Q&A

「地球環境シリーズ」講演会の最中にZoomでお寄せいただいたご質問を回答とともに掲載いたします。多くのご質問をいただき誠にありがとうございました。
※ご質問はほぼ原文どおりですが、個人情報となる部分は掲載しておりません。
また、ご質問以外にお寄せいただいたご意見は、今後の参考にさせていただきたいと思います。

Q1
地球温暖化懐疑論はなくなったのでしょうか。
A1
河宮:少数派ですが、なくなってはいません。本日のPatra研究員の講演も、「二酸化炭素(CO2)増加は人間のせいではない」という懐疑論に対する一つの回答になっています。また真鍋先生のノーベル賞も、「気候変動予測にはしっかりした科学的基礎がある」という(ある意味懐疑派に向けた)メッセージが込められていると思います。
Q2
真鍋先生の気候感度の理論と河宮先生が説明されている、産業革命以降の人為的排出量の累積値に気温が比例するという理論には整合性がないように思われるのですが、IPCC AR5で気候感度の最尤値が決まらなかったことと関係がありますか。
A2
河宮:「気候感度」の話はCO2を増やした後、平衡になるまで待った時の昇温についてのものです。CO2排出累積値と昇温の話は、CO2を排出している最中の昇温の瞬間値についてのものです。こうした事情が、「整合性がない」という印象につながっているかもしれません。AR5での最尤値の件とは、直接の関係はありません。
Q3
なぜ排出レベルは産業革命時代のものと比較されることが多いのですか。
A3
河宮:「排出レベル」は産業革命以前は、今と比べると無視できるほど小さいです。比較されるのは「排出レベル」ではなく「気温上昇」だと思います。温暖化を1.5℃や2℃以内に抑えないといけない、という目標は、産業革命以前を基準としてのものですので、このことが理由としては大きいでしょう。
Q4
地域的な二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素の濃度のばらつきと、気温上昇の地域的な違いに関係はありますか。
A4
Parta:In short, there is not so much relation of regional temperature differences with the regional CO2, CH4 and N2O emissions. This is because, CO2, CH4 and N2O have lifetimes of about 100, 9 and 120 years in the atmosphere. The winds and other meteorology in the troposphere are such that we mix CO2, CH4, and N2O in the whole globe within about 1.5 years, which produces rather uniform concentrations of these gases globally. And thus their effect on temperature change is global. (note: N2O is not to be mixed with NO2/NO).

訳:地域の気温差と地域のCO2、メタン(CH4)、一酸化二窒素(N2O)の排出量はあまり関係ありません。これは、CO2、CH4、N2Oの大気中での寿命が約100年、9年、120年と長いためです。対流圏の風などの気象条件により、CO2、CH4、N2Oは約1.5年で地球全体に混合されるため、これらのガスの濃度は地球全体でほぼ均一になります。そのため、これらのガスの温度変化への影響は地球規模のものとなります。(注:念のため、N2OはNO2やNOとは異なる分子のことです)。

Dear Dr. Patra, thank you for your prompt answer. However I still do not understand what you have explained. Your explanation tells me that the world atmosphere is rather uniform globally, but as I see the remotely sensed concentration of GHGs, their locally high concentration (patchy distribution) seems to be persistent. The local high concentration is not a one-off event but a continuing event and it cannot be blown away by the wind etc., can it?

訳:Patra先生、早速のご回答ありがとうございました。しかし、ご説明いただいた内容がまだ理解できません。あなたの説明によると、世界の大気はグローバルにはどちらかというと均一なのですが、リモートセンシングで計測されたGHGの濃度を見ると、その局所的な高濃度(パッチ状の分布)が持続しているように見えます。 局所的な高濃度は一過性のものではなく、継続的なものであり、風などで吹き飛ばされることはないのではないでしょうか。

Parta:Yes, your observations are right - we do see large gradients sometimes over the cities for CO2 (also for CH4 or N2O depending on source regions). For instance local concentrations over Tokyo city at the “surface” can be greater by 20-40 ppm than say Ogasawara Is. On the other hand if you see from satellites, say GOSAT, total column CO2 (XCO2) can be up to 3 ppm higher over Tokyo city than Ogasawara Is.

