計画研究A01班では『微生物活動が硫化物鉱床の生成にどの程度寄与するのか??微生物による結晶核形成が大規模硫化物鉱床を形成する』という仮説の下、硫化物鉱床を構成する硫化鉱物に着目し、硫黄同位体比情報から微生物活動の寄与を解明します。具体的には、現世の海底熱水鉱床と陸上の火山性塊状硫化物 (VMS) 鉱床 (過去の海底熱水鉱床) について、鉱物の晶出順序・鉱化ステージごとに異なる組織を示す黄鉄鉱 (FeS2) を主対象とし、2種 (d34S) および4種局所硫黄同位体 (D33S、d34S、D36S) 分析を二次イオン質量分析装置 (SIMS)、ナノSIMSおよびIRMSで行います。そして、得られた硫黄同位体比組成について、熱力学的理論計算を計画研究C01班と共同で行い、硫化鉱物中の硫黄の微生物活動の寄与を定量化します。また、SIMS分析用の硫化鉱物標準試料を作成し、分析手法の高度化も目指します。
計画研究B01班では『微生物による鉱物の溶解・沈殿プロセス』を解明するために、遺伝子解析による硫化鉱物中の硫黄代謝微生物種の同定、室内培養試験による各種微生物の硫黄酸化還元能力の定量的リスト化を実施します。硫化鉱物を構成する硫黄や鉄などの元素に対する微生物の酸化・還元および溶解・沈殿反応は個別に研究されてきましたが、鉱床形成における影響評価に足るデータは多くはありません。特に、複数の鉱物間で生じる電気化学的な反応や圧力下における反応については、個別の反応においてさえ知見が蓄積されていません。そこで、様々な単一微生物および複合微生物培養系で硫化鉱物との反応速度解析や反応中の遺伝子解析により生物的要因の理解を目指します。研究を通して得られる微生物は理化学研究所・微生物材料開発室 (JCM) に適宜寄託して、JAMSTECの深海バイオリソースとの適切な融合を図るとともに、世界に先駆けて生物鉱学カルチャーコレクションとして整備します。
研究計画C01班では硫化鉱物の各化学反応プロセスの素過程理解と定量評価方法の確立を目指します。バイオミネラリゼーションよって生成する鉱物は理想的な (無生物的な) ものと比較して異なる化学組成や結晶構造を持つ場合があります。また、微生物共存下では鉱物の溶解反応も促進され、残存する鉱物の選択性にも大きく影響すると考えられます。このことから、本研究では海洋の硫黄細菌によって生成する硫化鉱物の物理化学的特性と選択性が、海底下で生成する金属鉱床の成因とどのように関連するのか調べます。A01班から提供される天然試料とB01班の生物系反応実験の合成試料をX線吸収微細構造解析 (XAFS) や 走査型透過X 線顕微鏡 (STXM) で分析し、第一原理計算による高精度シミュレーションの結果との妥当性を評価することで、生成鉱物の結晶性・構造変化の違いを定量的にとらえます。さらに、同位体分別係数や反応速度定数などの量子化学計算によって求まる指標と照らし合わせ、SMM反応の痕跡を定量的に評価します。
これまで海洋性硫黄代謝微生物は、海底熱水系などの極限環境における硫黄循環や、独立栄養生態系の成り立ちなど、主に理学的な興味を中心とした研究で取り上げられてきてきました。資源処理技術では淡水性の硫黄代謝微生物の利用に関する研究が進められていますが、海洋性のものを工学的に利用しようとする発想は限定的です。研究計画D01班では、A01班の地質学、B01班の微生物学、C01班の地球化学の基礎的な知見を集約し、海洋性硫黄代謝微生物の産業利用を念頭に置いた工学的な出口を模索します。具体的には、鉱床形成の際に微生物が誘導する鉱化・溶解反応を制御・利用することにより、海水を用水とした鉱物処理バイオプロセス (バイオフローテーション,バイオリーチング,バイオミネラリゼーション) を構築します。本研究で利用する局所硫黄同位体分析や遺伝子発現動態分析、シンクロトロン分析を鉱物資源処理分野の考察に応用することにより、今まで明らかとされなかった鉱業試験系における微生物ー鉱物間の反応機構の解明に取り組みます。最終的には微生物学的情報と工学的情報を統合し、海洋性硫黄代謝微生物の産業利用性判断のための指標づくりを目指します。