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2010年 12月 13日
独立行政法人海洋研究開発機構

統合国際深海掘削計画(IODP)第332次研究航海の終了について
〜長期孔内観測装置の設置に成功〜

独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 加藤 康宏)の運用する地球深部探査船「ちきゅう」は、本年10月25日より、統合国際深海掘削計画(IODP)(※1)第332次研究航海として、紀伊半島熊野灘において「南海トラフ地震発生帯掘削計画ステージ2 (※2)ライザーレス掘削による長期孔内観測装置の設置」を実施していましたが、12月11日をもって航海を完了しました。本研究航海では、国家基幹技術である「海洋地球観測探査システム」の一環として開発した長期孔内観測装置の設置に成功しました。これにより巨大地震の発生メカニズムの解明および発生時のリアルタイム情報の取得等に資する観測が可能となります。

本研究航海の概要を以下の通りご報告します。

1.実施内容

本研究航海では、巨大地震発生メカニズムの解明を目的として、昨年度に掘削した巨大分岐断層最浅部(C0010地点、水深2,523.7m、ケーシング深度544.3m)において、第319次研究航海で孔内に設置した温度・圧力計の回収を行うとともに、採水機能および微生物の採取・現場培養機能を有する間隙水圧・温度計を設置しました。

さらに、将来の超深度ライザー掘削孔井地点(C0002地点、水深1,937.5m)において、海底下980mまでのライザーレス掘削および掘削同時検層(LWD) (※3)を実施し、孔内にケーシングパイプを設置後、恒久型の長期孔内観測装置を設置しました(【図1】【図2】【図3】)。

本研究航海は、荒木英一郎(海洋研究開発機構・技術研究主任)、Achim Kopf(ブレーメン大学・教授) が共同首席研究者を務め、日本からは共同首席研究者を含む3名が乗船したほか、米国、欧州からも含め、計8名が乗船研究者として参加しました。

2.結果概要

(1)C0002地点における長期孔内観測装置の設置

C0002地点において、南海掘削における最初の長期孔内観測装置の設置に成功しました。この長期孔内観測装置は、熊野海盆の海底下約1kmに到達する掘削孔内の約750-940mの深度に地震・地殻変動などを観測する複数のセンサー((1)歪計(2) 傾斜計(3)温度計(4)間隙水圧計(5)広帯域地震計(6)短周期地震計(7)強震計)を設置固定し、ケーブル等によって接続したものです(【図4】)。

C0002地点は、100年〜150年の間隔でマグニチュード8クラスの地震を引き起こす東南海地震震源域の海溝側の端に位置しています。設置に成功した長期孔内観測装置は、孔内の安定した地層内にセメントで固定しており、これまでのような軟らかい堆積層の上で行う観測と比べ、地震断層やその周辺の地殻の微小な変動をより高感度かつ高精度に観測・監視することができます。

(2)C0010地点における一時的孔内観測の実施

C0010地点では、東南海地震を起こす地震断層から分岐する主要な分岐断層の一つを貫通し、分岐断層の継続的な孔内モニタリングの実現を目的としています。昨年5〜8月に実施した第319次航海においてライザーレス掘削で分岐断層を掘り抜き、分岐断層における孔内間隙水圧および温度を測定する観測装置の設置を行いました。

今回の第332次研究航海では、第319次研究航海で設置した装置の回収に成功し、設置から約15ヶ月間の孔内間隙水圧・温度に関する良好なデータが得られました。回収された記録からは、予想されていた地層間隙水圧の潮汐に対する応答のほか、環太平洋域で発生した地震・津波の形跡やそれに伴う地殻の変形を示唆する結果が得られています。この観測結果は、この地点における将来的な長期孔内観測装置の設置計画の最適化に有益なものです。

また、今回は間隙水圧・温度計に加え、地震の発生によって引き起こされると考えられている地層内流体の変化の把握に必要な採水機能、さらに微生物の採取・現場培養機能を追加した観測装置の設置にも成功しました。本装置を用いて、次回C0010地点に長期孔内観測装置を設置するまでの間、孔内観測を続けます。

3.今後の展望

今後の計画としては、C0010地点にも長期孔内観測装置を設置し、同地点においても分岐断層のモニタリングを行う予定です。

さらに、東南海地震震源域周辺の地震・津波の監視を目的として紀伊半島熊野灘に設置している海底ケーブル地震・津波観測ネットワーク(DONET)(※4)に長期孔内観測装置を接続し、海底および海底下の総合観測ネットワークにより東南海地震震源域におけるリアルタイムの観測・監視を実現します。

4.「ちきゅう」の今後の予定

「ちきゅう」は引き続き12月12日より平成23年1月10日までの予定で、第333次研究航海として「南海トラフ地震発生帯掘削計画ステージ2インプットサイト掘削-2および熱流量の測定」を実施します。

