1. TOP
  2. プレスリリース
  3. 植物プランクトン量の半年先予測に成功 ―海洋低次生態系の準リアルタイム季節予測の配信を世界で初めて開始―

植物プランクトン量の半年先予測に成功 ―海洋低次生態系の準リアルタイム季節予測の配信を世界で初めて開始―

2026.08.27
国立研究開発法人海洋研究開発機構

1. 発表のポイント

  • これまでの季節予測※1では、気候モデル※2を用いて、半年から1年程度先のエルニーニョ現象※3やその現象が気象へ与える影響について予測が行われ、その情報は毎月準リアルタイムで提供されているが、これらは水温や気温などの物理現象の予測であり、海の食物連鎖の土台となる植物プランクトン量などの予測は行われていない。
  • これまでに開発してきた気候モデルに、新たに植物プランクトン量などを計算できる海洋低次生態系モデル※4を結合させ、熱帯太平洋西部の植物プランクトン量の年々変動を約半年前から高い精度で予測できる季節予測システム※5の開発に成功した(図1)。
  • このシステムを用いて、世界初となる海洋低次生態系の準リアルタイム季節予測の配信を開始した。この予測を漁業管理等に応用することで、エルニーニョ現象による漁業への影響に対する事前の備えに役立つことが期待される。
図1

図1. 2026年7月1日時点で予測した2026年11月から2027年1月平均における表層クロロフィル濃度※6(植物プランクトン量の指標)の偏差(平年値からのずれ)。寒色が平年よりクロロフィル濃度が低いことを示す。

用語解説
※1

季節予測
数か月単位の平均的な気温や降水量の変動(干ばつ・洪水・猛暑・暖冬などの季節不順)を数か月前から予測する科学技術。

※2

気候モデル
大気-海-陸-海氷などに対して、主に物理法則に従って、10分程度の未来を計算できる数式の集まりで構成されており、この計算を繰り返すことで、何か月も先の未来の状況をスーパーコンピュータで予測計算できるソフトウェア。

※3

エルニーニョ現象
熱帯太平洋で見られる気候変動現象で、数年に1度、夏から冬にかけて発生する。熱帯太平洋の東部から中央部の広い範囲で海面水温が平年より高くなり、地球全体の平均気温を押し上げるとともに、世界各地で異常気象を引き起こす。
(参考)https://www.jamstec.go.jp/aplinfo/climate/?page_id=380

※4

海洋低次生態系モデル
海水温や海流などの情報を使って、植物プランクトン、動物プランクトン、栄養塩など海の食物連鎖の土台となる生き物と物質の動きを、数式を使って計算する。

※5

季節予測システム
多様なリアルタイムの海洋観測データから、気候モデルや気候―海洋低次生態系結合モデルを用いて、数か月先の将来予測シミュレーションを行うシステム。その膨大な計算を実行するにはスーパーコンピュータが必要。

※6

クロロフィル濃度
クロロフィルは植物プランクトンが共通して持つ光合成色素(葉緑素)であり、その濃度を測ることで植物プランクトンの現存量をある程度知ることができる。人工衛星によって海面の色をセンサーで捉えることで、時々刻々と変動する表層クロロフィル濃度を地球規模で観測できる。

2. 概要

国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 河村知彦、以下「JAMSTEC」という。)情報地球科学研究部門アプリケーションラボの土井威志主任研究員らは、気候モデルに海洋低次生態系モデルを結合させた季節予測システム(「SINTEX-F2bio」)を開発し、植物プランクトン量の半年先予測を可能にしました。

これまでの季節予測では、気候モデルを用いて、半年から1年程度先のエルニーニョ現象やその現象の気象への影響について予測され、その情報は毎月準リアルタイムに提供されています。しかし、海の食物連鎖の土台となる植物プランクトン量などの予測は行われていませんでした。そこで本研究では、JAMSTECが開発してきた高精度なエルニーニョ予測システムに海洋低次生態系モデルを結合させ、スーパーコンピュータ「地球シミュレータ」を用いた予測実験により、熱帯太平洋西部における植物プランクトン量の年々変動を、約半年前から高い精度で予測することに成功しました。

