トンガ海溝、人類初の有人潜水調査船での調査開始!

2013/10/16

谷 健一郎(海洋研究開発機構 地球内部ダイナミクス領域)

(静岡大学の道林さんの研究グループの一員として、JAMSTECの谷さんが一緒に乗船しています。道林さんが以前書いたように、4年越しの計画がやっと実現します。なぜトンガ海溝が1万メートルを超える海溝になったのか、それを調べている谷さんに書いていただきました。)

JAMSTECの谷です。

今回はQUELLE航海に相乗りというかたちで加わっている静岡大学の道林さんグループの一員として乗船しています。

我々の興味はこれまでの航海レポートを賑わせていた生き物たちではなく、トンガ海溝の地質や岩石です(といいつつも、正直に告白するとランダーで採れた巨大ヨコエビに最も興奮していたのは普段こういった深海生物を見慣れない僕らだったかもしれません)。

トンガ海溝は日本と同じく太平洋の西縁に位置しています。この一帯は太平洋の真ん中にある中央海嶺で作られた太平洋プレートがずっと西に移動してきて地球の深部へ沈んでいく場所で、南北数千キロメートルにわたって海底が深い溝(海溝)になっています。

先日道林さんが書いていたように、マリアナ海溝のチャレンジャー海淵や、今我々がいるトンガ海溝のホライゾン海淵は特に水深が1万メートルを超えるような世界で最も深い場所になっています。

我々岩石・地質グループはこの航海での潜航調査を通じて、トンガ海溝がいつできたのか、そこにはどんな岩石が出ていて、なぜこんなに1万メートルを超えるような深さになったのかを明らかにしたいと思っています。

なぜならそこには我々人類がまだ知らない、地球表層で過去に起こった大事件を解き明かすカギがあると考えているからです。

私は今回も一緒に乗船している産総研の石塚さんらと2008年から同じく太平洋西縁の伊豆・小笠原海溝で、有人潜水艇「しんかい6500」や無人探査機「かいこう7000Ⅱ」を使った地質調査を行ってきました。

その結果、伊豆・小笠原海溝には太平洋プレートが沈み込みを始めた直後に起こった特殊なマグマ活動でできた地球深部の岩石が露出していて、このマグマ活動が今から約5000万年前にあったことがわかってきました。

さらには1996年にアメリカの調査船がトンガ海溝でドレッジ調査(ケーブルに繋がった鉄カゴを船上から海底に降ろして海底の岩石をひっかいて採る調査)を行って採取した岩石を調べたところ、トンガ海溝にも同じようなマグマ活動でできた岩石が含まれていて、伊豆・小笠原海溝のものと同じ5000万年前にできたことが判明しました。

これは今から5000万年前に太平洋プレートの西側一帯が突然地球深部へ沈み込み始めて伊豆・小笠原海溝やトンガ海溝ができた可能性があるということを示しています。以前「日本沈没」という映画が話題になりましたが(リメーク版では我らがJAMSTEC全面協力で「しんかい6500」も登場しています)、そんなSFのような出来事が過去に本当にあったかもしれないのです。

しかしそれを確かめるためには、やはりトンガ海溝に地質学者が実際に潜って、岩石がどのような形で海底に露出していて、どんな順番でできたのかを直接観察して、それが太平洋プレートが沈み込んだときにできたものである証拠を探す必要がありました。

このため静岡大学の道林さんらを中心として4年前からトンガ海溝の地質調査を提案してきましたが、日本の調査船や潜水艇を遠く南太平洋までもっていくのはなかなか難しく、ずっと辛酸を舐めつづけてきました。それが今回ようやく実現したのです。

道林さんは普段からテンションが高い人ということで我々の業界では有名なのですが、この航海での彼のテンションがいつにもまして絶好調なのも、この4年間の辛い準備期間を思えば当然のことでしょう。

航海前半は北里グループのランダー調査が行われていましたが、我々道林グループは海底地形図を眺めつつ、どんな岩石がどこに出ているのかと、ずっとイメージトレーニング(妄想?)を重ねてきました。

そして日本では秋の三連休中日で沸く、13日の日曜日、ついにトンガ海溝での初潜航調査の日がやってきました。ちなみにトンガ海溝ではこれまで詳しい海底調査はほとんど行われておらず、今回の「しんかい6500」での調査が人類史上初めての有人潜航調査になります。


写真1:記念すべき今航海ファーストダイブ&トンガ海溝人類史上初の有人潜水調査船による調査です


写真2:トンガ海溝への潜航を開始する「しんかい6500」

この栄誉ある初潜航調査の潜航研究者に私を選んでくれた道林さんへの恩義と重責を胸に、ホライゾン海淵から陸側に伸びる海溝斜面を「しんかい6500」で到達できる最大水深である水深6500メートルから6050メートルまで海底面を観察しつつ、岩石サンプルを採取してきました。

調査結果について現段階では詳しくご報告することはできませんが、少なくともホライゾン海淵周辺では伊豆・小笠原海溝で我々が調査してきたのとは異なる岩石が露出していることがわかりました。採取された岩石の形成環境や起源、年代を調べることで、ホライゾン海淵がトンガ海溝のなかでもなぜ特に1万メートルを超えるような深さになったのかを教えてくれるのではと期待しています。


写真3:潜航終了後、採ってきたサンプルを確認する谷さん

我々岩石グループのトンガ海溝での潜航調査はあと3回予定されています。なんとか天候と海況が航海終了までもってくれて、トンガ海溝についてさらに新しい発見が得られることを祈っています。