プロジェクトの成果
深海掘削により室戸岬沖の海底下生命圏の実態とその温度限界を解明~科学誌「サイエンス」に掲載~

T-リミットで⾼知県室戸岬沖南海トラフのプレート境界断層近傍から採取されたコア試料を分析するとともに、掘削孔から噴出する流体の流量を解析したところ、初めてスロー地震(※1)の震源近傍における高圧の間隙水帯の存在を直接確認することに成功しました。

  • T-リミット実施時に、室戸岬沖南海トラフ・プレート境界沿いのスロー地震震源域近傍の岩盤を掘り抜いていたことがわかりました。
  • プレート境界沿いに幅数百メートルの拡がりを持つ高圧の間隙水帯が存在することを、初めて直接確認しました。
  • 室戸岬沖南海トラフのプレート境界浅部には複数の高圧の間隙水帯がパッチ状に点在していることが示唆されました。今後、間隙水圧帯とスロー地震発生との関係を探ることでプレート境界地震研究の進展が強く期待されます。

プレート境界で発生するスロー地震は、巨大地震の準備過程や発生と密接に関わっていると考えられており、その発生メカニズムの解明が期待されています。これまでの地球物理観測の研究から、スロー地震の発生には岩盤中の空隙を埋める高圧の水(高間隙水圧帯)が関与していることが示唆されていますが、実際にスロー地震震源域に高間隙水圧帯が存在するのか、これまで確証を得られていませんでした。

本研究では、海洋科学掘削による直接的なアプローチにより、プレート境界浅部のスロー地震震源域近傍で実際に高間隙水圧帯が存在することを初めて直接確認するとともに、その解析の結果、複数の高間隙水圧帯がパッチ状に点在していることを明らかにしました。

本成果は、スロー地震の発生に高間隙水圧帯の存在が関与していることを強く支持するものです。高間隙水圧帯がスロー地震を引き起こすメカニズムが明らかになれば、スロー地震と巨大地震の関連性の解明、地震の発生予測にも大きく貢献すると期待されることから、今後さらに掘削・保管コア試料を用いた室内実験や数値シミュレーションなどを進めていく予定です。



図1
⾼知県室⼾岬沖の南海トラフ沈み込み帯先端部の掘削試料採取およびデータ取得地点(サイトC0023)。スロー地震の一種である超低周波地震の発生場所を灰色と緑-白円(Asano et al., 2008; Nakano et al., 2018; Takemura et al., 2019)で、スロースリップ領域をピンク色(Yokota and Ishikawa, 2020)で示している。

図2
掘削泥と岩盤中の間隙水が混在した流体が、掘削孔(掘削時の海底下深度1,129 m)を通って海底面(水深4,476 m)の掘削ケーシング先端から噴出している様子(動画)。動画から噴出する流体の流量を見積もって数値解析に用いた。

図3
噴出流体の流量が、高間隙水圧帯を貫いてから時間とともに減少していく様子を示した数値計算の結果。初期の高間隙水圧帯の大きさ(半径を10、100、1000 mの3つの円盤状の間隙水圧帯を仮定)が大きいほど、時間がたっても流量が小さくならない。半径数百メートルの高間隙水圧帯の拡がりを仮定した場合、11月1日と7日に観測した流量をうまく説明することができる。

図4
プレート境界浅部のスロー地震発生帯と高間隙水圧帯の分布の概念図。

※1.
スロー地震:低周波微動、超低周波地震、スロースリップなどに代表される、通常の地震よりゆっくりとした断層すべりの総称。

なお、本研究はJSPS科研費19H02006、19K21907及びJP16H06476の助成のもと行われました。
また、本成果はアメリカ物理学連合が刊行する科学誌「Journal of Geophysical Research; Solid Earth」に掲載されました。

論文タイトル:High Fluid-Pressure Patches beneath the Décollement: A Potential Source of Slow Earthquakes in the Nankai Trough off Cape Muroto

doi:
10.1029/2021JB021831

著者:廣瀬 丈洋1、濱田 洋平1、谷川 亘1、神谷 奈々2、山本 由弦3、辻 健4、木下 正高5、Verena Heuer6、稲垣 史生1、諸野 祐樹1、久保 雄介1

所属:
1. 国立研究開発法人海洋研究開発機構
2. 国立大学法人京都大学大学院 工学研究科
3. 国立大学法人神戸大学大学院 理学研究科
4. 国立大学法人九州大学 工学研究院
5. 国立大学法人東京大学 地震研究所
6. ブレーメン大学 海洋環境科学センター

JAMSTEC News
深海掘削により室戸岬沖の海底下生命圏の実態とその温度限界を解明~科学誌「サイエンス」に掲載~

地球深部探査船「ちきゅう」により高知県室戸岬沖の南海トラフ沈み込み帯先端部の海底から採取された堆積物コア試料の分析結果により、室戸岬沖の地質環境と温度条件に依存した海底下生命圏の実態とその限界が明らかになりました。

