ちきゅうレポート
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最終章「ザ・ドリフターズの終着点」2010年12月13日

前回、カッコつけて第一章としましたが、今回いきなり最終章です。(えっ!by編集長)・・・・で、一応、前回の続きですが、完全組立完了した長期孔内観測システムLTBMS(未だ仮称、早く決めてくれぇ、荒木さん!)は「ちきゅう」からつり下げられたまま約20マイルほど離れた設置サイトへと向かいます。なぜ、こんな手間をかけるかというと、設置サイトのあたりは黒潮の影響で流れがとても強く、そんな場所で組み立て作業をすることは繊細なセンサを搭載しているLTBMSにとって大きなリスクになるからです。そこで、流れのない場所で組み立てて、流れに乗ってドリフトしながらサイトへとアプローチするわけです。この技をわれわれ「ザ・ドリフターズ」と呼びます。
そして、そのスペシャリストはSawada-sanとSaru-chan。彼ら、この流れの強い海域で何度も何度もこの技を決めてきました。百戦錬磨です。穏やかな場所で降下して、流されながらサイトへと誘導して、船から2000m下の小さな孔に入れて、また、戻る・・・・すごいですねぇ、必殺仕置人みたいですねぇ。今回のオペレーションでもいかにビシッとこの「ザ・ドリフターズ」を決めるかがカギとなります。絶対に焦ってはいけません。ジワ~ッとユック~リと攻めるのです。そのスピードおよそ100歳のおじいさんが歩くくらい。距離にして35km以上。そんな長距離を100歳のおじいさんに無茶させて歩かせるわけですから、当然、時間がかかります。2日間くらいかかります。でも、ぜったいのぜったいに焦りは禁物なのです!

え~と、それからですねぇ、「ザ・ドリフターズ」にはかかせないサポーターがいます。それは「ロープくん」。でましたぁ、「メタボくん」のつぎは「ロープくん」です。いずれもLTBMSの公式認定サポーター。強い味方です。「ロープくん」の役目はパイプの振動を止めること。ドリフトによって相対流を軽減できるといっても、ここは紀伊半島沖熊野灘黒潮一丁目、やはり流れは半端ではない。黒潮をなめたらいかんぜよ。そこで登場するのが「ロープくん」。間近にみるとビクともしなそうなドリルパイプですが、これを2000mもの長さつなぎ、強い流れの中におくと激しく振動し始めます。これ、LTBMSにとって大敵です。「ロープくん」の使い方はいたって簡単。ただ単にドリルパイプに這わせてバンドでキュキュッと縛るだけ。すると、あら?不思議!それだけで揺れがピタリと止まるのです。この現象にいち早く気づいたSaru-chanが「ロープすごいですよ!」と教えてくれたときの興奮した顔が忘れられません。(Saru-chan、ごめんなさい。そのとき、わたしはあなたの言っていることを半分以上信じていませんでした)まっ、そんなわけで、そこからSaru-chanとロープくんのつきあいが始まり、今では堂々たるロープコレクター。Saru-chanが「ちきゅう」船上に集めたロープの全長・・・・う~むuncountable。しかしながら、そのおかげで、LTBMSはまったく揺らされることもなく、直立不動のままリエントリーコーンへと到着できたのでした。

任務を終え下船直前のザ・ドリフターズの面々。もう一人はもちろん「ちきゅう」くん。

さて、最終章なので、もう少し書かせてくださいね。「ザ・ドリフターズ」作戦で無事、リエントリーコーンへと到着したLTBMSはセンサなどの作動確認を終えて、いよいよあの細く長い孔へと突入します。ドキドキですねぇ。大丈夫でしょうか?LTBMS関係者のみなさん、オフィスの大画面モニタ前に集合し、ROV無人探査機から送られてくる映像のその一瞬を固唾をのんで待ち構えています。3-1/2”チュービングがか弱くみえてきます、ケーブルが少しゆるんでいるようにもみえます、パッカーがちょっと膨らんでいるようにもみえます、ヒーブが大きいようにもみえます・・・・いやいや、すべて錯覚。われわれがやってきたことを信じましょう!そして、ついにその瞬間はとてもなめらかな動きの中で始まりました。ブルノーズ、ミニスクリーン、セントラライザ、歪み計、センサキャリア・・・・LTBMSの体のひとつひとつが深海の静けさの中で暗黒の地下へと消えていきます。「流れ地獄」のつぎは、「擦過衝撃地獄」。でも、この苦にも耐え、すべてが孔内へと収まり、センサの動作を確認し、セメントで固定され、ドリルパイプと切り離されて、LTBMS設置のすべての作業が完了したのでした。2010年12月9日04:01。

LTBMS・・・・流れにも負けず、波にも負けず、ウェルヘッドとの衝突にもケーシング内壁とのこすれにも負けぬ丈夫なからだをもち、動作不良はなく、孔の中では決して引っかからず、いつも静かに深海底で笑っている・・・・来年の3月にハイパードルフィンでまた会いに来るからなぁ~!



C0002サイトへ行けば、君が笑顔で迎えてくれる!


Nori KYO

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