深海へ挑み、海底地形や海底下構造を調査する深海探査機。探査機が広い範囲を航行するには、探査機の位置や姿勢をいつも知っておくことが必要です。けれど、深海はまっくらで目印も無く、電波もとどかないのでGPSも使えません。そこで、探査機には、自分で位置を計算する慣性航法装置(INS)という装置がついています。そのINSの位置情報をたよりに探査機は目的のルートを目指すので、INSの性能は極めて重要です。
このたび、新しいINSの開発に、石橋正二郎博士と日本航空電子工業株式会社が成功しました! その性能は、日本の知見と最新の技術を結集させた世界最高水準! 日本の海洋技術に新たな幕開けです!
写真:新INS
たとえばみなさんが歩くとき、北へ2歩、東へ2歩、というように、出発点を基準
にした方角と距離がわかれば、位置がわかりますよね。
そこでINSは、探査機が航行した方角を測る「ジャイロスコープ」とそのときの加速度を測る「加速度計」で構成された、「センサ部」を持っています。そのセンサ部が得たデータを使って、「演算部」が探査機の位置を計算します(図1)。
図1:INSのイメージ
探査機はINSの位置情報
をたよりに目的のルートを目指すので、INSの性能はきわめて重要です。けれどこれまで、INSは小型というと海外製品が主流でした。そこで、純国産、かつ小型の新INSの開発に、2004年から石橋博士は挑んできました!
新INSの機能を紹介しましょう!
1つ目は、「GPS/ドップラ速度計(DVL)/音響測位ハイブリット機能」(図2)です。海中では潮の流れの影響やINSそのものの誤差もあるので、INSの位置情報だけで長時間航行すると、探査機は目標ルートからだんだんずれてしまいます。そこで、できる限り正しい位置に補正するために、ドップラ速度計(DVL)を使って速度を測ったり、音響測位装置を使って海底に設置されたトランスポンダと通信したり、海上ではGPSと通信したりして位置を確認できるようにしました。こうしたデータを参考に新INSは自分の計算方法を補正(ハイブリット)できるので、位置情報の精度がアップ!
図2:GPS/DVL/音響測位 ハイブリット機能
2つ目は、「DVL Dead Reckoning 出力機能」です。新INSの姿勢データとDVLの速さだけで、現在地を計算できる機能です(図3)。DVLの速さが正確なほど正しい位置を計算できます。
図3:DVL Dead Reckoning 出力機能
3つ目は、「地上/船上/海底/ストアヘディング アライメント機能」です(図4)。アライメント機能とは初期設定のようなもので、探査を始めるときに北を探して方角をとらえ、水平を探して自分のかたむき(姿勢)を調べておく機能です。INSでは、このアライメントを探査前にしておくことが必要となります。
けれどこれまでの技術では、たとえば探査中にトラブルが起きて探査機の電源を入れ直すと、アライメント情報は消えてしまいました。これでは探査機を海上にもどしてアライメントし直す手間がかかって大変。
そこで今回は、電源を切る直前のアライメント情報を覚えておけるように、ストアヘディング アライメント機能を開発しました。これで、電源を入れ直しても、地上、船上、海底どこでもすぐに探査再開OK!
図4:ストアヘディング アライメント
4つ目は、「センサRawデータ出力機能」です。新INSがとったそのままの生(Raw)データを、補正したり計算したりせずそのまま出力する機能です。研究者が目的にあわせて自由にデータをあつかうことができます。
新INSは、これまでと比べると、ほら(図5)!
図5:比較
この小ささで0.5Nm/hr CEPの精度は、世界最高水準です!例えば、探査機が1時間で約5.5qくらい移動したとして、その時の誤差は0.9kmくらい。これまでの30%減に相当します!