I would say XCO2 is the right parameter to look at when you are talking about temperature change due to CO2. So you have 3 ppm higher concentration, which would lead to 0.7 x (3 ppm / 100 ppm) = 0.021 degC over Tokyo city. This is a back of the envelope calculation, based on the IPCC temperature change calculation of 0.7 degC from about 100 ppm increase CO2 concentration between 1850-1900 and 2010-2019 periods.

This temperature increase will be overwhelmed by the albedo (as you know concrete or tar road absorbs very large amounts of heat from sunlight) or the cooling by the aerosol layer.

訳:たしかに、たとえばCO2(発生源の地域によってはCH4やN2Oも)については、都市部で大きな勾配が見られることがあります。例えば、東京の「地表」での濃度は、小笠原よりも20〜40ppm高いことがあります。一方、GOSATなどの人工衛星で見ると、東京都のCO2気柱平均濃度(上空までCO2濃度を平均したもの、XCO2とも呼ばれる)は小笠原よりも3ppmほど高い程度に留まります。

CO2による温度変化を語る上では、XCO2のほうがよい指標になると思います。濃度が3ppm高いことによって、東京の気温が小笠原を上回るとしても、その差は、わずか、0.7×(3ppm÷100ppm)=0.021℃となります。これは、IPCCの気温変化計算である、1850年〜1900年と2010年〜2019年の間のCO2濃度が約100ppm増加したことと、CO2による気温上昇度0.7℃を基にした概算です。0.7℃に対する0.021℃の加熱効果の違いは小さいです。

この0.021℃の加熱効果の違いは、局所的な地表面反射率の影響(ご存知のようにコンクリートや舗装道路は太陽光の熱を大量に吸収します)やエアロゾルによる冷却などと比べても小さいことでしょう。

Q5
I wonder if CH4 emission from the permafrost has been increasing recently.

訳:最近、永久凍土からのCH4排出量が増えているのではないですか。

A5
Patra:We have tried hard to detect a signal of CH4 emissions from permafrost (and other cold CH4 pools, e.g., hydrates). So far we do not have any evidence of significant emissions from permafrost, which can effect regional emission budget of CH4 or change CH4 concentration. There are, however, observations of episodic emissions from permafrosts.
The climate projection models suggest emissions of CH4 in the future from permafrost!

訳:我々は、永久凍土(およびその他の低温のメタン貯蔵形態、例えばメタンハイドレート)からのメタン排出のシグナルを検出しようとしてきました。しかしながらこれまでのところ、メタンの地域的な放出の収支や濃度の変化に影響を与えるようなレベルで、永久凍土からCH4が大量に放出されているという証拠は見出してきていません。しかし、永久凍土からの一時的な放出は観測されています。
気候予測モデルでは、永久凍土から将来的にメタンが放出されることが示唆されています。

Q6
二酸化硫黄が温度を下げるのはなぜですか。
A6
金谷:二酸化硫黄(SO2)は大気中の化学反応で「硫酸」に変化し、粒子化(エアロゾル化)します。エアロゾルは、太陽の光を跳ね返す「日傘効果」を生み出すため、二酸化硫黄の排出量が増えると、結果として、温度を下げる方向に働きます。3番目の講演でこの点について触れます。
Q7
過去に多量な排出削減をしてきた国は達成すべき削減量を減らしても良いというような努力を評価する指標が必要なのでは。
A7
河宮:これは排出削減に関する国際交渉の問題ですので、自然科学的知見をお伝えする本講演会での守備範囲を越えてしまっています。ひとつだけ、「多量の削減努力」をしてきた国だけでなく、これまでほとんど排出をしてこなかった発展途上国も削減努力は少なくてよいはずだ、といった議論もあり、公平な削減とは何か、というのは大変複雑な問題である、ということは指摘しておきたいと思います。

Patra:Just to add a little, in my personal opinion, we have to be considerate to all countries. But as in any policymaking somethings may not be fair, and that is why financial support for the countries that are at disadvantage are being discussed. For example, by adopting low-carbon economic development developing countries may leapfrog their standard of living.

