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研究者コラム

[続報]今夏、エルニーニョ現象による異常気象が発生か?―正のインド洋ダイポールモード現象と同時発生の可能性も―

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情報地球科学研究部門 アプリケーションラボ

※このコラムは、2026年1月23日に掲載した研究コラムの続編です。

2026年1月1日時点の予測どおりに、ラニーニャ現象が終息しました。アプリケーションラボの最新の予測(2026年4月1日時点)でも、2026年1月1日時点の予測と同様に、今夏にエルニーニョ現象が発生すると予測しています。加えて、熱帯インド洋では、正のインド洋ダイポールモード現象の発生も予測しています。この二つの現象が同時発生した2023年は、日本だけでなく全世界で猛暑になり、世界平均気温が観測史上最高を更新しました。インドネシアやオーストラリアでは極端な乾燥傾向が予測されていますので、山火事などに警戒が必要です。
世界各地に異常気象を起こす熱帯海洋の動向に今後も注意していく必要があります。
アプリケーションラボのSINTEX-F予測シミュレーションの結果は毎月更新されます。最新情報や詳しい解説は、SINTEX-FのHP季節ウォッチAPL Virtualearthなどをご参照ください。

エルニーニョの予測について

4月10日に、気象庁エルニーニョ監視速報(No.403)で、現在の熱帯太平洋は平年並で、夏にはエルニーニョが発生する可能性が高いことが報告されています。JAMSTECのスーパーコンピュータ「地球シミュレータ」を使ったアプリケーションラボの予測システム(注1)でも、夏にエルニーニョが発生すると予測しています(図1)。その後、秋・冬にかけて、どの程度成長するかの予測には不確実性があり、現時点でスーパーエルニーニョと呼ばれる極端に強いイベントになるかはわかりません。
また、典型的なエルニーニョの構造と違って、熱帯太平洋西部の水温が平年より高く、熱帯太平洋全体で、平年より水温が高くなると予測しています(図2)。これは、2023年に発生したエルニーニョの構造に似ています。2024年12月から、つい先月まで続いていたラニーニャ(エルニーニョとは符合が逆の現象、2025年1月21日既報)に伴い蓄積された熱帯太平洋西部の暖水が解消されずに残ることが予測されています。
エルニーニョは、広大な熱帯太平洋に蓄えられた熱を大気に放出することで、世界平均気温を一時的に押し上げます。2023年のエルニーニョ発生時は、世界平均気温が観測史上最高を更新しました。そのエルニーニョの残り香で、2024年も記録を更新しました(2025年3月21日既報)が、2025年は、ラニーニャのおかげもあって、世界平均気温の記録更新には至らずにすみました (世界気象機関WMOから2026年1月14日既報)。しかし、予測通りエルニーニョが発生すれば、記録を更新し、2026年は観測史上最も暑い年になるかもしれません。また、典型的なエルニーニョは日本に冷夏をもたらす傾向があると知られていましたが、前述の通り、この夏に予測されるエルニーニョは、典型的なタイプとは違うことが予測されており、日本への遠隔影響の仕方も異なる可能性があります。エルニーニョ現象・ラニーニャ現象の事例毎の多様性の研究は今も活発に行われています(注2)。

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図1: エルニーニョ・ラニーニャ現象の指数(単位は°C)で、熱帯太平洋中央から東部にかけた領域(小さい地図の赤色の領域)の海水温の平年からのずれから計算される(単位は°C)。0.5ºC(–0.5ºC)より高(低)くなれば、エルニーニョ(ラニーニャ)状態と考えられる。黒線が観測で、2026年4月1日時点で予測したのが色線。SINTEX-F2と呼ばれる気候モデルを用いて、海面・海中の観測データを初期値に取り込み、初期値作成方法やモデルの設定を様々な方法で少しずつ変えて、スーパーコンピュータで12通りの予測実験を行った(アンサンブル予測と呼ぶ、青色の線:アンサンブル平均値、水色の線: 各アンサンブルメンバー)。アンサンブルメンバーの平均値が、5月から0.5ºCを超えて上がっており、今夏のエルニーニョ現象の発生を予測している。その後、秋・冬にかけて、どの程度成長するかは、アンサンブルメンバー間でバラツキがあり、予測には不確実性がある。
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図2: SINTEX-F季節予測システムで、2026年4月1日時点に予測した2026年6月から8月の3ヶ月で平均した海面水温(ºC)について、平年値(1991-2020年平均)からの差を図示したもの。熱帯太平洋の東部から中央部の海水温が平年より高いことから、エルニーニョの発生が見て取れる。しかし、典型的なタイプと違って、熱帯太平洋の西部の水温も平年より高い。また、熱帯インド洋の西部で海面水温が平年より高く、東部で若干低く、正インド洋ダイポールモードの発生が見て取れる。