※1 統合国際深海掘削計画(IODP: Integrated Ocean Drilling Program)

日・米が主導国となり、平成15年(2003年)10月から始動した多国間国際協力プロジェクト。現在、欧州、中国、韓国、豪州、インド、NZの24ヶ国が参加。日本が建造・運航する地球深部探査船「ちきゅう」と、米国が運航する掘削船を主力掘削船とし、欧州が提供する特定任務掘削船を加えた複数の掘削船を用いて深海底を掘削することにより、地球環境変動、地球内部構造、地殻内生命圏等の解明を目的とした研究を行う。

※2 南海トラフ地震発生帯掘削計画(南海掘削:NanTroSEIZE)の全体計画

本計画は、全体として以下の4段階(ステージ)に分けて掘削する計画で、紀伊半島沖熊野灘において南海トラフに直交する複数地点を掘削する計画(【図3】)。

ステージ1

巨大分岐断層やプレート境界断層の浅部(1400m以浅)のライザーレス掘削を実施し、地層の分布や変形構造、応力状態など、地震時に動いたと考えられる断層の特徴を把握する。

ステージ2

巨大地震発生帯の直上を掘削し(ライザーおよびライザーレス掘削)、地質構造や状態を解明する。掘削した孔内には観測システムを設置し、地震準備過程のモニタリングを行う。また、プレートとともに地震発生帯に沈み込む前の海底堆積物を掘削しコア試料を採取することで、組成、構造、物理的状態等を調査する。

ステージ3

巨大地震を繰り返し起こしている地震発生帯に到達するライザー掘削を実施し、地震発生物質試料を直接採取して、物質科学的に地震発生メカニズムを解明する。

ステージ4

長期間にわたり掘削孔内で地球物理観測を行うシステムを巨大地震発生帯掘削孔に設置する。将来は、地震・津波観測監視システム(DONET)と連携し、地震発生の現場からリアルタイムでデータを取得する。

※3 掘削同時検層(LWD)

ドリルパイプの先端近くに各種の物理計測センサーを搭載し、掘削作業と同時に現場での地層物性の計測を行う技術。地質試料の採取ではないが、掘削箇所の地層状況を“現場”で連続測定することにより、比較的短期間に地質情報を得ることができる。これらにより、科学情報と共にその後の試料採取掘削等に有用な掘削孔の安全監視及びリスク回避等の情報が得られるため、南海トラフのような複雑な地質構造での掘削には非常に有効。

※4 地震・津波観測監視システム(DONET)

東南海地震を対象としたリアルタイム観測システムの構築および地震発生予測モデルの高度化等を目指し、東南海地震の想定震源域にあたる紀伊半島沖熊野灘に設置中の海底ネットワーク観測システム。従来の観測システムではなし得なかった深海底における多点同時、リアルタイム観測の実現を目的としており、各観測装置からのリアルタイムデータは、気象庁、防災科学技術研究所及び大学などに送られる計画。

【図1】南海トラフ地震発生帯掘削計画 調査海域図
【図1】南海トラフ地震発生帯掘削計画 調査海域図
【図2】南海トラフ地震発生帯掘削計画 3D高精度地震探査による掘削海域の海底地形と海底下構造
【図2】南海トラフ地震発生帯掘削計画 3D高精度地震探査による掘削海域の海底地形と海底下構造
【図3】南海トラフ地震発生帯掘削計画 概要図(第332次研究航海の関連掘削孔サイトを赤で表記)
【図3】南海トラフ地震発生帯掘削計画 概要図
(第332次研究航海の関連掘削孔サイトを赤で表記)
【図4】長期孔内観測装置 模式図
【図4】長期孔内観測装置 模式図
【写真】長期孔内観測装置の掘削孔内への降下(無人探査機にて海底作業の様子を撮影 平成22年12月8日)
【写真】長期孔内観測装置の掘削孔内への降下
(無人探査機にて海底作業の様子を撮影 平成22年12月8日)

なお、第332次研究航海の様子・状況につきましては、海洋研究開発機構ホームページ「ちきゅうTV」(http://www.jamstec.go.jp/chikyu/nantroseize2010/)にて12月13日から配信いたします。

お問い合わせ先:

独立行政法人海洋研究開発機構
(本内容について)
地球深部探査センター 企画調整室長
山田 康夫 TEL:03-5157-3900
地震津波・防災研究プロジェクト 研究企画グループリーダー
中山 敦志 TEL:046-867-9326
(IODPおよびDONETについて)
経営企画室 研究企画統括 星野 利彦 TEL:03-5157-3900
(報道担当)
経営企画室 報道室長 中村 亘 TEL:046-867-9193