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地球情報科学技術センター(CCOAR)

雨が海を暖め、海が雲を作る?
―日本の夏の天候に影響する熱帯の巨大な雲群発達の引き金は海洋との相互作用―

 地球環境部門 大気海洋相互作用研究センターの清木 亜矢子 副主任研究員らの論文が、アメリカ地球物理学連合(AGU)が発行する学術誌『Journal of Geophysical Research: Oceans』に掲載されましたので、研究内容をご紹介いたします。

論文タイトル:Development of the boreal summer intraseasonal oscillation over the western North Pacific associated with self-induced fresh and shallow mixed layers in 2024
著者:清木 亜矢子、勝俣 昌己、堀井 孝憲、永野 憲、植木 巌、茂木 耕作、横井 覚
DOI: https://doi.org/10.1029/2025JC022872

研究成果のポイント

熱帯の暖水域上で巨大な積雲群を伴って北東進する北半球夏季季節内振動(BSISO)が、海洋地球研究船「みらい」や無人海上観測機「ウェーブグライダー」を用いた研究航海によって捉えられた。
これまで、BSISOの晴天時(雲群の抑制期)には海面水温が上がり、荒天時(発達期)には下がることが知られていたが、移行するきっかけは明らかではなかった。本研究では、晴天時から荒天時へ移行する際の大気と海洋の詳細な様子を初めて調査し、移行メカニズムの一端を解明することができた。(図1
移行期において特徴的だったのは、海面水温の急上昇である。その原因は、発達し始めた雲からの降水によって表面に薄い均質な層(海洋混合層)ができて日射が閉じ込められることと、暖かい海水が海流の変化で運ばれてくることであった。雲は暖かい海水の上で発達しやすいため、この海面水温上昇がその後のBSISO発達の引き金になりうることがわかった。
今回の成果によりBSISOの発達タイミングが正確に予測されることで、台風の発生予測や日本を含む東アジア域の夏季の天候予測が改善されることが期待される。
  • 【用語解説】
  • 北半球夏季季節内振動(BSISO):熱帯域を30日~90日周期で北東進する数千kmに及ぶ大気変動。インド洋から西部太平洋にかけた暖水域上では大規模積雲群を伴う(図2)。台風の発生頻度や日本を含む東アジア域の夏季の天候に影響を及ぼすことが知られている。
  • 海洋混合層:海の一番表面にあり、よくかき混ぜられているため水温や塩分が深さ方向にほぼ一様な層。海洋に入ってきた日射を蓄える層として機能する。海上で強い降水があると、表層に低塩分の軽い水が溜まるため、浅い海洋混合層が形成される。

図1 BSISO雲群、海洋混合層水温と海洋混合層深度の関係の模式図。

概要

 国立研究開発法人海洋研究開発機構 地球環境部門の清木亜矢子副主任研究員らは、海洋地球研究船「みらい」や無人海上観測機「ウェーブグライダー」を用いたフィリピン海(熱帯西部北太平洋)での研究航海において、巨大な積雲群を伴う北半球夏季季節内振動(BSISO)が発達する際の大気と海洋の詳細な様子を捉えることに成功しました。その結果、BSISOの晴天時から荒天時へ移行する数日間に、海面水温が降水や海流の変化により急上昇することが発見されました。そして、この急上昇が雲の発達を促し、BSISO発達の引き金になりうることがわかりました。
 BSISOは、北半球夏季に熱帯域を数十日周期で北東進する大気変動であり、海面水温の高い暖水域上では巨大な積雲群と降水を伴います(図2)。特にフィリピン海でもたらされる多量の降水は台風の発生頻度を上げるだけでなく、大規模な大気循環を駆動するため、日本を含む東アジア域の夏季の天候に大きな影響を与えることが報告されています。しかし、これまでBSISOの晴天時(雲群の抑制期)には日射により海面水温が上がり、荒天時(発達期)には雲や雨による日射の遮蔽と強風によるかき混ぜにより海面水温が下がることが知られていましたが、その移行タイミングを決定する詳細なメカニズムは明らかになっていませんでした。
 そこで、本研究グループが研究船「みらい」や無人観測機を用いてフィリピン海において約1か月間の集中観測を行った結果、晴天時から荒天時へ移行する際の大気と海洋の様子を捉えることに成功し、その過程について詳細な現場データを用いて調査することができました。その結果、移行期の数日間では荒天時のように降水がみられた一方で、晴天時のように日射は降り注ぎ、海面水温が急上昇しました(図1)。これは、発達し始めた雲からもたらされた降水が海面付近に薄い均質な層(浅い海洋混合層)を作り日射を閉じ込めたことと、海の流れが変わり暖かい水が運ばれてきたことが要因であることがわかりました。海面水温の上昇は雲の発達を促進することから、その直後にBSISOが発達したきっかけになったと考えられます。

 本研究の成果により、BSISOがフィリピン海で活発化するタイミングを予報することができれば、日本の夏季の天候予測や台風発生予測の精度が改善されることが期待されます。また、この成果が得られたのは、1日8回という高頻度な船上観測と、船舶の周囲に複数台配置された無人観測機により周囲からの海水の移動を計測することができたためです。このように、中緯度域にも大きな遠隔影響を与える熱帯現象を解明し正確に予報するためにも、研究船や無人探査機などを用いた熱帯域における現場観測を更に促進し、実態把握を進めることが重要になります。