正のインド洋ダイポールモードの予測について

インド洋ダイポールモードは、熱帯インド洋で見られる現象で、熱帯太平洋で発生するエルニーニョと同じく、海と空が連動して発達・変動する現象です。数年に1度、夏から秋にかけて発生します(詳細は季節ウォッチを参照)。ダイポールモード現象には正と負の符号をもつ現象があります。正のダイポールモード現象が発生すると、熱帯インド洋の南東部で海面水温が平年より低く、西部で海面水温が高くなります。この水温変動によって、通常であれば東インド洋熱帯域で活発な対流活動が、不活発になり、インドネシアやオーストラリアなどでは干ばつ・山火事の被害が甚大化します。ダイポールモード現象の中緯度帯にある遠隔地(日本を含む)の気象への影響やエルニーニョ・ラニーニャとの相互関係については、現在も国際的に活発な研究が続いています。最近の研究では、正のダイポールモード現象が発生した夏では、沖縄・台湾付近で熱帯低気圧(台風を含む)の存在頻度が増える傾向にあることが報告されています(詳しくは、プレスリリース「沖縄・台湾付近で、夏に熱帯低気圧が増えるかを数ヶ月前から予測可能に! ―インド洋ダイポールモード現象の予測が鍵―)。

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図3: 図1と同様だが、インド洋ダイポールモード現象の指数DMI(西インド洋熱帯域の海面水温異常の東西差を示す数値で単位は°C)について。0.5ºCを上回れば、正のダイポールモード現象が発生していると考えられる。予測の不確実性は大きいが,アンサンブルメンバーの平均値が6月から0.5ºCを超えて上がっており、夏に正のインド洋ダイポールモード現象の発生を予測しているアンサンブルメンバーが多い。

注1:アプリケーションラボのSINTEX-F(注3)と呼ばれる予測シミュレーションは、24ヶ月先のエルニーニョ予測やエルニーニョモドキ予測情報も準リアルタイムに提供しています。気候モデル(注3)を使って、このような長いリード時間の予測情報を毎月提供しているのは世界でも唯一です。リードタイムが長くなるほど、その予測精度も低下していきますが、ある程度の予測が可能であることは学術誌で報告しています(例えば、Luo et al. (2008)Behera et al. (2020))。2024年からは、機械学習(畳み込みニューラルネットワーク)を使ったエルニーニョ2年予測も提供しています(詳細はPatil et al. (2023))(詳しくはSINTEX-FのHP)。

注2: アプリケーションラボでは、エルニーニョ現象・ラニーニャ現象の事例毎の多様性に着目し、典型的なエルニーニョ現象やラニーニャ現象とは似て非なるエルニーニョモドキ現象、ラニーニャモドキ現象を見出し、国際的に研究を推進してきました(詳しくは、こちら)。今回、夏に発生が予測されているエルニーニョ現象は、典型的なタイプでもモドキタイプでもなく、熱帯太平洋全体の水温が高くなるようなタイプで、2023年のエルニーニョ現象とよく似た構造になると予測しています。エルニーニョ現象・ラニーニャ現象の事例毎の多様性に着目し、それぞれが世界各地へどのように影響するのかは、現在も活発に研究にされています。

注3: SINTEX-F予測シミュレーションは、海洋観測とコンピュータのリレーのようなシステムです。まず、はじめに、予測開始時点での、海の水温の状況をよく知る必要があります。熱容量の大きい海の水温が、平年と違った状況にあると、数ヶ月先でもその情報が消えず、エルニーニョ現象やダイポール現象を引き起こす“タネ”(あるいは前兆)の役割をします。現在は、人工衛星や、係留ブイ、アルゴフロートと呼ばれる自動浮き沈み測器などによって、時時刻刻と変化する海面および海中の水温を、リアルタイムで観測することができます。その情報を気候モデルに教え込むことで、将来の予測シミュレーションを実施します。リアルな海からバーチャルな海へのバトンパスともいえます。気候モデルとは、海だけでなく空-陸-海氷などに対して、主に物理法則に従って、10分程度の未来を計算できる数式の集まりで構成されており、この計算を繰り返すことで、何ヶ月も先の未来の状況を予測計算できるソフトウェアです。気候モデルの源流は2021年にノーベル物理学賞を受賞した眞鍋淑郎博士の研究にあります(2021年10月5日既報)。その膨大な計算を実行するにはスーパーコンピュータが必要です。海洋研究開発機構は、海洋観測システムの発展に尽力していると共に(例えば、【アルゴ2020】アルゴフロートで世界の海を測って20年”JAMSTECにおける熱帯観測網の発展動物由来の海洋観測データの利活用など)、世界有数のスーパーコンピュータ「地球シミュレータ」を有します。アプリケーションラボでは、それらを効果的に使い、エルニーニョ現象やインド洋ダイポールモード現象の発生予測だけでなく、それらの世界各地の気候への影響を予測(季節予測とも呼びます)する技術を磨いてきました。またそれを社会問題の解決に応用する術も研究しています。その先駆的な成果の詳細は、SINTEX-FのHPをご覧ください。アプリケーションラボでは、今後も、実空間の地球海洋観測データと仮想空間のシミュレーション技術を融合させ、極端な気候や海洋現象に関連する様々な利害関係者の意思決定をサポートする予測情報を創出するツール群(「極端気候・海洋デジタルツイン群」と呼ぶ)の要素技術開発を進めていきます。

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