2024年12月から発生したラニーニャ現象(2025年1月21日既報)は、2025年春には一旦衰退したものの、夏の終わり頃から再発達し、現在も太平洋熱帯域はラニーニャのような状態が維持されています。
アプリケーションラボの最新の予測(2026年1月1日時点)では、この状態が、晩冬まで続くと予測しています。その後、早春には、熱帯太平洋は平年並みの状態に戻り、夏にはエルニーニョ現象へと遷移していくと予測しています。エルニーニョ現象は、広大な熱帯太平洋に蓄えられた熱を大気に放出することで、世界各地に異常気象を引き起こします。2023年のエルニーニョ発生時は、日本だけでなく全世界で猛暑になり、世界平均気温が観測史上最高を更新しました。そのエルニーニョの残り香で、2024年も記録を更新しました(2025年3月21日既報)。ラニーニャ現象のおかげもあって、2025年の世界平均気温の記録更新には至らずにすみましたが(世界気象機関WMOから2026年1月14日既報)、予測通りエルニーニョ現象が発生すれば、記録を更新し、2026年は観測史上最も暑い年になるかもしれません。
世界各地に異常気象を起こす熱帯海洋の動向に今後も注意していく必要があります。アプリケーションラボのSINTEX-F予測シミュレーションの結果は毎月更新されます。最新情報や詳しい解説は、SINTEX-FのHP、季節ウォッチ、APL Virtualearthなどをご参照ください。
ラニーニャ状態からエルニーニョへの予測について
1月9日に、気象庁エルニーニョ監視速報(No.400)で、現在の熱帯太平洋はラニーニャ現象に近い状態となっていることが報告されています。 スーパーコンピュータ「地球シミュレータ」を使ったアプリケーションラボの予測システム(注1)では、この状態が、晩冬まで続き、その後、早春には、熱帯太平洋は平年並みの状態に戻り、夏にエルニーニョ現象が発生すると予測しています(図1)。典型的なタイプと違って、熱帯太平洋西部の水温も高く、2023年の夏の熱帯太平洋の状態にやや近い状態になることを予測しています(注2)。その後、翌年2027年でもエルニーニョ現象が持続する可能性が高いと予測しています。
注1:アプリケーションラボのSINTEX-F(注3)と呼ばれる予測シミュレーションは、24ヶ月先のエルニーニョ予測やエルニーニョモドキ予測情報も準リアルタイムに提供しています。気候モデル(注3)を使って、このような長いリード時間の予測情報を毎月提供しているのは世界でも唯一です。リードタイムが長くなるほど、その予測精度も低下していきますが、ある程度の予測が可能であることは学術誌で報告しています(例えば、Luo et al. (2008)やBehera et al. (2020))。2024年からは、機械学習(畳み込みニューラルネットワーク)を使ったエルニーニョ2年予測も提供しています(詳細はPatil et al. (2023))(詳しくはSINTEX-FのHP)。
注2: アプリケーションラボでは、エルニーニョ現象・ラニーニャ現象の事例毎の多様性に着目し、典型的なエルニーニョ現象やラニーニャ現象とは似て非なるエルニーニョモドキ現象、ラニーニャモドキ現象を見出し、国際的に研究を推進してきました(詳しくは、こちら)。今回、夏に発生が予測されているエルニーニョ現象は、典型的なタイプでもモドキタイプでもなく、熱帯太平洋全体の水温が高くなるようなタイプで、2023年のエルニーニョ現象とよく似た構造になると予測しています。エルニーニョ現象・ラニーニャ現象の事例毎の多様性に着目し、それぞれが世界各地へどのように影響するのかは、現在も活発に研究にされています。
注3: SINTEX-F予測シミュレーションは、海洋観測とコンピュータのリレーのようなシステムです。まず、はじめに、予測開始時点での、海の水温の状況をよく知る必要があります。熱容量の大きい海の水温が、平年と違った状況にあると、数ヶ月先でもその情報が消えず、エルニーニョ現象やダイポール現象を引き起こす“タネ”(あるいは前兆)の役割をします。現在は、人工衛星や、係留ブイ、アルゴフロートと呼ばれる自動浮き沈み測器などによって、時時刻刻と変化する海面および海中の水温を、リアルタイムで観測することができます。その情報を気候モデルに教え込むことで、将来の予測シミュレーションを実施します。リアルな海からバーチャルな海へのバトンパスともいえます。気候モデルとは、海だけでなく空-陸-海氷などに対して、主に物理法則に従って、10分程度の未来を計算できる数式の集まりで構成されており、この計算を繰り返すことで、何ヶ月も先の未来の状況を予測計算できるソフトウェアです。気候モデルの源流は2021年にノーベル物理学賞を受賞した眞鍋淑郎博士の研究にあります(2021年10月5日既報)。その膨大な計算を実行するにはスーパーコンピュータが必要です。海洋研究開発機構は、海洋観測システムの発展に尽力していると共に(例えば、【アルゴ2020】アルゴフロートで世界の海を測って20年”、JAMSTECにおける熱帯観測網の発展、動物由来の海洋観測データの利活用など)、世界有数のスーパーコンピュータ「地球シミュレータ」を有します。アプリケーションラボでは、それらを効果的に使い、エルニーニョ現象やインド洋ダイポールモード現象の発生予測だけでなく、それらの世界各地の気候への影響を予測(季節予測とも呼びます)する技術を磨いてきました。またそれを社会問題の解決に応用する術も研究しています。その先駆的な成果の詳細は、SINTEX-FのHP、アプリケーションラボのトピックスをご覧ください。アプリケーションラボでは、今後も、実空間の地球海洋観測データと仮想空間のシミュレーション技術を融合させ、極端な気候や海洋現象に関連する様々な利害関係者の意思決定をサポートする予測情報を創出するツール群(「極端気候・海洋デジタルツイン群」と呼ぶ)の要素技術開発を進めていきます。