訳:少し補足すると、私の個人的な意見としては、すべての国に配慮しなければならないと思います。しかし、どのような政策立案においても、公平ではない場合があります。だからこそ、不利な立場にある国への資金援助が議論されているのです。例えば、低炭素経済開発を採用したときに、資金援助があれば、発展途上国では、成長の段階で通常起こる問題を一足飛びに回避でき、生活水準が飛躍的に向上する可能性があります。

Q8
真鍋先生は大気中のCO2濃度と気温が比例する(気候感度が比例定数)とおっしゃり、立入先生は産業革命以降の人間の累積排出量が、気温が比例すると異なる理論を説明しているように思えます。この二つの理論の関係を詳しく説明してください。
A8
立入:前者について誤解があるのではないでしょうか。気候感度は(CO2濃度を2倍にし)平衡状態に達した際の気温上昇であり、そこに至る過程(過渡的応答)について比例定数として適用することはできません。また、気温上昇を引き起こす放射強制力は濃度の対数で近似され、CO2濃度が上昇するとその増加速度が緩やかになっていきます(つまりCO2濃度と気温は比例しません)。
Q9
気温上昇に伴う海面上昇による陸域/海域の形状的な変化も計算には考慮されているのでしょうか。
A9
河宮:これは入っていません。温暖化で予測されている海面上昇は21世紀末までで最大1m程度あり、この程度であれば、海陸分布には大きな影響を与えないと思われます。ちなみに、温暖化予測で用いられるモデルの解像度は100km ほどで、これに比べると海面上昇の影響は非常に小さいです。
Q10
地球物理学者の意見には現在は間氷期であり今後氷河期になっていくとのことでした。 現在議論している温度上昇は氷河期になって温度が下がるというファクターは反映されているのでしょうか。
A10
河宮:現在は間氷期にあたり、次は氷期で寒くなる番のはず、というのはその通りです。ただ、このサイクルは1万年、2万年といった長い時間をかけて気温が5-6度くらい変わるという話です。温暖化は、この100年ほどの間で(潜在的には)同じくらい気温が変わるという話ですので、直近の話としては温暖化による環境変化のほうが大きくなります。

