A02-6 黒潮・親潮等海洋前線帯の大気海洋結合系における役割とその経年変動の予測可能性

研究代表者 野中正見* (海洋研究開発機構・グループリーダー)
研究分担者 碓氷典久*(気象庁気象研究所・主任研究官), 田口文明#(富山大学・教授),東塚知己*(東京大学・准教授),笹井義一*(海洋研究開発機構・主任研究員), 三寺史夫*(北海道大学・教授),小守信正*(海洋研究開発機構・主任技術研究員),佐々木英治*(海洋研究開発機構・主任研究員)
PD研究員
研究協力者 細田滋毅*(A02-5分担),美山 透*(A01-2分担),辻野博之*(気象庁気象研究所・室長), 中野英之*(気象庁気象研究所・主任研究官)
[学位:*海洋学,#気象学]

海洋前線帯とそれに伴う海洋渦(図)は、それらに対する大気応答を通じて気候形成・変動に大きく寄与し、また海洋生態系へも強く影響する。これらの理解を更に進めることが本研究課題の目的である。黒潮・親潮合流域には、強い海流に伴い水温が南北方向に急激に変化する海洋前線帯に加え、数十kmより更に小さいサブメソスケール現象を含め様々なスケールの変動が生じていることが解明されてきた。しかしながら、未だ解明の進まない部分も多くあり、本研究課題では上の目的のため、

  1. 黒潮・親潮合流域やその下流域における表層湧昇及び海洋前線帯の形成機構
  2. 海洋渦やサブメソスケールの微細現象の形成過程
  3. 微細現象を含む海洋前線帯の変動に対する、生物生産や水塊、物質循環の応答
  4. 黒潮、黒潮続流、親潮等やそれらに伴う海洋渦活動の経年変動の予測可能性と変動機構
  5. 黒潮・親潮続流等の海洋前線変動への大気循環応答と、それがさらに海洋・海氷を再強制する一連の大気海洋海氷結合系変動が十年規模変動、及びその予測可能性に果たす役割
  6. 海洋塩分の時空間分布に対する大気海洋相互作用に伴う降水の役割

以上、6つのサブテーマを緊密に連携して推進し、西部北太平洋域海洋の統合的理解を進める。これらにより、中緯度大気海洋結合系のベースとなる海洋前線帯の形成・変動の理解を更に進め、その予測可能性を明らかにする。このことは中緯度大気海洋結合系の予測可能性の理解に直結し、それに伴う大気循環変動や爆弾低気圧といった顕著現象等の予測可能性向上を目指す上で不可欠であり、領域全体の目標達成の基盤をなすものである。

具体的には、1. 湧昇及び前線帯の形成機構では、海洋前線帯形成や塩分移流に寄与する表層流速に対して海底深層の僅かな起伏が及ぼす影響を、渦解像海洋モデルに複数の海底地形データセットを与えた実験から調査する。また、海洋の非一様性を考慮したエクマン湧昇流の計算を行い、生態系や物質循環への影響、混合層深を通じて海洋前線帯に与える影響を定量化する。 2. 海洋微細現象の形成過程では、北太平洋域における水平解像度約1kmの超高解像度海洋モデルの数年積分を実施し、これまで調べることの出来ていない微細な海洋構造の形成とその海盆規模での分布に関する理解を進める。この超高解像度海洋モデルに生態系モデルを組み込み、3. 微細現象を含む海洋前線帯の変動に対する生物生産や水塊、物質循環の応答では、サブメソスケールの微細現象を含む海洋循環場、特に微細で強い湧昇や前線構造に対し、生物生産や物質循環がどう応答するかに注目した解析を進める。4. 海流と海洋渦活動の経年変動の予測可能性の評価と変動機構では、黒潮・黒潮続流等と渦活動の経年変動の予測可能性及び、予測可能性に対する初期値化の重要性を評価する。そしてそれらの経年変動と大気との相互作用を、5. 海洋前線変動と大気との相互作用とその予測可能性に果たす役割で探求する。ここでは、大気海洋結合モデルを用い、東部北太平洋域の海面風応力偏差によって導入された黒潮・親潮続流変動に対する大規模大気循環応答とそれが再強制する海洋応答を抽出しその機構を調べる。また、人工的な海底地形変更によるメキシコ湾流の流路変化に対する北半球全域における大気海洋海氷結合系の応答を調べる。上述の表層流は亜熱(寒)帯から高(低)塩分水を運び、また、海洋前線帯ではその暖水側で蒸発が盛んであると共に、その上空で発達する大気擾乱に伴う降水も多い。6. 海洋塩分分布形成機構では、これらの効果が塩分分布に及ぼす効果を人工衛星観測・現場観測データと海洋モデルを用いて総合的に解析する。

図1. 水平解像度1/30度の海洋モデルにおける表層流と渦構造。黄(緑)色が強い(弱い)海流を示し、赤(青)色が時計回り(反時計回り)の海洋渦を示す。特に日本の南東沖に細かい渦構造が卓越する様子が見られる。