地球発見 まだまだ知らない「ちきゅう」がある。

CDEX
Face:温かい食事で「ちきゅう」を支える

さまざまな国籍、宗教、職種の人々が働く「ちきゅう」。
200人近い人々の食事を用意し、衛生環境面にも気を配る。洋上の研究を支える酒井光男司厨長に話をきいた。
(2013年3月掲載)

取材協力
酒井 光男
日本マントル・クエスト株式会社
「ちきゅう」司厨長

一つの食材で何品つくることができるか

 「ちきゅう」の航海は、ときに数ヶ月をこえる。そんな長い船内生活で、一番の楽しみといえるのが「食事」だ。「ちきゅうの食事は美味しい!」。乗船経験者は、そう口をそろえる。
 酒井光男司厨長は、「ちきゅう」の“コック長”だ。客船「飛鳥」で料理長を担当していた経歴をもち、「ちきゅう」の処女航海から食事を統括している。
 「ちきゅう」の食事は4食体制。掘削は24時間進められるので、食堂も朝、昼、夕、夜の開場となっている。開場時間は各回2時間。ビュッフェスタイルで提供される。
 「『ちきゅう』には、世界中から人が集まっています」と司厨長。そこで、日本食だけでなく、和洋中いろいろなメニューが取り入れられている。パン一つをとっても、日本ではやわらかいパンが好まれるが、固いパンが好まれる国もあるので、固めのパンも用意されている。ラーメン、うどん、パスタなどを出食する日もある。「各乗員の食事制限に関しては、乗船前に申告してもらい、事前に把握しています。なかには宗教上の理由で食べられないものがあったり、ベジタリアンであったり、アレルギーを持っている方もいます。そのため、食材として何を使っているのか。その表示に気を使っています」と酒井司厨長。アレルギーに関しては、ナースと連絡を取り合って、厳重に対応しているという。
 そんな制約がありながらも、「飽きさせない」ことに気を使う。例えば、肉料理は毎食出されるが、日本人にはあきてしまう。肉・魚以外のサイドディッシュを常に変える事で、変化を感じさせる。乗員最大200名分の食材補給は2週間に1度だけ。しかも、その仕入れコストはあらかじめ決められている。「飽きないように1ヶ月分の献立を考え、事前に仕入れをし、一つの食材で、何品つくることができるか。そこが腕のみせどころですね」(酒井司厨長)。
 ビュッフェスタイルというのは、実は難しい。つくりすぎると無駄になってしまうからだ。しかし、船上では食材はかぎられた分しかない。そこで、仕込みだけを先に終えておき、調理は実際の料理の“動き”を見て、つくっていく。「やっぱり温かいものは温かいうちに食べてもらいたいですから」。そのため、ビュッフェには常に2人のスタッフが立ち、料理の補充などを管理している。何時にどのくらいの人数が食べにくるのか。その時間を予想しながら、料理するタイミングと量を決める。長年の経験がなくてはできない“技”がそこにある。
 フライドポテトのようにあえて小さい盛り皿で料理を出すこともある。その方が、補充の間隔がせまくなり、“できたて”の料理を出せるからだ。「ちきゅうの食事は美味しい!」。その秘密の一端は、綿密な気配りによってなりたっている。