また、JAMSTECではSINTEX-F2bioを用いて、世界初となる海洋低次生態系の準リアルタイム季節予測情報の配信を開始しました。毎月更新される植物プランクトン量の季節予測情報をJAMSTECのウェブサイトで広く提供します。エルニーニョ現象に伴う海水温や海流変動の影響を受けやすい地域における漁業被害への事前の備えや食料供給計画の策定に役立つことが期待されます。

本成果は、「Journal of Climate」に8月27日付け(日本時間)で掲載されました。

論文情報
タイトル

Seasonal chlorophyll-a prediction in the tropical Pacific with a global climate model incorporating marine biogeochemistry(SINTEX-F2bio)

著者
土井 威志1、馬場 雄也1、林田 博士1
所属
  1. JAMSTEC情報地球科学研究部門アプリケーションラボ

3. 背景

人為起源の長期的な二酸化炭素排出増加に伴い、海洋は常に温暖化・酸性化・貧酸素化の脅威にさらされています。そのような状態で、数年に一度発生するエルニーニョ現象やラニーニャ現象の影響が重なり合うことで、先例のない極端な海の事象が発生し、海洋生態系が回復不能なダメージを受ける恐れがあります。そのため、海の食物連鎖の土台となる植物プランクトン等の海洋低次生態系についての季節予測研究は益々重要になってきました。

これまでの各国の現業気象機関による季節予測では、気候モデルを用いて、半年から1年程度先のエルニーニョ現象やその現象の気象への影響について数か月前から予測され、その情報は毎月準リアルタイムに提供されています。JAMSTECアプリケーションラボでも欧州の研究者らと共同で「SINTEX-F季節予測システム」※7を開発し、予測の高精度化および予測情報を社会応用するための先駆的な研究を進めてきました。しかし、これらの季節予測の対象は、気温や水温等の物理的な変数にとどまっており、海の食物連鎖の土台となる植物プランクトン量などに関する季節予測情報は提供できていませんでした。

植物プランクトン量などに関する季節予測情報を提供できれば、水産資源の分布や漁獲量の予測向上にもつながる可能性があります。特に、本研究で注目した熱帯太平洋西部の島嶼国(インドネシアやパプアニューギニアなど)では、エルニーニョ現象に伴う海水温・海流の変動が直接的に影響するため、漁場が急激にシフトしたり、魚が全く獲れなくなったりするリスクがあります。数か月から半年前に魚の餌であるプランクトンの増減が分かれば、エルニーニョ現象のような気候イベントによる経済的・社会的打撃への備えとして、漁業管理や食料供給計画の策定が可能になることが期待されます。

用語解説
※7

SINTEX-F季節予測システム
EUと日本の共同研究のもと、SINTEX-Fと呼ばれる気候モデルをベースに開発した季節予測システム。2005年に第一版が開発され、毎月、最大で2年先までの気候予測を行うとともに、その予測情報をJAMSTECのウェブサイト上で公開してきた。約20年近く開発を続け、現在は第二版を運用している。エルニーニョ現象やインド洋ダイポールモード現象の予測に関して、先駆的な成果を上げてきた実績がある。

4. 成果

研究チームは、熱帯域で予測精度の高いSINTEX-F季節予測システムに、海洋低次生態系モデルを結合させたSINTEX-F2bioを開発しました。また、SINTEX-F2bioを用いて、2005~2022年の各年について8月初旬から季節予測実験を実施し、予測結果を人工衛星から得られた観測データで検証(予測の答え合わせを)しました。その結果、熱帯太平洋西部において約半年後の12~2月平均の表層クロロフィル濃度(植物プランクトン量の指標)を高精度で予測可能であることが分かりました(図2)。エルニーニョ現象によって、熱帯太平洋西部の貧栄養な暖水が東へ移動するプロセスを正しく予測することが、この海域における植物プランクトン量の予測に重要であることも分かりました。

図2

図2. 2005~2022年の12~2月平均における表層クロロフィル濃度を8月初旬から予測した際の精度(予測スキルともいう、予測がどの程度当たるかの指標)。衛星観測データとスーパーコンピュータによる予測値の2種類について相関関係の強さを表す。1に近づくほど予測精度が良い。色がついているところであれば予測がある程度可能であることを示す。

