カノパス海山がつなぐ不思議な縁?!

2013/10/29

羽生 毅(海洋研究開発機構 地球内部ダイナミクス領域)

10月29日、天候不良につき「ディープ・トウ」を使用
潜航予定日4日目です。昨日28日も、27日に引続き条件が悪く、潜航はかないませんでした。ただし、今日は「ディープ・トウ」を投入しました。搭載されたハイビジョンカメラの映像で深海の様子を観察し、その終わり間際にドレッジを使って深海底からサンプリングを行いました。その結果、岩石を回収しました。(写真2参照)

今日のレポートは、地質・岩石調査の担当として乗船しているJAMSTEC・IFREEの羽生さんにお願いしました。羽生さんは、海洋域の火山を求めて、世界中の小島を巡っているということです。腕の上がり方がまだまだ甘い!といった無体な要求により、添付した写真も日をあけてわざわざ撮り直しをお願いしたもの(腕の上がり方ぐらいしか違いはない)なのですが、にこやかに応じてくれるなど気さくな研究者です。

今航最初の潜航地点であったカノパス海山に訪れるのは私は二度目です。まわりを見渡せば海と空と雲しか見えず、何かの目印があるわけではありませんが、その海山は確かに私たちの足下にあるのです。今回私は地質・岩石調査の担当としてこの地にやってきました。ニュージーランド側の共同研究者はNIWAのリチャードさん。彼は以前研究員としてJAMSTECに数年間いたことがあり、日本通。今航でも調査はもちろんですが、和食が食べられるのも楽しみにして来たとか。

カノパス海山はルイビル海山列の中で最も古い海山の一つです。およそ7400万年前に海底で火山活動が起こり、一時は海面上までそびえ立つ火山となりましたが、その後海底に沈みました。このような海山が、ルイビル海山列には長さ4000km以上にわたって連なっています(10月24日のレポートも見てください)。興味のある方はグーグルマップなどで世界の海底地形図を見てください。太平洋には似たような海山の連なりがいくつも見つかると思います。そしてその多くは南東へ行くほど規則正しく海山の年代が若くなります。 

このような海底火山の列は、ホットスポットと呼ばれる動かないマグマ源の上を、一定の速度で海洋プレートが移動(太平洋プレートの場合には北西方向)することで作られました。そして、そのホットスポットはマントルの深い場所、おそらくマントルとコアの境界付近から上昇してきた熱い物質によって作られたことが分かってきています。私たちはマントルの深い場所のことはほとんど知りませんが、このような海底火山を形作った溶岩を調べることで、マントルの深い場所のことを知ろうとしています。

しかし一口に海山を調べると言っても、海山の溶岩を取るのは至難の業です。カノパス海山を訪れるのは2回目と書きましたが、最初は2年前、アメリカの海底掘削船「ジョイデス・レゾリューション(JR)号」の航海に参加して、カノパス海山を掘削しました。実はもともとこの海山に名前はなく、「JR号」の航海で掘削した海山に南天の一等星の名前を名付けたのでした。海山の掘削は非常に難航しましたが、海山の山頂から数百メートル掘り進んで溶岩を採取することができました。そして今回、「しんかい6500」の潜航でカノパス海山の側面の斜面を調査し、見事岩石の採取に成功しました。海山と言ってもあなどるなかれ、海底から2000m以上もそびえ立つ巨大な火山で、その火山はいろいろなタイプの溶岩でできています。海底掘削と潜航による調査で得られた溶岩を比較して、今後の研究でマントルの深い場所のことを詳しく理解していきたいと思っています。

ところで、今や海底調査の花形といえば、潜水船による潜航と海底掘削。潜水船は日本の「しんかい6500」や「ハイパードルフィン」、アメリカの「アルビン」、フランスの「ノチール」などが深海のフロンティアを切り開いてきました。一方海底掘削では、日本の「ちきゅう」、アメリカの「JR」、EUの「ミッション・スペシフィック」などの船が活躍中です。今航で調査したカノパス海山はこの二つの方法で調査したわけですが・・・「しんかい6500」が第1372潜航、そして「JR」で掘削したときの掘削番号も1372番、何とも不思議なつながりを感じませんか?


写真1 石とったどー!(羽生研究員)


写真2 ワタシノ・タカラモノデース!(NIWAのリチャードさん(Dr. Richard Wyscoczanski))


写真3 「突然お願いしてどうもすみません。なんとか、"そこ"んとこよろしくね」
「ディープ・トウ」の前に置いてあるのはドレッジ(海底で引き回してサンプルを取る)