トップページ > JAMSTECニュース > 海洋地球研究船「みらい」大航海 SORA2009

海洋地球研究船「みらい」大航海

SORAレポート

2009年3月31日

MR08-06 Leg2を終えて

海洋地球研究船「みらい」船長:赤嶺 正治

今ミッションは、チリのコンセプシオン大学と海洋研究開発機構との共同で研究が行われています。チリは南アメリカの南西部に位置し、ノルウェーやアラスカ等とともに大規模のフィヨルドを持つ国として有名です。
チリのフィヨルドは、昔から船乗りたちに荒れる海として恐れられている南緯40度以南の太平洋に面しています。比較的穏やかな夏場でもこの海域を航行する船舶は、この荒れる海に難渋をきわめます。フィヨルドは、防波堤の役をしますから、これら船舶の常用航路となっています。チリのフィヨルドは、チロエ水道(Chiloe channel)、パタゴニアン水道(Patagonian channel)、マゼラン海峡(Magallanes strait)、そして、フェグイノス水道(Fueguinos channel)の大きく4つで構成されています。

今回、「みらい」は、フィヨルド内、そして、その外海での観測が計画されていましたので、これらの全ての水道、海峡を航行しました。フィヨルド内の観光を目的とする客船を除いて、一般には、これはたいへん珍しいことです。ここでは、それぞれの水道、海峡の中でのひとコマを紹介しましょう。

■チロエ水道

南極海からの長い周期のウネリを受けて大きく揺れる「みらい」もチロエ水道に入れば、揺れは収まり湖を走っているようです。


外海でウネリをうける「みらい」

チロエ水道の虹

この時は、美しい七色の虹がかかりました。また、「みらい」がこの海域を訪れた時、チャイテンという町で火山が噴火し、噴煙を高く上げていました。写真では視界が悪くなっていますが、これは降雨のせいだけでなく、そのタイテンの沖合いを走っていましたので、噴火の影響もあると乗船のパイロットは言っています。

■パタゴニアン水道

フィヨルドは、両岸が切り立った絶壁をなし、両岸ぎりぎりまで深さがあるのが一般的ですが、パタゴニアン水道の中で、水路幅が最も狭いイングリッシュチャンネルの近くに「ボ コトパックス」(Bo Cotopax)という浅瀬があります。水深は水道の中央部で300m程あり、両岸近くでも200m近くありますが、その中間に水深5mという浅所があり、過去にその上に乗り上げた船の残骸があります。


パタゴニアン水道の「みらい」

浅瀬に乗り上げた船

フィヨルド内は深いという観念は危険です。海図に水深の記載がなければ、その周囲が何百メートルの水深があってもその海域は絶対航行してはならない、というのがパイロットの鉄則であると言います。したがって、水道を航行する船は、たとえ両岸間の距離が十分あっても、水道の中央部の水深が明記された場所を紀律正しく航行します。前をゆく船を追い越さずに、船間距離1〜3マイル保って進んでいます。

■マゼラン海峡

かつてのポルトガル航海者マゼランは、この海峡を大西洋岸から入り、太平洋に抜ける際、穏やかな海を見て、その海をパシフィックオーシャンと名付けたと言われますが、「みらい」が訪れた2003年10月と今回(3月23日)の2回とも大時化でした。


マゼラン海峡

結局、マゼラン海峡を出て太平洋の外海での観測は行えず、2回ともマゼラン海峡の中で観測を行いました。

■フェグイノス水道

フェグイノス水道には、よく知られているキャナルが2つあります。ひとつは、進化論で有名なダーウィンが乗船し、世界一周を行ったビーグル号の艦長、フィツ ロイ大佐によって発見されたビーグルキャナルです。このキャナルには、アルゼンチンの最南端の港ウシュアイアと、チリの最南端の港ウイリアムズがキャナルを挟んであります。


ウシュアイア港の夜景

ウイリアムズ港

特にウシュアイアはキャナル内にある世界的な氷河や南アメリカ最南端のホーン岬、さらには南極の観光に訪れる客船の寄港地として、あるいは南極観測船の補給基地として有名です。「みらい」は、この港の近くで3隻の客船とロシアの観測船に会いました。 もうひとつは、キャプテンクックが発見したクックバーンキャナルです。これは、マゼラン海峡の途中から枝分かれし、ドレイク海峡へ抜ける水路です。


クックバーンキャナルの入江

今回、この水路の外海で観測が計画されていましたが、水深が浅く、未精測の海域であったこと、さらには、南極海からの長い周期のウネリと強風の影響があり、結局、クックバーンキャナルの入江に最適な場所を確保して実施されました。