さらに、SINTEX-F2bioの開発成功を受けて、世界初となる海洋低次生態系の準リアルタイム季節予測の配信を開始しました。最新では、2026年7月1日時点で予測した2026年11月~2027年1月平均における表層クロロフィル濃度の偏差(平年値からのずれ)を配信しています(図3)。現在発生中のエルニーニョ現象が2026年の終わり頃までに過去最強クラスに発達し、それに伴い熱帯太平洋の広い範囲で植物プランクトン量が激減することを予測しています。

図3

図3. 2026年7月1日時点で予測した2026年11月~2027年1月平均における表層クロロフィル濃度の偏差(平年値からのずれ)。寒色が平年よりクロロフィル濃度が低いことを示す。

気温や水温などの物理変数を季節予測する段階を超えて、植物プランクトン量の季節予測が熱帯太平洋である程度可能であることを示したことは本研究の重要な成果です。また、海洋低次生態系の準リアルタイム季節予測の結果は、従来の気象・海象予報では提供されていない情報です。

【SINTEX-Fウェブサイト】
https://www.jamstec.go.jp/aplinfo/sintexf/seasonal/outlook.html
新たに海洋低次生態系の準リアルタイム季節予測の配信を開始しました。

5. 今後の展望

植物プランクトン量の季節予測のような情報を漁業管理や食料供給計画にどのように役立てるかを具体的に示していくことが今後の課題です。世界初となる海洋低次生態系の準リアルタイム季節予測をインターネットで広く情報提供することにより様々な潜在的なユーザーを開拓していきます。同時に、特定のユーザーとより密に連携して研究を推進していくことも必要です。例えば、カツオなどの生息域推定モデルと連携した研究を推進しています。

また、本研究では、クロロフィル(植物プランクトン量の指標)に注目しましが、SINTEX-F2bioでは、炭素・酸素・栄養塩・動物プランクトンに関連した計24の生物地球化学に関する変数を計算・出力しています。これらを使って、北太平洋海洋科学機構(PICES)と北太平洋の東西をまたがる海洋物理および生態系の国際的な分野横断研究を主導しています。

さらに、広く海洋を観測するアルゴフロートに、生物地球化学に関するセンサー(溶存酸素、硝酸塩, pH, クロロフィルなどのセンサー)を搭載した生物地球化学アルゴフロートと呼ばれる海洋観測ロボットのデータを用いて、SINTEX-F2bioの検証やデータ同化(モデルと観測から最もらしい状況を推定する手法)を進め、より高精度な海洋低次生態系の季節予測を目指していきます。

加えて、脅威にさらされている海洋生態系や海洋機能の保全、漁業などの産業等に対する被害を軽減するために、関係者の意思決定を支援できるようなシステムの開発を進めていきます。これは、G7科学技術大臣会合や同会合下の「海洋の未来イニシアティブ」(FSOI)においても取り上げられた海洋デジタルツインの構想にも合致します。


関連プレスリリース:

SINTEX-F季節予測システムに関する成果例

  1. 2019年スーパーインド洋ダイポールモード現象の予測成功の鍵は熱帯太平洋のエルニーニョモドキ現象(2020年4月6日既報)
    https://www.jamstec.go.jp/j/about/press_release/20200406/
  2. 今夏、エルニーニョ現象による異常気象が発生か?(2026年1月23日既報)
    https://www.jamstec.go.jp/j/pr/topics/column-20260123/
  3. [続報] 今夏、エルニーニョ現象による異常気象が発生か?―正のインド洋ダイポールモード現象と同時発生の可能性も―(2026年4月17既報)
    https://www.jamstec.go.jp/j/pr/topics/column-20260417/
  4. [続報2] 今夏、エルニーニョ現象による異常気象が発生か?―今年は北西太平洋で台風が活発に?―(2026年5月28既報)
    https://www.jamstec.go.jp/j/pr/topics/column-20260528/

お問い合わせ先

国立研究開発法人海洋研究開発機構

(本研究について)

情報地球科学研究部門 アプリケーションラボ
極端気候・海洋デジタルツイン研究開発グループ グループリーダー 土井 威志

(報道担当)

事業推進部 報道室