原田補足:氷期の後の間氷期は一般的におよそ1万年程度続いた後に氷期が来ます。現在、最後に氷期の最寒期を脱してから約1万年程度たっているため、そろそろ氷期が来る時期だからということでこのようなご質問の意見をおっしゃる方がいますが、約40万年程度のサイクルでスーパー間氷期(3-4万年続く長い間氷期)がやってくることもわかっていて、現在の間氷期がちょうどそのタイミングに当たります。従って、今の間氷期はまだしばらく(あと2-3万年くらい)続く可能性があります。
Q11
累積排出量と昇温のリニアな関係について質問です。陸地・海洋の吸収量がリニアでないこと、濃度と昇温がリニアでないこと、が打ち消しあってリニアになる、というご説明でしたが、そんなにうまく偶然リニアになるんでしょうか? 実はどっちかにカーブしている、というのがもっともらしいような気がするのですが。
A11
立入:おっしゃるとおり、厳密に比例というわけではなく、「ほぼ比例」です。報告書では3000GtCまではほぼ比例と考えてよい、とされています。
Q12
この論旨の正しさは66%というとき、それはこれを認める論文と認めない論文の数の比が2:1ということですか。
A12
立入:発表中の「66%レンジ」というのは、ばらつきを持った値がその間に入る確率が66%という意味です。下から17%のところの値を下限、同じく下から83%のところの値を上限とする幅を取れば、中央値(50%のところの値)を中心にしてその間に入っている確率が66%となる範囲となります。
Q13
大気中のCO2濃度の値が大きくなるほど昇温の幅が小さくなるのは分子の数が増えすぎると太陽光が十分に当たらなくなるからですか。
A13
河宮:CO2は、地球から放射されるエネルギー(赤外線)のうち特定部分を吸収するのですが、あまりCO2が増えると吸収しきってしまう、という効果が大きいです。
Q14
オゾンのボーナスの意味が分かりません。
A14
金谷:オゾンは、大気中で、メタン等の化学反応で作られる物質です。メタンの排出を削減できれば、化学反応で作られるオゾンの量が減ってきて、オゾンの濃度が下がってきます。(オゾンも大気中の滞在時間が短く、3週間程度であり、早く濃度が下がってきます)そのことで、現在オゾンが(赤外線・紫外線吸収によって)もたらしている「昇温効果」が減少し、今と比べると「冷却効果」が生み出される、という意味です。メタンを減らせばさらに別の効果が表れる、という意味で、「ボーナス」の語を使わせていただきました。
Q15
(三枝先生の講演)スライド8のGHG排出量は「間接排出」ではないかと思います。「直接排出」ではエネルギー転換部門が最も多くなるのではないでしょうか。
A15
三枝:エネルギー転換(発電等)に伴う排出量を、その電力の消費量に応じて各部門に割り振った数値です。なお「間接排出量」については、下記解説をご参照いただければ幸いです。
https://www.nies.go.jp/gio/faq/faq6.html
Q16
カーボンニュートラルに火山活動は考慮しないのですか?
小笠原列島近海の海底火山や西の島、九州阿蘇山からのCO2排出が激しくなれば、人為的な減少などの緩和策は無駄になりませんか。
A16
河宮:火山からのCO2排出は,人間が排出するものよりも2桁くらい小さく、温暖化への寄与は無視できる程度と言われています。数千万年規模でCO2濃度がどう変化するか、という問いに関しては火山噴火によるCO2排出は重要なファクターで、学術的に興味深い研究対象です。

金谷:火山噴火は二酸化硫黄の放出を通じてエアロゾルを高い高度で増やし、むしろ冷却の方向に寄与することが多いと考えられています。
Q17
大気中の水蒸気の割合(最大4%)は、0.04%の二酸化炭素より桁違いに大きいのに、温暖化の原因として考えられていないのはなぜでしょうか。
A17
河宮:人間が排出しているのがCO2だから、という理由が大きいと思います。CO2濃度増加によって気温があがれば、その分、蒸発が促進されて水蒸気量が増えて、そのせいでさらに気温があがるのですが、その効果は温暖化予測をする際には考慮に入っています。
Q18
CCSなどで人為的に固定する量よりは桁違いに大きく焼け石に水なのではありませんか?CCSなどで地中固定するCO2量と数値的に比較していただけませんか。
A18
河宮:CCS(CO2回収・貯留)による固定量について、詳しいデータを持ち合わせておりません。想像ですが、現状で、CCSで固定されるCO2量が人為起源排出にくらべ桁違いに小さい、とか、火山噴火による排出と同程度、ということは十分あり得ると思います。温暖化抑制の方策として機能するためには、CCSによる固定量を格段に増やす必要があります。
Q19
CO2の地層貯留などは人為吸収源としてはあまり期待できないのですね。
A19
三枝:研究は進められていますが、地球全体の温室効果ガス濃度の上昇を抑えるほどに世界展開して効果を上げることが期待できるかという点では、現時点では難しいと思っています。
Q20
都市/地域ごとの発生量のモニタリングは、結局のところエネルギー消費量(使用量)で見るのとは何が違うのでしょうか。
A20
三枝:例えば、
1)エネルギー使用量からCO2やメタンなどの発生量に換算するときに、条件に応じて様々な係数(排出係数等)を使いますが、場合によってその係数に誤差が大きく含まれていることがあります(例えば排出量が急速に増大している途上国・新興国等)。そのような場合に両方のデータを比較することで誤差の程度を確認することが可能になります。

