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2010年 10月 5日
独立行政法人海洋研究開発機構

統合国際深海掘削計画(IODP)地球深部探査船「ちきゅう」研究航海
「沖縄熱水海底下生命圏掘削−1」の終了について

独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 加藤 康宏)の運用する地球深部探査船「ちきゅう」は、本年9月1日より、統合国際深海掘削計画(IODP)(※1)第331次研究航海として、「沖縄熱水海底下生命圏掘削−1」を実施していましたが、10月4日をもって航海を完了しました。本研究航海の結果概要を以下の通りご報告します。

1.実施内容

本研究航海では、熱水活動域の海底下における微生物群集の規模および生態系の実態を世界に先駆けて解明することを目的として、沖縄トラフ伊平屋北熱水域の5地点(INH-1DおよびC、INH-4D、INH-5D、INH-6B、INH-11A)において掘削を実施しました(【図1】及び【図2】)。

全地点においてコア(円柱状地質試料)を採取するとともに(各掘削孔の実績概要は別添の通り)、うち2地点(INH-4D、INH-5D)の掘削孔で、化学・微生物学的モニタリング研究のためのケーシングパイプ(孔壁の保護パイプ)を設置しました。

本研究航海は、高井 研(海洋研究開発機構・プログラムディレクター)、Mike Mottl (ハワイ大学・教授)が共同首席研究者を務め、8カ国から計25名(日本8名、米国8名、欧州6名ほか)の科学者が参加しました。

2.結果概要

(1)海底下に広がる熱水帯構造と熱水変質帯の発見

高温熱水噴出の活動の中心から約100m東に離れた地点(INH-4D)、およびさらに東に350m程度離れ た地点(INH-5D)の2地点において、掘削深度に対し予想を超える温度上昇がみられ、熱水変質硫酸塩鉱物(※2)を含む火山性堆積物を回収しました。また、海底下を水平方向に流れる複数の熱水を発見し、伊平屋北熱水域の東側海底下に幾重にもおよぶキャップロック構造(※3)が発達した高温熱水の 移流と滞留(【図3】)、海底下熱水と浸透海水との混合過程における熱水変質帯(熱水の影響を受けて変質した地層が分布している範囲)の存在を発見しました。

(2)海底下の熱水の滞留を発見

コア間隙水(コアに含まれている水)の化学組成解析の結果、海底下に存在する熱水滞留帯の上部に は蒸気相に富んだ軽い熱水が、下部には塩分に富んだ重い熱水が滞留していることが分かりました(【図3】)。

これまで理論計算上の仮説として、塩分濃度の高い熱水が分離して熱水滞留帯の下部に滞留すると考えられてはいましたが、本研究航海で、その状態を掘削によって世界で初めて発見しました。また熱水滞留帯の規模は非常に広大かつ深いもので、これまで沖縄トラフのような島弧などのプレート収束域の熱水の循環スケールや流量は小さいと考えられてきましたが、その概念を大きく覆す発見となりました。

(3)熱水性硫化鉱物の分布・組成、熱水鉱床の成因解明に繋がる発見

採取されたコアには、熱水の作用によって生成された金属硫化物からなる多様な硫化鉱物が観察され、その分布・組成を明らかにする発見がありました。これまでも、海底の高温熱水を噴出する熱水マウンドやその基部(INH-1DおよびC)に黄鉄鉱、閃亜鉛鉱、方鉛鉱、銅藍、黄銅鉱を含む大量の硫化鉱物が存在することは知られていましたが、特に、熱水変質帯が認められた2地点(INH-4D、INH-5D)において分厚い熱水変質帯の下部に脈状の硫化鉱物生成層が認められ、熱水鉱床(※4)の成因解明に繋がる科学的価値のある発見がありました。

3.今後の展望

今後は、海底下熱水の長期にわたる定期的な化学組成解析や海底下微生物群集の多様性や機能解析を進めることにより、熱水活動域の海底下で活動している微生物群集の規模および種組成、さらにその生態系の実態について解明していきます。また、今回の研究航海で採取したコアの詳細な分析と掘削孔の化学・微生物学的モニタリング研究を進め、微生物や硫化鉱物の組成等を明らかにするとともに、熱水直下微生物圏の検証や生命圏と非生命圏の境界および境界条件の解明、熱水鉱床の成因や沖縄トラフ伊平屋北熱水域における硫化鉱物生成層の規模や組成等についても研究を進めていきます。

4.地球深部探査船「ちきゅう」の今後の予定

10 月9 日および10 日
沖縄県中城港にて一般公開(要事前申込)[既に締切り]
11 日〜14 日
神戸港へ回航
16 日
神戸港にて一般公開
19 日
和歌山県新宮港へ出港
20 日〜29 日
和歌山県新宮港にて資機材搭載
10 月30 日〜
南海掘削IODP 第332次研究航海

(※)なお、上記の予定は海気象状況等によって変更することもあります。

※統合国際深海掘削計画(IODP:Integrated Ocean Drilling Program)

日・米が主導国となり、平成15年(2003年)10月から始動した多国間国際協力プロジェクト。現在、欧州、中国、韓国、豪州、インド、NZ の24ヶ国が参加。日本が建造・運航する地球深部探査船「ちきゅう」と、米国が運航する掘削船を主力掘削船とし、欧州が提供する特定任務掘削船を加えた複数の掘削船を用いて深海底を掘削することにより、地球環境変動、地球内部構造、地殻内生命圏等の解明を目的とした研究を行う。

※2 熱水変質硫酸塩鉱物

熱水と熱水に接触する地層との作用により生成する硫酸イオンを含む鉱物

※3 キャップロック構造

地層が伏せた椀の形状をしており、水を通さない不浸透性の岩石で覆われている地質構造。地層内 部に水が捕捉貯留されやすい。

※4 熱水鉱床

熱水が冷却または減圧することによって、熱水の成分が化学的に沈殿したもののうち、金属などの 有用成分が充分に含まれているもの。

【図1】沖縄熱水海底下生命圏掘削 調査海域図
【図1】沖縄熱水海底下生命圏掘削 調査海域図
【図2】沖縄熱水海底下生命圏掘削 3D 高精度地震探査による掘削海域の海底地形と海底下構造
【図2】沖縄熱水海底下生命圏掘削 3D 高精度地震探査による掘削海域の海底地形と海底下構造
【図3】伊平屋北熱水域東側海底下のイメージ図
【図3】伊平屋北熱水域東側海底下のイメージ図

伊平屋北熱水域東側海底下では、キャップロックが複数存在し、熱水が熱水滞留帯は広大かつ深くまで 達している。熱水は上部の方に蒸気を多く含む軽いものが分布し、下部には塩分を多く含む重い熱水が 存在している。

別添

各掘削孔の実績概要

各掘削孔の実績概要

お問い合わせ先:

独立行政法人海洋研究開発機構
(本内容について)
地球深部探査センター 企画調整室長 山田 康夫 TEL:090-1099-4057
(IODP について)
経営企画室 次長 星野 利彦 TEL:046-867-9207
(報道担当)
経営企画室 報道室長 中村 亘 TEL:090-8877-8576