背景

 BSISOは、北半球夏季に熱帯域を30~90日周期で北東進する大気変動であり、インド洋から西部太平洋にかけて広がる暖水域(海面水温がとても高い海域)の上では巨大な積雲群と多量の降水を伴います(図2)。熱帯の現象でありながら、その降水から発せられる熱が地球規模の大循環を駆動するため、その影響は中・高緯度域にも及びます。また、冬季に発生する季節内振動であるマッデン・ジュリアン振動(MJO)が赤道付近を東進するのに対し、BSISOは東進しながらインド洋と西部太平洋で北進する成分を持つため、フィリピン海に到達します。フィリピン海で発達した巨大な積雲群は、日本の夏の天候や台風の発生頻度を左右することが知られています。このように、BSISOの発生・発達は日本の天候に影響することから、BSISOがいつ発生し、どのタイミングでフィリピン海まで到達するのかを正確に予測することはとても重要です。しかし、これまでの研究では、BSISOの抑制期と発達期の平均的な構造は解明される一方で、その発達・移動のタイミングを決めるメカニズムは明確にわかっていませんでした。

図2 BSISOに伴う雲と下層風の平均的なライフサイクル。雲が多い(少ない)地域は青(赤)で示されている。一般にBSISOのサイクルは8つの段階(位相)に分けられ、位相が進むにつれて、北東へ移動していく。

成果

 研究航海では2024年6月下旬に清水港を出発し、フィリピン東方の東経132度北緯15度の定点において約1か月間の集中観測が行われました(図3右)。海洋地球研究船「みらい」や無人海上観測機「ウェーブグライダー」3台を用いて(図3左)、海洋上層500 mの水温や塩分、大気の気温・気圧・風・降水など様々な変数を計測しました。

図3 海洋地球研究船「みらい」(左上)、無人海上観測機「ウェーブグライダー」(左下)と研究航海の航路(右)。ウェーブグライダーの画像はLiquid Robotics社のウェブサイトより。

 集中観測中にはBSISOの発達する様子が捉えられました。観測前半はBSISOに伴う大規模な雲群は定点付近で抑制されていましたが、観測後半の7月20日から発達し台風が発生し、BSISOの位相も5から6へシフトしました(図2参照)。これは、BSISO雲群が北東へ移動したことを意味します。ここで本研究が注目するのが、BSISOが発達する数日前からの変化です。過去の研究では、BSISOの抑制期には雲が少ないため多量の日射が降り注ぎ、風も弱いため海面水温は高くなることが知られていました。逆に、活発期は雨が降り日射が遮られ、風も強く海がかき混ぜられるため、海面水温は低くなります。しかし、今回BSISOが発達する数日前の7月17日~20日では、雨は降りながらも日射は減らず風も弱く、海面水温が上昇するという抑制期にも活発期にも当てはまらない状況が観測されました(図4上段)。本研究ではこの期間をBSISO移行期と呼んでいます。この時に、降水により海洋上層の塩分が急激に下がったため、とても浅い海洋混合層が形成されていることもわかりました(図4下段)。具体的には、晴天時には30~50 mほどあった層厚が、移行期には数m程度にまで減少しました。日射を蓄える働きがある海洋混合層がとても浅いということは、海面水温が上昇しやすくなることを意味します。実際、移行時には観測期間中最も高い海面水温を記録しました。また、無人観測機を用いた観測により、移行期には海流の変化によって暖かい海水が観測領域に運ばれていたこともわかりました。高い海面水温は雲をたちやすくするため、この海面水温の上昇が20日以降のBSISO対流発達を引き起こしたことが考えられます。
 では、なぜ移行期では雨が降っているのに日射が減らず風も強まらず海面水温が上昇したのでしょうか。これには、積雲群の段階的な発達が関連します。低く小さい積雲しかたたない抑制期から、大規模で背の高い積乱雲等がたつ発達期の間には、発達期ほど背が高くない中規模な雲(雄大積雲)が発達する時期があります。この中規模雲は雨を降らすけれど空を覆う面積は小さいため、日射は遮りません。そのため、降水によって浅い海洋混合層を形成しながらも日射により海面水温を上げることができるのです(図1)。船舶に搭載されたドップラーレーダーでも、移行期にこの中規模雲が広がっていることが確認されました。

図4 集中観測期間中に研究船上で観測された海面水温と降水量(上段)と海洋上層100 mの塩分(下段)。海洋混合層深度は破線で、等温層深度は実線で描かれている。色付きの丸はBSISO発生日、色はその位相を示す。BSISO移行期は桃色の四角で示されている。

今後の展望

 本研究の洋上船舶観測では、BSISO抑制期と活発期の間に観測された移行期における大気海洋相互作用が後のBSISO発達に貢献することを発見しました。数日間という短期間での詳細な大気海洋相互作用現象の発見は、観測地点の少ない太平洋上で、1日8回という高頻度な船上観測を大気中でも海洋中でも実施し、船舶の周囲に複数台配置された無人観測機により周囲からの海水の移動を計測することができた結果判明したことです。このような結果を大気と海洋を密に連携させた予報モデルに組み込むことで、現在発達タイミングの予測が難しいBSISOの予測精度向上につながることが期待されます。今後も、現在建造が行われている北極域研究船「みらいⅡ」や無人観測機を利用して、衛星からは測れない大気や海洋の詳細なデータを観測・解析することにより、熱帯の雲群の発達メカニズムを解明していくことで、日本や世界の天候予測につなげていきたいと考えています。

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