2)エネルギー消費(使用量)で見ることのできない発生量を確認することができます(例えば農業、畜産業、埋め立て地などからの排出等)。

3)国別インベントリは基本的に「年」の単位で報告されますが、都市/地域ごとの排出量のモニタリングでは従来の方法に比べて高い時間分解能で見ることができるようになると期待しています。
Q21
ティッピングポイントの議論で、
・温暖化の進行→永久凍土の融解→メタン放出→温暖化進行
・温暖化の進行→干ばつの深刻化→森林減少→温暖化進行
のような話を聞きますが、現在の気温上昇の将来予測にはこのようなメカニズムも考慮されているのでしょうか。
また、その影響の大きさはどの程度と評価されているのでしょうか。
A21
立入:(永久凍土)の地球システムモデルへの取り込みはこれから進んでいくところです。オフラインモデルや簡略モデルでの推定例は既にあり、RCP8.5(最も気温が上がるシナリオ)で0.1℃前後の影響とされていますが、まだ考慮できていないプロセスもあり、ティッピングポイントとして考慮する必要があると考えられます。
後者の干ばつは、一応現行モデルで考慮できていますが、温暖化進行時の干ばつの規模・頻度の予測精度の検証はより詳しく行う必要があるかもしれません。
報告書(表5.6)では、21世紀中に急激な変化が起こる可能性について、永久凍土融解による温室効果ガス排出については「高い」、森林減少については「低い」と評価しています。
Q22
脱炭素と地球自体が炭素原子を中心としての営みを全否定するカーボン フリーの誤訳を駆逐してカーボン ニュートラルを使うべきだと思うが如何でしょうか!?文系だから知らないと地球自体が炭素原子を中心とした有機物反応とカーボン フリーの誤訳を正したカーボン ニュートラルと同意語は講演で教えて頂いた情報が空しく思われてしまって残念で一般家庭での温室化ガス等のデータを測定が疑問に思えてきます。

ー司会者がご質問の意図を以下のとおり推測しましたー
炭素の循環は、地球上の生命の営みを維持するうえで不可欠の構成要素と思います。一部の人が使っている『カーボンフリー』という表現は、『炭素がない』地球を意味してしまい、地球上の生命の営みそのものを否定することにつながります。『カーボンフリー』よりは『カーボンニュートラル』の方が、温暖化を抑制しつつ地球上の正常な循環は維持するという人類の努力を正確に表した表現だと思いますが、いかがでしょうか。
A22
木場:カーボンニュートラルの表現が、地球上の生態系における炭素循環を表現することはその通りだと思います。「脱炭素」は、カーボンニュートラルを目指すものです。地球上の生態系における炭素循環は必須なもので、「脱炭素」は化石燃料依存から脱却してカーボンニュートラルを目指すものです。個人や家庭でできる省エネだけでは実現できませんが、消費行動や製品・サービス等の選択を変えることは、社会全体を変えることに繋がるものと考えます。
Q23
技術的開発の不確実性やコストパフォーマンスを考えると適応策の方が有利ではありませんか?緩和策はコストをかけてカーボンニュートラルを達成しても縄文海進時代のように気温上昇を止められないかも知れず、効果に不確実性が残ります。
A23
木場:どちらが有利かを分析した情報を持ちませんが、現状は適応策と緩和策の両方が必要と考えます。シミュレーション結果のように、カーボンニュートラルを達成しても気温上昇が進行する可能性がありますが、取り組まないと更に大きくなる可能性があります。

