号機の設置完了は2010年12月のこと。それから3カ月後の3月11日に東日本大震災が発生した。
 ほどなく震源域への観測装置設置の検討が始まる。南海トラフの場合は準備に約2年かけたが、震源域の状況は刻一刻と変化するので、観測開始は一日も早い方がいい。5月頃には統合国際深海掘削計画(IODP)への研究プロポーザル提出へ向けた議論が本格的に開始された。通常は評価に数年以上かかるところ、緊急掘削提案として集中的な検討を行い、8月には研究提案にGOサインが出た。
 「科学的意義、社会的意義の大きい研究だと思います。今回の震災は世界的にも関心が高く、乗船研究者を募ったところ、想像以上の応募があったと聞いています。これほどの期待を背負っている以上、我々は確実に成功させなければなりません」
 観測を成功させるために、研究チームは温度の計測をメインに据えた。温度センサは他のセンサと比べてシンプルで扱いやすい。また、設置にあたっては南海トラフの黒潮で苦労した経験が存分に活かされるという。