  • 南海トラフ沈み込み帯先端部の海底堆積物環境において、40-50℃と70℃付近の深度区間が、生命(微生物)の存続にとって重要な温度限界域であることを突き止めました。
  • 海底下生命圏の温度限界域に、微生物の生存戦略の一つの形態である内生胞子(※1)が高濃度に存在することが見出されました。
  • 70℃付近とプレート境界断層(※2)の下の90-110℃の深度区間に、微生物細胞や代謝活動のシグナルが検出されない環境が認められました。また、その深度区間には、微生物の消費を免れた高濃度の酢酸が存在していました。
  • 110-120℃の堆積物―基盤岩境界域に、酢酸を消費する超好熱性微生物群集の存在が発見されました。

本研究で得られた知見は、現場の温度や栄養・エネルギー状態のみならず、室戸岬沖の南海トラフ沈み込み帯先端部における地質学的プロセスや流体移動プロセスが、海底下深部環境における生命生息可能条件(ハビタビリティ)に重要な影響を与えていることを示しています。また、海洋プレートの沈み込み帯において、120℃までの堆積物―基盤岩境界域においてもなお生命シグナルが検出されたことから、地球惑星における生命圏の広がりとその限界の可能性は、海洋プレートが沈み込むその先や堆積物の下に広がる岩石圏(海洋地殻や上部マントル)にまで及ぶと考えられます。



図1
南海トラフ沈み込み帯先端部の海底堆積物に含まれる微生物の分布と化学成分濃度の鉛直プロファイル。 堆積物の温度や地質構造に沿って、各タイプの微生物群集の密度や活性が局在化していた。

図2
掘削地点C0023より検出された微生物細胞の蛍光顕微鏡写真。細胞に含まれるDNAを緑色の蛍光試薬(SYBR Green I)で染色したもの。(左)深度652.0 m・76℃の堆積物コア試料(43R-3)から分取された微生物細胞。(右)深度1176.8 m・120℃の堆積物コア試料(112R-2)から検出された微生物細胞(写真中央に1細胞)。スケールは20マイクロメートル(1ミリメートルの1/50)を示す。

※1.
内生胞子:バクテリア(真正細菌)の分類群の一つであるファーミキューテス門(Firmicutes)に属する微生物がもつ休眠状の細胞形態の一つ。生育限界に近い温度や、栄養が欠乏し飢餓状態になるなどのストレス条件下において、細胞内に耐久性の高い構造を形成する。本研究では、内生胞子に特異的に含まれる成分であるジピコリン酸の量を測定することで、堆積物に含まれる内生胞子の数を推定した。

※2.
プレート境界断層(デコルマ帯):南海トラフにおいて、フィリピン海プレートが日本列島の下に沈み込む際に圧縮を受け、陸側に付加される堆積物と沈み込む堆積物との間に水平方向に発達する力学的な境界面。付加体が形成される沈み込み帯外縁部から初期形成がはじまり、深部流体の流れや応力の蓄積・解放に直接的に関係することから、海溝型地震の発生メカニズムを理解する上で極めて重要な地質構造とされる。


論文タイトル:Temperature limits to deep subseafloor life in the Nankai Trough subduction zone(南海トラフ沈み込み帯における海底下深部生命の温度限界)

掲載誌:
Science
doi:
10.1126/science.abd7934

著者:Verena B. Heuer1*, 稲垣史生2*, 諸野祐樹2*, 久保雄介2, Arthur J. Spivack3, Bernhard Viehweger1, Tina Treude4, Felix Beulig5, Florence Schubotz1, 藤内智士6, Stephen A. Bowden7, Margaret Cramm8, Susann Henkel9, 廣瀬丈洋2, Kira Homola3, 星野辰彦2, 井尻暁2, 井町寛之2, 神谷奈々10, 金子雅紀11, Lorenzo Lagostina12, Hayley Manners13, Harry-Luke McClelland14, Kyle Metcalfe15, 奥津なつみ16, Donald Pan2, Maija J. Raudsepp17, Justine Sauvage3, Man-Yin Tsang18, David T. Wang19, Emily Whitaker20, 山本由弦21, Kiho Yang22, 前田玲奈2, Rishi R. Adhikari1, Clemens Glombitza12, 濱田洋平2, Jens Kallmeyer23, Jenny Wendt1, Lars Wörmer1, 山田泰広2, 木下正高16, Kai-Uwe Hinrichs1†

所属:1. ブレーメン大学(ドイツ)、2. 国立研究開発法人海洋研究開発機構、3. ロードアイランド大学(米国)、4. カリフォルニア州立大学ロサンゼルス校(米国)、5. オーフス大学(デンマーク)、6. 国立大学法人高知大学、7. アバディーン大学(英国)、8. カルガリー大学(カナダ)、9. アルフレッド・ウェゲナー極地研究所(ドイツ)、10. 学校法人日本大学(現・京都大学)、11. 国立研究開発法人産業技術総合研究所、12. スイス連邦工科大学(スイス)、13. プリマス大学(英国)、14. ワシントン大学セントルイス(米国)、15. カリフォルニア工科大学(米国)、16. 国立大学法人東京大学、17、クイーンズランド大学(オーストラリア)、18. トロント大学(カナダ)、19. マサチューセッツ工科大学(米国)、20. テキサスA&M大学(米国)、21. 国立研究開発法人海洋研究開発機構(現・神戸大学)、22.ヨンセイ大学(韓国)、23. GFZヘルムホルツセンターポツダム(ドイツ)
(*これらの著者は、この研究に同等に貢献しています。†責任著者。)


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