ここまで解った!JAMSTECの最新研究 海底下に棲む生命とは?

Guide2

どのくらいの時間、生きているの?

1億年前の微生物を目覚めさせた研究者
教えてくれる人 諸野祐樹 もろの ゆうき

JAMSTEC 超先鋭研究開発部門
高知コア研究所
地球微生物学研究グループ 主任研究員

1億年前の微生物を目覚めさせた研究者

1億年前の微生物発見!生きてる?死んでる?

南太平洋には、1億年以上も前のとてもふるい地層が、比較的掘りやすい状態で現れている場所があります。2010年、私たち国際チームはそこへ航海し、海底下、1億150万年前(白亜紀)の地層を掘削しました。とても栄養分の少ない過酷な環境のため、微生物がいるかどうか分かっていませんでしたが、試料を採取して調べると、地層の中に閉じ込められていた微生物を検出できたのです。しかし彼らの大きさは1000分の1ミリ程度。もちろん目には見えませんし、ほとんど活動していないため、生きているのか、死んで化石化したものかさえ、わかりません。

図版:諸野1

海底下の微生物のイメージ。
太古の地層の中に閉じ込められていました。

まず微生物を調べるための技術を、自ら研究開発。

微生物の生死を知るためには、エサを与えて食べるかどうか確かめる必要があります。そこでまず、 微生物を集めた容器に、エサとなる物質をしみこませ、少しだけ酸素を入れて培養を試みました。本当なら成功したか一刻も早く調べ始めたい。 しかし、微生物は多くの泥の中にわずかに点々といるだけ。正しく解析するためには、当時の技術では十分ではありませんでした。そこで私は、はやる思いを抑えて試料を保管しておき、先に解析技術を研究することから始めました。

図版:諸野2

泥の中の微生物イメージ

彼らは食べていた!すなわち、生きていた!

4年間をかけて、独自の解析技術の開発ができました。私たちは満を持して、エサを与えておいた微生物がそれを食べて増えているか、解析にとりかかりました。すると、微生物がそれを食べる(取り込む、代謝する)ことが検出できたのです! 彼らは生きていた。言い方を変えれば、“生と死の瀬戸際からよみがえった”のです。

図版:諸野3

微生物がアミノ酸を活発に食べている様子

さらに彼らは約2ヶ月で1万倍に増えた!

私たちは、“生と死の瀬戸際にいる微生物だから、そう簡単にはよみがえらないだろう”と予想していました。しかし実際には、培養開始から21日目にはエサを食べ、68日目には、多いものは当初の1万倍に増殖しました。それは、我々の予想をはるかに上回る、信じられないほどの早さだったのです。

図版:諸野4

海底下の微生物のイメージ。地層に閉じ込められていました。

どうやって極限の環境で1億年以上生き延びた?

研究の結果、1億150万年前にできた地層では、そこにいた微生物の99.1%が“生きている”ことがわかりました。でも、栄養も酸素もほとんどない極限の環境に閉じ込められ、分裂もできず世代交代もできない彼らが、なぜ生き延びることができたのか。その理由はまだ分かっていません。私たちは今後、微生物のゲノムを解析するなど、さらに研究を続けていきます。

図版:諸野5

1億年前の地球。まだ日本列島はできていなかった。
彼らはこの頃から生き続けている。

この研究のブレークスルーポイント

地層の泥の中から
微生物だけを取り出す技術を、
4年かけて自分たちで開発!

図版:地底の泥の中から微生物だけを取り出す方法の説明

多くの泥の粒子の中から、わずかな微生物だけを取り分ける。その開発に役立ったのが、私の専門ではない流体力学の知識です。(大学の授業で習っただけですが、マジメに聴いていて良かった笑)試行錯誤の末、4つの密度の異なる溶液を使って取り出したものを、さらにセルソーターという装置にかける、という方法を開発。それに4年間をかけました。

また、“微生物がエサを食べたかどうかを調べる方法”の開発も、とても難しいことでした。超高空間分解能二次イオン質量分析計(NanoSIMS、ナノシムス)という装置を使った独自の方法を開発し、どのくらいの量の餌を食べたかまで分かる仕組みをつくりました。

海底下の1億年以上前の地層サンプルを手にできているのは、ほんの一握りの研究者だけ。それを分析できるのは研究者冥利に尽きます。しかし、初めてのサンプルであるということは、分析の仕方から考えなければならないということでもあります。分析できて初めて、そのサンプルが活きます。分析のための技術は、まだまだ高めていく必要があるのです。

研究のまとめと、これから 1億年以上生きる命を発見した今、思うのは、“生きているって何?”

私たちが南太平洋に航海し、海底下を掘って試料を取り出したのは、2010年のこと。そして「1億年以上も生きている微生物を発見した」と発表したのは、2020年。つまり、この研究に私たちは10年間もの歳月をかけました。

研究は、信じられないことの連続でした。微生物が生きていたことが分かったときには、もちろん驚きましたが、微生物の増殖があまりにも早かったことにはもっと驚きました。まさかそんなに活発に増えると思わなかったので、実験をミスしたのでは!?と思い込んだほどです。論文を書いていても発表直前まで半信半疑でした。

発表後には、「すごいね」という反応以外に、「危険ではないか」「新たな感染症につながるのでは」という声も聞こえてきました。科学界では、海底下の微生物には感染相手がいないため人間にとって危険な存在になる可能性はきわめて低いと認識されています。それでも、微生物が外に出ないよう厳重に管理し、バイオセーフティレベル1という基準の実験室でのみ実験を行っています。

彼らは1億年もの間、どのように生き延びたのでしょうか? 今回の研究や発見を通じて、私は、“生きているとはどういうことか”という問いへの興味がより強くなりました。私たちの研究は続きます。

図版:諸野6

掘削航海では、サンプルを採取した後、600本の培養容器に入れていくため、船の冷蔵庫に1人こもって黙々と作業していました。寒かった〜。

約7000細胞分の分析データについて、一つ一つ検証し、エサを食べた割合を計算したのは、今思い出しても気が遠くなります。我ながら粘り強いですね(笑)

もっと知りたいという方へ

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研究者の方はこちらも(外部サイトへリンクします)

「Nature Communications 2020」(英文)

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