地球発見 まだまだ知らない「ちきゅう」がある。

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立ちふさがる粘土とガス

 しかし掘削には色々な困難がつきまとった。まずは、パイプを海底面に突き刺して堆積物を採取し、引き上げてみると、泥がパイプの壁に、まるで吹き付けられたようになっていた。これはメタンガスの仕業らしい。泥を引き上げるとガスは膨らみ、発泡する炭酸飲料のように、パイプ内の試料からガスが抜けてしまったらしい。また、水圧によってパイプを押し込んで試料を採取する方法(水圧式ピストンコアラー)では試料の回収率は高かったが、船上まで引き上げるとガスが膨張して、試料の中身がスカスカになってしまうことが多かった。

 今回の掘削では、海底での圧力を保持したまま、堆積物を引き上げるハイブリット保圧コアシステムが初めて調査に使われた。「このシステムではなかなか試料が取れませんでした。どうも粘土に含まれるレキなどが悪さをしていたようなのです」飯島技術主任はそのように語る。粘土、とくに脱水された粘土鉱物を含む地層は、粘性がたかく掘削泣かせな存在だ。掘削では掘りくずを除去するために水を使うが、その水を吸って膨らむ粘土もある。そのため、なかなか試料がパイプに入ってくれないのだ。しかし最終的には、ようやく非常にきれいな試料を手にすることができたのである。圧を下げないよう開封することなくエックス線で観察すると、泥火山を噴き上げた粘土とそれによって破壊された岩石のかけら、そのなかを網目状に走るメタンハイドレートが見て取れた。これが泥火山の内部、その本来の姿なのだ。泥火山の泥を、現場の姿そのままで採集、観察したのは、世界でこれが初めてである。
 泥火山は上から下まで掘削泣かせの粘土で出来ており、しかもそこに膨張するガスが混ざったやっかいなしろものだ。しかし、泥火山は地下深くの様子を知らせてくれる、情報のパイプラインである。「『ちきゅう』の誇る技術とメンバーが、困難な泥火山掘削を成功させました。将来は泥火山に孔内計測装置を設置して、様々な情報を得たいですね」飯島技術主任はそう答えてくれた。