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2010年 12月 13日
独立行政法人海洋研究開発機構
国立大学法人 東京大学
国立大学法人 高知大学

硫化鉄を纏わない白スケーリーフットを世界で初めて発見
〜インド洋における新規熱水探査の成果〜

1.概要

独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 加藤 康宏)、国立大学法人東京大学(総長 濱田 純一)、国立大学法人高知大学(学長 相良 祐輔)による研究グループは、昨年10月に海洋研究開発機構の有人潜水調査船「しんかい6500」及び支援母船「よこすか」による中央インド洋海嶺ロドリゲスセグメント(図1)の生物・地球化学的調査(課題代表研究者:東京大学大学院工学系研究科附属エネルギー・資源フロンティアセンターセンター長・教授 玉木 賢策)を行い、新たな熱水噴出孔を2ヶ所発見し(図2)、うち一ヶ所において、硫化鉄の鱗を纏わない白いスケーリーフットを世界で初めて発見しました。

これまで、スケーリーフットは世界で唯一インド洋の「かいれい熱水フィールド」(図1A)にしか存在が知られておらず、また他の生物に類を見ない硫化鉄の黒い鱗を持っていることから、その生態が注目されていました。今回新たに発見された白いスケーリーフットは、「かいれい熱水フィールド」から700km以上離れた「ソリティア熱水フィールド」に生息しており、しかも硫化鉄の黒い鱗を持つタイプとは異なり、硫化鉄で覆われない白い鱗を持っていました(図3図4)。今回の発見で、謎に包まれたスケーリーフットの進化と生理・生態の解明が大きく進展するものと期待されます。

この成果はサンフランシスコで開催される国際学会(2010 AGU Fall Meeting)で14日(現地時間)に発表されます。

2. 背景

インド洋の熱水噴出孔生物群集は、大西洋のみに生息する生物と、太平洋のみで知られている生物、そしてインド洋に固有の生物が混在している独特なものであり、このことからインド洋中央海嶺は熱水噴出孔生物の多様性とその進化の歴史を解明する上で非常に重要な場所です。とりわけ、2001年に米国の研究者らにより発見された、世界で唯一の“硫化鉄の鱗をまとう巻貝”「スケーリーフット」は、世界中でインド洋の「かいれい熱水フィールド」と呼ばれる熱水活動域(図1A)の極めて限定された場所でしか見つかっておらず、その進化のルーツや硫化鉄の鱗の役割などが注目されています。

しかし、インド洋では1988年に熱水活動の徴候が初めて報告されて以降、わずか2ヶ所の熱水噴出孔しか見つかっておらず、太平洋と大西洋と比較して海底熱水と熱水噴出孔生物の研究が大幅に遅れています。そのため、インド洋における新たな熱水噴出孔の発見が切望されていました。

そこで、新たな熱水噴出孔と熱水噴出孔生物の調査のため、2006年に東京大学海洋研究所(現:東京大学大気海洋研究所)と東京大学生産技術研究所の調査によって熱水の兆候が確認されていた中央インド洋海嶺ロドリゲスセグメント北部の「ドードー溶岩平原」と同南部の「ロジェ海台」(図1)において、ディープトウカメラと「しんかい6500」を用いて集中的な探査を行いました。

3.結果

探査の結果、熱水の兆候が確認されていた「ドードー溶岩平原」と「ロジェ海台」で2ヶ所の熱水噴出孔を発見し、それらはそれぞれ「ドードー熱水フィールド」、「ソリティア熱水フィールド」と名付けられました(図1)。

また新たに発見した熱水噴出孔の熱水生物群集を調査した結果、南部の「ソリティア熱水フィールド」において、これまで全くその存在が知られていなかった白いスケーリーフットの群集が多数発見されました。この白いスケーリーフットは、これまで知られていた黒いスケーリーフットのように硫化鉄で覆われた黒い鱗ではなく、硫化鉄を纏わない鱗を持つために白く(図3図4)全く新しいタイプのスケーリーフットであることが明らかとなりました。

4.今後の展望

スケーリーフットは、その「硫化鉄の鱗を纏う」という他に類を見ない性質が、多くの分野の研究者の注目を集めてきました。今回、新たに硫化鉄を纏わない白い鱗を持つスケーリーフットが発見されたことで、今後両者の比較研究を行うことが可能となります。硫化鉄の鱗を形成する目的と仕組みの解明のみならず、これまで謎につつまれていたスケーリーフットの進化や生理・生態も明らかにできるようになります。

また、スケーリーフットが硫化鉄の鱗を形成する仕組みは、材料科学分野でも注目されつつあり、硫化鉄の鱗を形成する仕組みの解明が進むことで、将来的には産業への応用の可能性も期待されます。


図1:インド洋で発見されたドードーおよびソリティア熱水フィールドの位置



図2:(A) ドードー熱水フィールドのチムニーは、基底にマウンドを伴わず小規模(高さ1m程度)。(B)ソリティア熱水フィールドのチムニーは、ドードーに比べて規模が大きく(高さ2m程度)、基底にはマウンドを伴う。



図3:ソリティア熱水フィールドで新たに発見された「白スケーリーフット」(A)。これまで唯一知られていたかいれい熱水フィールドの「黒スケーリーフット」(B)と異なり、鱗と殻が白い。



図4:「黒スケーリーフット」と「白スケーリーフット」の鱗断面の(A)顕微鏡写真、(B)鉄含有量、(C)硫黄含有量を比較した図。「黒スケーリーフット」の鱗は硫化鉄でコーティングされているために鉄と硫黄を含んで黒いが、「白スケーリーフット」の鱗は硫化鉄で覆われていないために白い。

お問い合わせ先:

(本研究について)
 独立行政法人海洋研究開発機構
システム地球ラボ プレカンブリアンエコシステムラボラトリー
研究員 中村 謙太郎 電話:(046)867-9652
 国立大学法人東京大学大学院工学系研究科附属
 エネルギー・資源フロンティアセンター
センター長・教授 玉木 賢策 電話:(03)5841-7018
(報道担当)
 独立行政法人海洋研究開発機構
経営企画室 報道室長 中村 亘 電話:(046)867-9193