地球発見 まだまだ知らない「ちきゅう」がある。

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Discover the Earth:ついに始まった本格的な泥火山調査

泥火山は古くから地質学者にとって興味をもたれてきた存在だが、その構造を掘削で調べるようになったのはごく最近だ。海外では地中海などの泥火山を掘削した例があるが、表層数メートルが限度だ。日本での本格的な掘削調査は2012年6月26日から28日にかけて「ちきゅう」によって行われた、熊野第五海丘の掘削が初めてである。南海トラフの熊野灘にある第五海丘は、水深約1,900mの海底にある泥火山で、直径はおよそ1キロ、高さは150メートルあまり。しかし、掘削には様々な困難が待っていた。
(2012年9月 掲載)

飯島 耕一 取材協力
飯島 耕一
海洋研究開発機構 (JAMSTEC)
海底資源研究
プロジェクト
調査研究推進
グループ 技術主任

噴き出す泥のパイプライン

 火山というとどろどろに溶けた岩石を噴き出すイメージがあるが、地下から噴き出すものは溶岩だけではない。泥が噴き出すこともある。これが泥火山だ。噴き出た溶岩が重なって火山が出来るように、泥火山も噴き出た泥が積もって山になる。高さ1m程度の小さな泥の山もあれば、直径数km、高さ数百メートルに及ぶ泥火山もある。世界中で確認された泥火山は2,000個あまり、陸上にも海底にもあって、日本でも見つかっている。今回調査が行われたのは紀伊半島の沖合、南海トラフ熊野灘にあるものだ。熊野トラフは水深2,000m前後、深海に広がる広く平坦な地形で、ここにおよそ10個の泥火山が見つかっている。このうちの第五海丘で掘削調査が行われることになったのである。

 

 

 泥火山を調べる意義とはなんだろうか?「泥火山は地下からメタンを運んできます。この泥火山のメタンとメタンハイドレートは非常に興味深い存在です」堆積学を専門として、調査に参加したJAMSTECの飯島耕一技術主任はそのように語る。泥火山はメタンを噴き出すことも特徴だ。海底に積もった堆積物には生物の遺骸などの有機物が含まれている。新しい土砂がたまるにつれて、それは地下深い場所に埋まり有機物が分解され、メタン生成菌によって、あるいは地熱で熱せられることで、メタンが生成される。メタンの多くは、地下の深い場所で出来るものなのだ。そして、資源としても注目されているメタンハイドレート(低温と高い水圧のもとでメタン分子と水分子が作る氷様のもの)は、泥火山の中では網目状に隙間を埋めるように存在している。泥火山は深い場所からメタンを運ぶナチュラルパイプラインとして、そしてメタンハイドレートの氷山として、興味深い研究対象なのだ。
 「それに第五海丘の噴出物に含まれるリチウムの同位体を見ると、このリチウムは地下数km、アスペリティゾーン付近から上がってきているようです」飯島技術主任によれば、泥火山はいわば情報のパイプラインでもある。アスペリティゾーン(滑り面)とは、日本列島を作る地殻と、それにあたって地球深部に落ちこんでいく海洋地殻とがこすれあう場所のことだ。ここは地震が起きる場所であり、泥火山の噴出物を調査すれば、はるか深いアスペリティゾーンで起きていることを知る事ができるかもしれない。