巨大地震発生のメカニズム解明を目指す、地球深部探査船「ちきゅう」。今回は、和歌山県紀伊半島沖で行った研究航海結果のお知らせです(図1)!
図1:海域図
今回の目的は、海底下の地盤の動きを「長い間監視する長期孔内観測装置」、そして「一時的に観測する装置」を設置すること。設置する場所は、深海底を掘った孔の中です。船上と陸上から多くの人々が力を合わせて取り組み、このたび、ついに装置の設置に成功しました!これからは、海底下をよりくわしく観測できるようになります。
現在は、装置が観測したデータを確認するには、装置そのものを海底下から引き上げる必要があります。けれど将来は、海底下の装置から、いま紀伊半島沖熊野灘の海底に築いている地震・津波観測監視システム(DONET:2010年1月14日発表)までケーブル(通信線)でつないで、装置を海底下から引き上げなくてもデータを瞬時に確認できるようにする予定です。
その大規模なシステム完成にむけて、今回は大きく前進しました!
地球の表面は、何枚ものプレートと呼ばれるかたい岩の板でおおわれています。プレートはいつもゆっくりと移動しているため、プレート同士がぶつかると、陸側のプレートの下に海側のプレートがしずみこんでいきます(図2)。すると、それによって陸側のプレートの端も引きずりこまれ、どんどんゆがんでいきます。そのゆがみが限界をこえた時、陸側のプレートの端がはね上がり、地震や津波を起こすと考えられています。
図2:地震と津波の発生メカニズム
今回の紀伊半島沖にもプレート同士がぶつかるところがあり、ユーラシアプレートの下にフィリピン海プレートがしずみこんでいます。このあたりは南海トラフと呼ばれます。(参考:2009年8月17日発表)。その様子を横から切って見てみましょう(図3)。
図3:紀伊半島沖の海底下の様子
プレートの境目からは、上に向かってすじのようなひび割れが見られます。断層といいます。これは、地層に力が加わってこわれ、そのこわれた面にそって地層がずれることでできます(解説 )。その断層は、巨大地震が起きる地震発生帯とされています。さらに、その断層から枝分かれしたような断層があります。巨大分岐断層と呼ばれ、巨大地震による津波が発生するとされています。
紀伊半島沖の海底にはこのような場所があるため、巨大地震の研究において重要です。今回の研究航海は、その地震発生帯の真上(C0002)と、分岐断層の出口(C0010)で行いました。
【C0002】巨大地震発生帯の真上
まず、水深1937.5mの深海底で、海底下980mまでを掘り進みました。そして、その孔がくずれないように、太いパイプ(ケーシングパイプ)を入れました。それから、ケーシングパイプの通ったさらに下に、南海トラフで第1号となる長期孔内観測装置をおろし始めました。長期孔内観測装置は、その名の通り長いあいだ孔の内側を調べる装置。ひずみ計、傾斜計、温度計、水圧計、広帯域地震計、短周期地震計、強震計がつながっていて、およそ900mの細長い形をしています(図4)。
図4:長期孔内観測装置
張りつめた空気の中、ひとつひとつ確認しながら、慎重にていねいに作業を続けました。設置後、「ちきゅう」船上から装置に指令を送ってちゃんと動くことを確認。最後に、「ちきゅう」からパイプを通してセメントを孔の底に送って、装置を固定しました。これで装置の設置は、大成功!
【C0010】巨大分岐断層の出口
まず、2009年に設置した温度計と圧力計を回収しました(参考:2009年9月3日発表)。それらを調べたところ、15ヶ月分のデータが記録されていて、地層の中の水圧と
潮の満ち引きの関係や、環太平洋で起きた地震や津波のデータを確認しました。
その後、新しい装置に交換しました。今回の装置は、前回よりもバージョンアップしています。水圧や温度を測る機能に加えて、微生物をとってそこで育てる(培養)機能、そして海底下の水をとる機能を追加したのです。どうして水をとるかというと、水は断層の動きと関係するので、水の性質を調べれば、断層の働きがわかるからです。今回設置した場所は、巨大分岐断層の出口のすぐ横。もし地震が発生したら、断層のすきまから水がわきでます。その水をとって性質を調べれば、断層の働きを知る手がかりをつかめるのです。
この装置は、将来に長期孔内観測装置するまでの間、観測を続けます。
長期観測装置の設置は、今回はC0002だけでしたが、今後C0010でも行う予定です。将来は、海底下の装置から、いま熊野灘の海底に築いている地震・津波観測監視システム(図5)(DONET:2010年1月14日発表)までつなげます。完成すれば、海底と海底下の地震発生に関する情報を、陸上で瞬時に観測できるようになります。
図5:DONET
巨大地震発生のメカニズムを明らかにし、人々の生活に役立てることを目指して、作業は今日も続けられます。
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