三枝:緩和策強化によって温暖化を減速させることができればそれだけ適応策のコストも削減できますので、両者は同時並行で進めることが重要と考えています。いま問題になっているのは、これまで経験したことがないスピードで温暖化が進んでいることですので。
Q24
10年に1度の大きな干ばつが来る確率が2.0℃上昇時には5.6倍になるとのことですが、これは今夏に大干ばつに襲われる確率は、今は10分の1だが、将来は2分の1になるということですか。
A24
河宮:はい、そういうことです。
Q25
カーボンコスト政策により燃料費も電気代も上昇するのに、なぜ生活の質が上がるのですか?企業にとっても、無炭素化は製品やサービスの質や付加価値を上昇させるわけではないのでESG投資も回収できないと思います。
A25
木場:単価が上がっても、機器の性能向上や生活スタイルの変化で消費量を下げることで、光熱費全体を下げられる可能性がありますし、新しいサービスや機能が普及するかもしれません。
エネルギーに着目した事業改善では付加価値は上がりませんが、脱炭素社会で必要とされる機能やサービスは事業拡大する可能性があります。そういう社会を目指せると思います。
Q26
三枝先生の示された図の中で、日本国内の家庭部門からのCO2排出量がここ10年ぐらいで減少傾向であることが示されたと思いますが、具体的に家庭内のどういったプロセスでの排出量が削減されてきたのでしょうか?普通に生活しているとあまり実感できるものではないので、市民レベルでのモチベーション向上のためにも、もう少し詳しく教えていただけますと幸いです。
A26
三枝:家庭部門からの排出の多くは、家庭で使うエネルギー(電力)を生産する段階によるものです。ごく最近は、再生可能エネルギーの増加による電力起源のCO2排出が改善したこと、省エネ・節電への取組により一人当たりエネルギー消費原単位が改善したことがあるようです。また、冬に気温が高かったりすると暖房用途でのエネルギー消費量が減少するなどの原因があるようです。
詳しくはこちらをどうぞ:
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/ghg-mrv/emissions/yoin_2019_2_6.pdf[PDF]
Q27
CO2排出量が日本は6番目に多いというのは意外なのですが、イギリス、フランス、ドイツの工業国に比べて多いのは、発電を石炭に頼っているからですか。
A27
Patra:Good observation. However, it is not that surprising considering that Japan is one of the big industrialised nations - the 3rd largest economy in the world. For instance, the population of Japan is twice than that of United Kingdom, France or Germany. The Japanese manufacturing industry is still critical for the global economy, as we all know.

訳:世界の中で日本の排出量が多いのは、さほど驚くことではないと思います。日本は、世界で3番目に大きな経済国である大きな工業国の1つですので。 たとえば、日本の人口は、イギリス、フランス、ドイツの2倍近くです。 ご存知のように、日本の製造業は依然として世界経済にとって重要です。石炭に頼る割合が極端に高いからということでもないと思います。

Q28
木場さんのご講演、私たちの暮らしのどこをどう変えるとGHG削減につながるのか具体的にわかりやすく学ぶことができました。ありがとうございました。質問は、日本人は世界の人々に比べて気候変動に対する困惑度が小さい点です。なぜこのような結果が出るのか解析されていらっしゃいますでしょうか?日本は災害大国で、地震など気候変動以外の災害などに意識が向いてしまうからかなどでしょうか。
A28
木場:解析まではできていません。
日本では一般的に、地球温暖化の問題よりも、人口減少や高齢化、経済成長等の問題が身近な問題として捉えられてきたと思います。この背景は、文化的・経済的に、気象災害を天災として受け入れてきたこと、大規模な災害であっても被害を限定的に抑えることができてきたこと、適応のための品種改良や技術改良の基礎があり進んでいること等が考えられます。
Q29
海洋が二酸化炭素を吸い続けてくれることと、酸性化で海洋の生態系が激変するかも知れないこと、がティッピングポイントに結びつかないですか。
A29
三枝:本日は私からは報告しませんでしたが、海洋にCO2が溶け込むことによる酸性化は重要な問題です。それが生態系にどのような影響を与えるかも、ご指摘の通りまだよく解明されていない点です。
Q30
金谷先生の発表で、大気中(対流圏?)のオゾンの温暖化効果や人体への有害の問題を述べられていましたが、成層圏にあるオゾン層は人体に有害な紫外線を遮断する重要な役割があるとも説明されていました。温暖化を軽減させるため、大気中のオゾンを減らすと、成層圏のオゾンが減ってしまうことはないのでしょうか。
A30
金谷:オゾン全量で見ると、9割が成層圏(高度約10km以上)に、1割が対流圏(同約10km以下)に存在します。ですので、本日お話しした、対流圏のオゾンを若干減らしても、成層圏のオゾンには大きな影響はないと考えられています。