ドレッジ君、君は偉かった! <10月29日レポート 追補>

2013/10/29

木本 徹(海洋研究開発機構 研究支援部)

既に10月29日のレポートは配信済ですが、「ディープ・トウ」とドレッジについて、改めてご紹介します。合わせてクラーク博士から、「ディープ・トウ」のオペレーションに対してお褒めの言葉をいただきましたので紹介させていただきます。

「ディープ・トウ」とは、カメラや計器をつけて、船からケーブルで引っ張る曳航体(えいこうたい)です。この曳航体自体には推進器や遠隔操作でサンプリングするような装置はついていません。普段トレーニングルームとして使われている部屋にモニターが設置されています。「ディープ・トウ」を動かす時には、この部屋がオペレーションルームになり、研究者はここで深海底のハイビジョン画像を見ることができます。

ほぼ同方向に設置されたハイビジョンカメラと通常解像度のカメラ、鉛直底方向と曳航の進行方向各々のカメラ、さらに、生物がいたときあるいは記録に残したい地形などに出くわした際に研究者が必要に応じてフラッシュ付きでより解像度の高い写真撮影ができるシステムです。あくまで映像により深海底を観察する装置ですが、「ディープ・トウ」には、さらに「ドレッジ」という海底に降ろして引きずることで岩石などを採集する装置も備え付けられています。29日のレポートのとおり、これでいくつかの岩石が採取されました。

「ディープ・トウ」は、曳航中は海底に接することなく運用されますが、鉛直下方向に、海底との距離の目安を得るための鎖が垂らされており、写真1の画面でも海底に接するかしないかの紐状に見えるものがそれです。海底はもちろん平坦ではないので、この先端が海底に着底することもあり、その際には、海底の堆積物を巻き上げることになり、映像は砂煙状態となります。(この点についてはクラーク博士も改良の余地ありとしています)

曳航の最後にドレッジが運用されましたが、オペレーションルームのモニターに映ったドレッジが、その体を転げたりひっくり返りながら、堆積物にまみれつつ、時には、岩の割れ目のような難所をいくつもかいくぐりながら、進んでいくけなげな姿に、「がんばれ!」「ワァオ!」と誰となく声をあげて見守ったのでした。


写真1 「ディープ・トウ」のモニター画面。左上のハイビジョンモニターに鎖が見える。


写真2 ドレッジ君の大冒険(砂塵にまみれたかと思うと、岩の段差が!!)


写真3 岩石を抱え生還したドレッジ君。ご苦労様でした。Good Job !!

Impressions of the JAMSTEC deep-towed camera system (YKDT)

Malcom Clark (National Institute of Water & Atmospheric Research)

The JAMSTEC deep tow camera system was deployed on Osbourne Seamount, the northern-most seamount of the Louisville Seamount Chain. This was undertaken in conditions that were regarded as too marginal for a SHINKAI 6500 dive. It is important that such a system can provide an alternative sampling tool rather than have the vessel completely stop sampling operations.

The camera system itself had an impressive array of cameras-2 main forward-angled video cameras, a vertical one, and a near horizontal navigation camera. These gave the scientists watching an excellent range of views to observe the seafloor. Image quality was excellent through the fibre-optic cable. The display of depth, altitude and environmental data was good, and enabled us to annotate our observations of the animal distribution. The still camera was activated by the scientists when an interesting rock formation or animal came into view. The tow was extended as progress was good, and we reached the target end-point with time in hand to continue for an extra hour. This enabled us to complete a very good photographic transect that helped to achieve our voyage objectives on the Louisville Ridge, even though we only had a single submersible dive.

The drop-down dredge at the end enabled some rock sampling which was excellent.

My only recommendation is to replace the chain with the simple altitude readout, and a pair of laser pointers. Having the chain constantly in the video field of view, as well as often dragging on the seafloor, is an unnecessary distraction to the quality of the video, and the weight can also damage sensitive environments.

Overall I thought the YKDT (YOKOSUKA DEEP TOW) was a very good piece of equipment, and contributed greatly to our data collection during the voyage.

(仮訳)
JAMSTCの「ディープ・トウ」映像システムがオスボーン海山で使われました。ここは、ルイビル火山列の最も北に位置するところです。「しんかい6500」の潜航が困難だったため使用されました。このようなシステムが、潜航不可だからといって何もできないということでなく、別なサンプリングの手段となってくれることは、とても重要なことです。

カメラ・システムは、2つの主前面ビデオカメラ、鉛直方向、水平方向ナビ用ととてもよい組合せです。これにより科学者は深海底を観察する際に良好な視野をもつことができます。ファイバーケーブル伝送なので画像の質はすばらしいものがあります。深度、高度、環境データが表示されるのもいいし、動物分布の観察に(環境条件についての)注釈を加えることができます。静止画像用のカメラは、注目する岩石の状況や動物が視野に入ったときに科学者が撮影操作できます。「ディープ・トウ」がうまく動いたので、予定を超えてさらに1時間も続けることができました。これにより、ルイビル海山では潜航は1回のみでしたが、この航海の目的を達成するための良い画像を入手することができ無事調整を終えることができました。

最後のドレッジによって、すばらしい岩石も採取することができました。

唯一気がついたことですが、鎖は、レーザーポインターの利用により簡単に高さを読み出す方法にした方がよいと思います。鎖を使うと、海底をしばしばひきずることになるとともに、ビデオ映像に映りっぱなしになってしまい、映像の質を不必要に損ねます。さらに、その重みは繊細な環境にも影響を与えうるでしょう。

全体として、YKDT(「よこすか」ディープ・トウ)はとてもすばらしい装置であり、この航海においてデータ取得に大きな貢献をしてくれたと思います。